プリキュアの数字ブログ

プリキュアの数字に関するブログです。数字以外の事も半分くらい。数字に公平であるため広告、アフィリエイトは導入していません。価格.comのプリキュアおもちゃ特集ページ書きました。

平成のプリキュア史(WEB版)

 

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平成のプリキュア史(WEB版)

2019年8月に刊行した同人誌「平成のプリキュア史」をWEB版として再編集したものです。同人誌版を購入していただいた方本当にありがとうございました。

新型コロナの影響で外出できない方の多い昨今、
せめてもの時間つぶしに、WEB版として公開します。

超長いです。12万文字(新書1冊分)あります。

目次から飛べる様になっているので読みたい部分だけ読んでください。
(でも、最初から順に読んでいくと、大河ドラマみたいな物語の面白さがあると思います)
WEBは読みにくいという方は「書籍版(同人誌)」or「電子書籍版」もあります。


製作者の紙媒体やWEBのインタビューから
「どの様な想いでプリキュアが作られているのか?」
そして、玩具業界紙の記録から
「結果、商業的にどのような事が起きたのか?」
をまとめた本となっています。
(作品内容の考察や感想はほぼありません)

 

(当同人誌(記事)に記載されている全ての事柄は著者kasumiの独自見解によるものであり、㈱東映アニメーション様、㈱ABCアニメーション様、㈱バンダイナムコホールディングス様その他の公式関係者様とは一切の関係はございません。)

 

目次

 

2004年「ふたりはプリキュア」

DANZEN!ふたりはプリキュア

プロデューサー 西澤萌黄(ABC)
土肥繁葉樹(ABC)
高橋知子(ADK)
鶴崎りか(ADK)
鷲尾 天(東映アニメーション)
シリーズディレクター 西尾 大介
シリーズ構成 川崎 良
音楽 佐藤 直紀
製作担当 坂井和男
美術監督 行 信三
色彩設計 沢田 豊二
キャラクターデザイン 稲上 晃

 2004年2月1日8時30分。TVアニメーション「ふたりはプリキュア」が始まりました。
 後に「平成を代表する子供向けアニメの一つ」となるプリキュアシリーズの記念すべき第一作です。(この「ふたりはプリキュア」の開始した「2月1日」は2018年に「プリキュアの日」として日本記念日協会に認定されています。)

●プリキュア以前のニチアサ

 少しだけプリキュアが始まる前の同枠を見ていきましょう。そこには「プリキュアシリーズ」に繋がっていく「東映アニメーションの歴史」が積み重なっているのです。
 日曜日の朝8時30分朝日放送の枠は、プリキュアが始まる前もずっと「子供向けアニメーション」が放送されてきました。
1984年10月に土曜日19時枠から「とんがり帽子のメモル」が日曜日8時30分枠に移動して以来、「ビックリマン」や「まじかる☆タルるートくん」等の男の子向けアニメや「ママレード・ボーイ」「花より男子」などの少し対象年齢を上げたトレンディアニメを経て、1997年「夢のクレヨン王国」からはいわゆる「女の子向けアニメーション」の展開が始まりました。

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「夢のクレヨン王国」の後、1999年から始まった「おジャ魔女どれみ」はシリーズを重ね「おジャ魔女どれみ」「おジャ魔女どれみ#」「も~っと!おジャ魔女どれみ」「おジャ魔女どれみドッカ~ン!」と4年にも渡る人気シリーズとなり、女の子に大人気のアニメシリーズとなりました。
 しかし「おジャ魔女どれみシリーズ」の後番組として始まった2003年「明日のナージャ」は内容的には高い評価を得ていたものの、商業的にはやや期待値には届かないという結果となっていました。

●ふたりはプリキュア、スタート

 それを受け、スタッフを一新し「女の子向けアクションアニメ」という新ジャンルでのスタートとなったアニメが「ふたりはプリキュア」です。
 東映アニメーションのプロデューサーが14年間同枠をずっと担当してきた関弘美さんから、それまで「キン肉マンⅡ世」「釣りバカ日誌」などを手掛けてきた鷲尾天さんへと交代し、新しいニチアサの幕開けとなりました。
 鷲尾天プロデューサー(以後鷲尾P)は「女の子向けアニメーションを作ってほしい」と言われた当時の心境をこう語っています。

鷲尾:だから女の子向け作品と言われた時はどうしたらいいのかわからなかったですね。
……吹っ切れるキッカケはなんだったんですか。
鷲尾:どうせわからないのなら自分の納得のいく形で好きなようにやるしかないという、開き直りですね。それまでの作品が残念ながら周囲の期待に応えきれていなかったので、「自分にできるのか」「この仕事は向いていないんじゃないのか」という思いはあったのです。次がうまくいかなかった場合、別の職種も考えないといけないかなとも思っていたんです。それなら一番やってみたい方と一緒にということでシリーズディレクターを西尾大介さんにお願いしました。

鷲尾 天 (プロデューサー)/Rooftop2014年2月号 - インタビュー | Rooftop

 また後年「プリキュアという作品を象徴するキャッチコピー」として数多言及される事となる「女の子だって暴れたい」という言葉はプリキュア立ち上げ時の企画書に書かれていた事が明かされています。

……「女の子だって暴れたい」と企画書に書かれていたというのは本当ですか?
鷲尾:これは本当です(笑)。コンビものやバディーものをやってみたいと思っていて、西尾さんにお願いすると決めた時点で絶対アクションで行きたいと考えていました。それを周囲に納得させるための文言なんです。女の子だからお行儀よくしなさい、おしとやかしにしなさい、スカートはきなさいとあんまり押さえつけちゃうのは、よくないなという気持ちもありました。

鷲尾 天 (プロデューサー)/Rooftop2014年2月号 - インタビュー | Rooftop

 そんな鷲尾Pがプリキュアのシリーズディレクター(東映アニメでは監督に相当する役職、以後SD)に起用したのが、西尾大介氏。それまで「ドラゴンボール」「ドラゴンボールZ」など男の子向けアクションを主に手掛けてきた演出家でした。
鷲尾Pが西尾大介氏にSDを依頼した理由を後にこの様に語っています。

鷲尾 次に番組を立ち上げるときには、どんな作品でも西尾監督と仕事をしたい、と自分の中で決めていました。『金田一少年の事件簿』など、それまでのお付き合いの中で西尾監督のものの考え方や人の巻き込み方に凄さを感じていましたから。女児向け作品立ち上げの話があったとき、「女の子ものでアクションをやりたい」とお願いしたんです。そしたら西尾監督が「女の子ものってやったことないけど、僕でいいの?」とおっしゃったので、「構いません。男女問わず派手なアクションものをやりましょう」と言いました。
[プリキュアぴあ, 2011](p84)

鷲尾 長く続いてきた『おジャ魔女どれみ』、『明日のナージャ』といった女の子アニメの枠を変えようという時に、当時たまたま私が担当して、新しい女の子アニメを考えていました。西尾大介監督と話して「変身して闘う」「派手なアクションを」といって始まったんです。自分より圧倒的に大きなものに徒手空拳で立ち向かう、その必死な感じを『ふたりはプリキュア』で描きました。

プリキュア生みの親が語るヒットの背景、時代と共に女児の自立を応援し15年 | ORICON NEWS

 この鷲尾天プロデューサーと西尾大介SDで始まった「ふたりはプリキュア」。
キャラクターデザインには同枠「夢のクレヨン王国」でキャラクターコンセプトデザイン、おジャ魔女どれみシリーズでも多くの作画監督を務めた稲上晃氏を起用。その「プリティ」でありながらも「カッコイイ」キャラクターたちは放送開始と同時に女の子に大人気を博すのです。
 上手くいくかどうかわからないから「半年で全部解決する構成」にしていた事も杞憂に終わりました。当初の「半年で全部解決する構成」について鷲尾天Pは2014年に刊行された「プリキュア新聞」でこの様に語っています。

04年の第1作「ふたりはプリキュア」は、1年やりましょうという話でした。青息吐息でいくくらいなら、物語上は半年で全部解決するくらいで始めて、できるようならその先、考えましょうと。だからプリズムストーン7つを1年で集める話が、半年で集めきっちゃったんですよ。そこから先はストーリーを作っていくのに必死で。
[プリキュア新聞2014年春号, 2014]鷲尾天インタビュー

また、ABCの土肥プロデューサーも「半年後の事は考えていなかった」と発言しています。

土肥 当初はとにかく半年を、全力投球でいきましょうという話だったので、そこから先のことは考えてなかったですね。そこまでの話が出来上がった時点で、じゃあどうしようという話になったんです。
[ふたりはプリキュアビジュアルファンブック vol.2, 2004 講談社](p88)

未来の事は考えずに、ただ開始からの半年を全力で突っ走る、という想いが、初期「ふたりはプリキュア」のスピード感に繋がっていったのだと思われます。

●ふたりはプリキュアの作品観

 さらに鷲尾Pは「ふたりはプリキュア」の立ち上げ時の作品観として「男の子の助けを借りずに女の子の力で解決する」ことを主眼に置き、それは「男の子向けヒーローの概念」を当てはめてのことだった事にも言及しています。

鷲尾 主人公がピンチになったらサポートしてくれる男性が出てくる、という女の子ものの常套の設定を排除したんです。ふたりならふたりだけで解決させようと。その点は新しいと思います。男の子向けのヒーローものって助けをよばないでしょう。それを女の子向けの作品に当てはめてみたんです。
[ふたりはプリキュアビジュアルファンブック vol.1, 2004](講談社)

この、当時の女の子向けアニメの定番であった「男の子がサポートしてくれる」設定を排除し、女の子ふたりで困難に立ち向かい解決していく設定というのも当時としては画期的だったものと思われます。美少女戦士セーラームーンにおける「タキシード仮面」の役割を設定しなかったのです。

また、アニメ中に出てくるカードなどのアイデアはスポンサーサイドからの提案であった事や、当時は、玩具会から提案のあったカードが女の子に受けるのか否定的な意見もあった事、鷲尾P側からの意見として、徒手空拳で戦うために「コミューン」を武器として描かない様に要求していたことなど、おもちゃメーカーとの様々な意見交換の元にプリキュアの骨格が決められていった事なども明かされてます。

コミューンやカードの発想は?
鷲尾 スポンサーサイドからです。カードというアイテムが果たして女の子に受け入れられるのかどうかという点をずいぶん話し合いました。どちらかというと否定的な意見の方が多かったんですよ。
[ふたりはプリキュアビジュアルファンブック vol.1, 2004]p87(講談社)

コミューンは武器にしないでくださいということだけは、こちらからお願いしました。主人公たちが武器を持つと強くて当たり前に見えてしまうでしょう。素手で一生懸命に戦う様を描いてみたいと思ったんです。だから変身の道具としては使うけど、武器じゃない。これはかなり反対されましたけどね。
[ふたりはプリキュアビジュアルファンブック vol.1, 2004]p87(講談社)

「女の子が徒手空拳で戦う」ために、玩具はあくまで変身用として、武器にはしない。こんな所にも鷲尾Pのこだわりが感じられます。

●開始と同時に絶好調

そんな製作者の思いが込められた「ふたりはプリキュア」。放送開始と同時に女の子に大人気を博しました。
その人気は玩具の業界紙「月刊トイジャーナル」(東京玩具人形協同組合)でも幾多にも渡り言及されています。

数量、金額ともに前年の「明日のナージャ」と比較しても昨対200%で推移しているといい「おジャ魔女どれみ」以来のヒットキャラクターとしての売り場での期待も高まっているという。
[月刊トイジャーナル]2004年3月号 p79

プリキュアの女児ホビー商材で売り上げを拡大し、10~12月は昨対650%、累計では265%を目指す。
[月刊トイジャーナル]2004年8月号 p104

「ふたりはプリキュア」初動のおもちゃ関連の売り上げで前作「明日のナージャ」の200%というとんでもない数値を叩き出し、また同年のクリスマス商戦では目標値として「昨対の650%」を掲げるなど、まさに破竹の勢いとなりました。「ふたりはプリキュア」は一年もたたない内に女の子向けアニメーションのスターダムへとのし上がったのです。
 当時のプリキュアは7~9歳をターゲットとしていた様ですが(月刊トイジャーナル2004年2月号p98)、想定以上の年齢層に受け入れられ小学生高学年の女の子(10~12歳)にも高い人気があった様です。

●プリキュア制作陣の「こだわり」

この「ふたりはプリキュア」という作品がいかなる思想で作られ、子供向けアニメーションとしてどんな事に気を付けていたのか、つまりは「ふたりはプリキュア」という作品を象徴づける話として、かつて雑誌「プレジデント」で「西尾大介SDのこだわり」として、下記の言及があります。
少し長いですが引用します。

プリキュア・シリーズには、鷲尾氏とタッグを組んだ西尾大介監督による独特のこだわりーーこれは基本ルールと言い換えてもいいがーーがある。
例えば顔面への攻撃はしない。水着や下着は見せないなどだ。アニメのターゲットである女児がプリキュアごっこをしたとき、無意識のうちに絵に刷り込まれていることをやってしまったら怪我をする可能性がある。そこで、顔面や腹部を殴ったり殴られたりというシーンは表立って出さないようにした。
それらはすべてガードされているのだ。ただし、ガードしたうえでふっ飛ばされ、壁にぶつかってそれが壊れるというのは、女児が真似しようと思ってもできるものではない。そういう真似のできないところで威力、ダメージ等を想像させることを意識したのだ。

また「大人が好きそうなことはやめよう」と決めた。例えばターゲットの女児がとにかく楽しく見られるのであれば、あえて水着を出さなくてもすんでしまう。夏休みっぽい雰囲気であればいいじゃないか、と考えたのだ。さらにミニスカートのコスチュームで戦えば、下着が見えてしまうのが普通だ。だが、そうならないようにレギンスを着用させ、絶対に見えないように配慮していたという。このような取り組みが奏功し、俗に美少女オタクといわれる人種に溺愛されることはなかったそうだ。これは美少女戦士セーラームーンとの大きな相違点である。
 ([雑誌プレジデント 「プリキュア」に学ぶ子どもマーケット攻略法, 2010] 2010年8月30日号、プレジデント社)

また、同時に鷲尾Pの物づくりのこだわりとして、感情の流れに嘘をつかないという「感情のリアリティ」を念頭に置き作品作りが行われていた事が明かされています。

さらに鷲尾氏が作品づくりの際に常に大事にしていることがある。それは登場人物に感情のリアリティを持たせることである。プリキュア・シリーズの場合、メーン・ターゲットは3歳から6歳であり、しばしば親も一緒に観賞している。つまり大人も見るわけで、「ここまでやられたら怒るだろう」とか、「ここだったら泣くよね」といった感情の流れの自然さが求められる。それゆえ鷲尾氏は登場人物の感情の流れの必然性、リアルさを常に念頭において作品づくりを行った。手抜きのない本物志向の追求といえよう。
([雑誌プレジデント 「プリキュア」に学ぶ子どもマーケット攻略法, 2010]2010年8月30日号 プレジデント社)

 登場人物に「感情的なリアリティ」を持たせたことも「ふたりはプリキュア」の成功の一要因だと思われます。事実作中において、なぎさとほのかという2人の主人公は、中学生らしい感情を吐露し、ぶつかり合いながらも成長を重ねていったのです。また、同時に周りを固める友達や肉親といったサブキャラクターの多彩さ、その「感情のリアルさ」も世界観の構築に一役かっていました。

 またプリキュアシリーズは女の子をメインターゲットとしながらも、同時に保護者(ここでは主にお母さん)を意識して作られている事も、同インタビューから伺えます。「お母さんに嫌われてしまったら、子供に届ける事は出来ない」。そのためには「お母さんの視点」を常に意識しているのだといいます。

「現在のトレンドというと、断定はできないのですが、やはり傾向としてはより本物志向ということです」。これは鷲尾氏が作品づくりの際に感情のリアリティを重視すると言っていたことと通底している。理由は、購買意思決定をする人は主に母親で、彼女はシビアに判定するからだという。
とりわけ昨今、お母さん基準というのが大きな影響力を持っているという。お母さんのパッと見の印象、「可愛いか、可愛くないか」で決まるというのだ。もしもお母さんが「これ、可愛くないじゃん」と言ったら、幼児はそれに素直に影響を受け、「お母さんが可愛くないって言ってるから、可愛くないんだ」と思ってしまう。それゆえ、お母さんの視点、好みはきちんと意識して、モノづくりをしなければならない
([雑誌 プレジデント 「プリキュア」に学ぶ子どもマーケット攻略法, 2010]2010年8月30日号 プレジデント社))

●水着の表現をしなかった理由

そんな保護者サイドの目を意識してか「ふたりはプリキュア」では「水着表現」の制約をしていた様です。
鷲尾Pは左記のような問題点が存在することにより、アニメ中で水着の表現をしなかった事に言及しています。

ーー番組を作っていくうえでもっとも気を使われたことは?
鷲尾 やはり”主人公が女の子“という点と、あくまでも番組の対象は子供たちなんだというスタンスです。たとえば、夏休みのエピソードとしてなぎさとほのかが海へ泳ぎに行くというのは楽しいし、絵的にも季節感が出せるでしょう。でも、そのシチュエーションを、ほほえましく観てもらえるのならばいいのですが、そうではない視点、視線を向けられるのは避けたかったんです。ABCさんともお話しまして、夏場の定番話として楽しいエピソードになるのは予想できるんですが、あえてやらないことにしたという経緯があるんですよ。
[ふたりはプリキュアビジュアルファンブック vol.2, 2004](p87)

「ふたりはプリキュア」は番組開始当初からメインターゲットを「子ども」と設定しています。そのために、子供以外から「そうではない視線」で見られるのを避けるために(「そうではない視線」とは柔らかい表現ですが、要は一部の大人からの性的な目で見られるのを避けるため)「海水浴で水着になる」というシチュエーションを、番組制作サイドの協議の末に排除していた様です。

 そしてこの「プリキュアは海でも水着にならない」はあくまで子供たちのため、という視点で始まった様ですが、それが次第に「プリキュアの規範」として定着する様になり、以後「海での水着のシーン」は2015年「Go!プリンセスプリキュア」までずっと解禁される事はありませんでした。(2009年フレッシュプリキュア!では蒼乃美希が第3話で少しだけ水着になっていますが、その時も親御さんの受けはよくなかった様です(後述:フレッシュプリキュア!の章参照)

 プリキュアはあくまで「子ども達のために作られてる事」「大人が見ても楽しめるストーリーにするが、大人に媚びることはしない」など、あくまで子供たちのためだけに作られている事に製作者サイドは常に言及しています。

加藤 大人の男として聞くんですが、プリキュアシリーズって女の子向けじゃないですか、ターゲットには大人の男性女性って言うのは入れてないんですかね。
鷲尾 うーん、主に意識するのは女児が観て喜んでくれるように、ということですね。ただ、お母さんも含めて大人が見た時に楽しめるストーリーにはなるようにしています。いわゆる子どもだましの作品は作らない。ただ、そこ(大人)に媚びるようなことはしていないですね。
加藤 あくまでもメインは子どもなんですね。僕もそういうところが好きで見ているんですよ、変に媚びてほしくないというか。
鷲尾 子ども向けだからこの程度でいいよねって言う手の抜き方は絶対にしていません。
WEB記事 プリキュアシリーズの生みの親、鷲尾プロデューサーにインタビュー編
(現在リンク切れ)

 また鷲尾Pの「プリキュア観」として「女の子らしくしなさい」「男の子だから泣いちゃダメ」というようなジェンダーロールに即したセリフは使わなかった事が語られています。

鷲尾 自由であるべきだという話は当時からずいぶんしていました。子どもに「女の子はこうであるべきだ」と刷り込みたくなかったので、台詞も気を付けました。「女の子らしくしなさい」「男の子だから泣いちゃダメ」というようなセリフはプリキュアシリーズには一切入れていません。

プリキュア生みの親が語るヒットの背景、時代と共に女児の自立を応援し15年 | ORICON NEWS

鶴崎 脚本を検討するときも「女の子は……」などというセリフや価値観を監督はかなり意識してはずしていますね。
[ふたりはプリキュアビジュアルファンブック vol.2, 2004](p87)講談社

●大ヒットとなった「ふたりはプリキュア」

 そんな「ふたりはプリキュア」。
 最終的には2004年を代表する様な「大ヒットキャラクター」となりました。玩具業界紙トイジャーナルでは「1年を通して売り場を牽引した」事や、カードコミューンが品薄となり60万個も売れた事などに言及し、2004年の好調だった商品として「ふたりはプリキュア」が取り上げられ、好調の理由として「わかりやすいストーリーで番組の人気も高い」「子供に訴求力のある玩具だった」と分析しています。

商品に見る玩具市場の平成16年
久々に女キャラ好調。ふたりはプリキュア
「ふたりはプリキュア」は女玩久々のヒットキャラクターとなり、1年を通して売り場を牽引した。「カードコミューン」はカードをスラッシュする携帯電話型の変身お世話遊びアイテム。2月の発売直後から品薄となり、販売数は11月末には約60万個に達する見込み。この他にも9,975円の「プリティコミューン」、玩菓やアパレルなど幅広く商品化されて人気となった。2004年度のプリキュア関連商品の売り上げは75億円に達する見通し。
[月刊トイジャーナル]2004年12月号 p73

2005年2月号「年末年始商戦 小売店が語る」「好調/不調だった商品とその理由」
好調だった商品
ふたりはプリキュア
・わかりやすいストーリーで番組の人気も高い
・子供に訴求力のある玩具だった
・平月から人気だったので年末も持続した
・コミューン二種類以外もよく売れ、全体的にアイテムが充実
・低年齢向けで機能も良かった
[月刊トイジャーナル]2005年2月号

 あくまで「子どもの事のみを考える」「保護者の目も意識する」「大きなお友達を視野に入れない」というこれら鷲尾Pや西尾SDの子供向けアニメに対する想い、いわば「プリキュア観」はまさにメインターゲットの大きな支持を得て「ふたりはプリキュア」は大ヒットアニメとなったのです。

 もちろんその想いは「ふたりはプリキュア」だけではなく、後に続くシリーズへ受け継がれていき、プリキュアは15年以上も続く人気シリーズへと成長していくのです。
また「ふたりはプリキュア」は東京アニメアワードのテレビ部門・優秀作品賞にも選出されるなど、まさに2004年を代表するアニメーションとなっていったのです。

●ライバルコンテンツの動き

 少し、ライバルアニメにも目を向けてみましょう。(もちろん対象年齢には若干のズレがありますが)この時期に放送されていた女の子向けアニメは「わがまま☆フェアリー ミルモでポン! わんだほう」「ぴちぴちぴっちピュア」「マシュマロ通信」など。テレビドラマ版の「美少女戦士セーラームーン」もこの時期に放送されていました(2003.10~2004.9)。
この「ミルモでポン」は三年目の「わんだほう」、ぴちぴちピッチも四月より2年目の「ピュア」になった事など、この時期の女の子向けアニメは同じキャラクターで長期放送しているものも多く、新しいスタイルの「ふたりはプリキュア」は子供達の目に新鮮に映った事もあるものと思われます。

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2005年「ふたりはプリキュアMaxHeart」

ふたりはプリキュアMaxHeart オリジナル・サウンドトラック プリキュアサウンドスクリュー!MAX!!Spark!!

プロデューサー 土肥繁葉樹(ABC)
亀田雅之(ABC)
大野逸雄(ABC)
鶴崎りか(ADK)
鷲尾天(東映アニメーション)
シリーズディレクター 西尾 大介
シリーズ構成 川崎 良
音楽 佐藤 直紀
製作担当 坂井 和男
美術監督 行 信三
色彩設計 沢田 豊二
キャラクターデザイン 稲上 晃

●プリキュア2年目、スタート

 前年「ふたりはプリキュア」の好調を受け2005年もプリキュアは続投となりました。前作で大人気を博した2人の主人公「キュアブラック(美墨なぎさ)」「キュアホワイト(雪城ほのか)」に新キャラクター「シャイニールミナス(九条ひかり)」を加え「ふたりはプリキュアMaxHeart」の放送が開始します。

当時は「人気が出たアニメーションはキャラ、世界観を同じにして続編が作られる」のが普通の事だったのです。

シリーズ延長が決まった時期はいつごろだったのでしょうか?
鷲尾 去年の梅雨入りのころにシリーズ延長の話が出てきましたので、これは比較的早い時期だと思います。そのあたりから実際に延長が可能なのか、各方面へ打診をして正式にプレゼンテーションを始めたのが秋口です。
[ふたりはプリキュアマックスハート ビジュアルファンブックvol.1, 2005]p82講談社

「ふたりはプリキュア」延長の打診があったのが梅雨の時期(2004年5月~6月)で、正式なプレゼンを始めたのは秋口だったとの事で、夏前には「続編を作る」という事はほぼ決まっていた様です。続編が作られることとなったために、初代「ふたりはプリキュア」のラストシーンも変更された様です。

延長に関して、率直にどう思われましたか?
鷲尾 大変光栄でうれしかったのですが、困ったなあと(笑い)。1年間突っ走ることしか考えてなかったので、どうしようか、というのが最初の印象でした。当初用意していたラストシーンも使えなくなってしまいましたし、それを含めてどうしようかということでしたね。
[ふたりはプリキュアマックスハート ビジュアルファンブックvol.1, 2005]p82講談社

●「マックスハート」の意味

 また「マックスハート」という名前が付けられた経緯についても、ビジュアルファンブックVol.1内にてその苦労が語られています。

鷲尾 3人だから『ふたりはプリキュア』“トライアングル”がいいんじゃないかとか、“プラスアルファー”とか“100%”とかさまざまな候補があがりました。モチーフがハートだったので、そういったフレーズを入れたいとずっと話してたんです。期日ギリギリになって、とにかく全力感とか、情熱であるとか、思いのたけが詰まっていることを表現したい、それをハートという言葉に詰め込みたいんだけど、ハートだけじゃ弱いとみんなで考え抜いて、最後の最後に出てきたのが『Max Heart』(マックスハート)でした。
ギリギリ限界のところで決まったタイトルなんです。結果として言葉としても勢いがあるし、意味合いも強いのですごくインパクトのあるいい言葉だと思います。「全身全霊」とか「ハートという言葉の最上級」という意味で付けたんですが、スタッフからは「“いっぱいいっぱい”って意味でしょ?」って言われましたけどね。
[ふたりはプリキュアマックスハート ビジュアルファンブックvol.1, 2005]p82講談社

「マックスハート」という言葉は「全身全霊」や「ハートという言葉の最上級」という意味で付けられたものの様です。(「いっぱいいっぱいだったからマックスハート」というのはあくまで冗談の範疇の模様です)

「ふたりはプリキュアMaxHeart』」ではキュアブラックとキュアホワイトの2人は前作のコスチュームの基本デザインを踏襲しています。しかしキュアブラックの「へそ出し」が無くなったのは、子供がキャラリート(衣装型のおもちゃ)を着た際に「お腹が冷える事」を懸念したための様です。そういったところにも子供への配慮が見受けられます。

鷲尾 「ふたりはプリキュア」のキュアブラックのへそ出しコスチュームはすごくかわいいので、デザインを決めるときにも「それでいこう!」という話になったんです。ただ、子どもたちがキャラリートを着たときにお腹を冷やすんじゃないかという話が出て「ふたりはプリキュアMaxHeart」ではおへそを隠したんです。
[プリキュア シンドローム!〈プリキュア5〉の魂を生んだ25人, 2012, p233]幻冬舎)

●開始当初は、引き続き絶好調

 そんな「ふたりはプリキュアMaxHeart」も番組開始と同時に出だしは順調。
おもちゃ関連でも変身アイテム「ハートフルコミューン」が販売開始直後から品薄となる程の人気商品となりました。玩具業界誌でも「抜群のスタート」と言及されます。

昨年の実績から期待を集めていた「ふたりはプリキュアMaxHeart。「ハートフルコミューン」は抜群のスタートを切り、番組開始直後から品薄に。
(月刊トイジャーナル2005年3月号 p67)

 新キャラクター「シャイニールミナス」関連のおもちゃも人気を博し、売り上げ的にも作品人気的にも女の子の大きな支持を得ることとなります。
シャイニールミナスは鷲尾Pに「4~6歳女児の視聴率の上昇に貢献」していた事にも言及されるなど、子供にも人気のキャラクターとなっていた様です。

ルミナスが登場して、視聴者の反応はいかがですか?
鷲尾 今年になってから、4~6歳女児の視聴率が急上昇したんです。平均して45%、最高で62.5%と、これは驚異的な数字です。これは前のシリーズでのプリキュアふたりの認知度が上がったことと、さらにルミナスが登場したこともかなり大きく付与したと思っています。
[ふたりはプリキュアマックスハート ビジュアルファンブックvol.1, 2005](p83 講談社)

 4月にはプリキュア初の映画「映画ふたりはプリキュア Max Heart」も公開され、興行収入が8億5千万となるなど、まさに順風満帆の二年目スタートといったところです。

 しかしそんなプリキュアの好調を、もちろん他社のライバルコンテンツ達が見逃すはずもありません。この時期には、続々と各方面からの「女の子向けコンテンツ」への参入が始まったのです。

 女の子に絶大な人気を誇る様々なキャラクターIPを抱えるサンリオが2005年4月より森脇真琴を監督に据えたアニメ「おねがいマイメロディ」をスタートさせ、また同4月はプリキュアの先輩枠である「おジャ魔女どれみ」を手掛けた佐藤順一氏が総監督の「ふしぎ星の☆ふたご姫」の放送が開始。プリキュアに触発されたのか、女の子向けアニメ市場がどんどん活発化していきます。

●商業的には後半からやや失速

 そしてこの2015年は「アニメ業界」「おもちゃ業界」以外から後に「プリキュアを最も苦しめる」事となるコンテンツが女の子の間で大旋風を巻き起こしていました。
「おしゃれ魔女ラブandベリー」です。
 2004年10月からアミューズメント施設で稼働を開始していたこの女の子向けカードゲームは、瞬く間に女の子の間で空前の大ブームを巻き起こしたのです。
 この強大なコンテンツは「ふたりはプリキュアMaxHeart」の後半を、そして何より翌年のプリキュアを大きく苦しめることとなります。

 12月に公開された映画「ふたりはプリキュアMaxHeart2雪空のともだち」は公開スクリーン数を前作よりも増やしたものの、興行収入が5.8億と4月に公開された第1作の8.5憶円から2.7億減(68.2%)とやや落ち込みを見せることとなりました。

 「ふたりはプリキュアMaxHeart」は滑り出しこそ順調な推移を見せましたが、「おしゃれ魔女ラブandベリー」やライバルアニメの台頭などにより、後半はやや失速していたのです。
 玩具業界紙でも「おしゃれ魔女♡ラブandベリー」の好調、年末商戦ではバンダイの主幹事業の「キャラクターもの」が昨対75~85%と不調だったことが報じられています。

夏休み商戦速報
「おしゃれ魔女♡ラブandベリー」の人気が目立ち「甲虫王者ムシキング」などと併せて業務用ゲームや自販機の売り上げが売り場に欠かせないものになっているのも今商戦の特徴。GMSなどでも売り上げのうち10~15%はこれらで稼いでいる模様だ
[月刊トイジャーナル]2005年 9月 p82

年末年始商戦総括
デピュティゼネラルマネージャー 澤畑 英雄氏
当社の基幹事業であるテレビキャラクターが、男児・女児合わせて昨年対比75~85%程度と、お客様の期待に沿えなかったことが一番の反省点です
[月刊トイジャーナル]2006年2月 p72

2005年、同じ世界観、同じキャラクターでスタートした「ふたりはプリキュアMax Heart」。
 新キャラクター「シャイニールミナス」の人気もあり前半は好調に推移していたものの、夏以にライバルに勢いが出てきて勢いが若干失速してしまった様なのです。
そしてその「小さな陰り」は、翌年になって更に悪い方向へと進んでいくのです。

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2006年「ふたりはプリキュアSplash☆Star」

ふたりはプリキュア Splash☆Star ☆ボーカルベスト☆

プロデューサー 大野逸雄(ABC)
亀田雅之(ABC)
鶴崎りか(ADK)
鷲尾天(東映アニメーション)
シリーズディレクター 小村敏明
シリーズ構成 長津晴子→成田良美
音楽 佐藤直紀
製作担当 坂井和男
美術デザイン 行信三
色彩設計 沢田豊二
キャラクターデザイン 稲上晃

●キャラを変えての3年目

 2006年2月。3年目に入ったプリキュアは「ふたりはプリキュアSplash☆Star」が始まります。「ふたりはプリキュア」というタイトルだけ残してキャラクターを一新させた新シリーズです。女の子向けアニメーションで「タイトルだけ残してキャラクターを一新する」というのは前例がなく、当時かなりの議論が行われた様です。
「なぎさ」と「ほのか」と「ひかり」とプラスアルファで3年目、ではなく全く新しいキャラクター「キュアブルーム(日向咲)」と「キュアイーグレット(美翔舞)」にした理由を、後に鷲尾Pはこんな風に語っています。

鷲尾 たまたま1年目に受け入れてもらったので、2年目は必然的に継続し、それも受け入れられました。通常だと3~4年継続して、失速したら別番組を立ち上げるのがこれまでの流れの中で、3年目をどうするのか議論になりました。私は、毎年新しい子が作品の世界に入ってこられるようにしたかった。“続編”は人間関係が複雑になって、途中からは入りづらくなってしまう。
そこで、毎年変わって、新しい子どもが毎年楽しんでくれているものとして参考にしたのが、東映のスーパー戦隊シリーズや仮面ライダーでした。タイトルは一緒だけど、中身は毎年ちがうことをきちんとやっている。あれを女の子のコンテンツとして形にしたい。そうして生まれたのが3年目の『ふたりはプリキュアSplash☆Star』です。

プリキュア生みの親が語るヒットの背景、時代と共に女児の自立を応援し15年 | ORICON NEWS

 「続編」を続けていくと、新しい子供が入ってこられなくなってしまうので、毎年新しい子供たちが入ってこられる様にスーパー戦隊や仮面ライダーを参考に「新シリーズ」という形にした事や、

鷲尾 「ブラックとホワイト、ルミナスを残して番組を継続するという従来通りの女児アニメの継続の仕方も選択肢としてありました。だけど、それではいずれ、数年後に先細りになるかもしれない。そこで『プリキュア』というタイトルを残して世界観とキャラクターを全て変えよう、と関係者と相談して判断したんです。
[プリキュアぴあ, 2011]p85 ぴあ

 プリキュアを「シリーズとして」育てていくためには従来の「前作のキャラクターに新しいキャラクターを追加していく方式」では数年後に先細りになってしまう(つまり、数年後に終わってしまう)懸念もあった様です。キャラや世界観の一新は「プリキュア」をシリーズとして育てていくための決断だったのです。

●商業的な苦戦を強いられる

 この「ふたりはプリキュアSplash☆Star」。そのストーリーやキャラクターは今でも歴代で最も好きだというファンの方も多いシリーズなのですが、商業的には放送開始当初から苦戦を強いられていました。玩具業界紙トイジャーナルでは、「変身おもちゃの販売数が半減した」事が明かされています。

ミックスコミューンの販売数が昨年のハートフルコミューンの半分。
 [月刊トイジャーナル]2006年4月号 p87

「Splash☆Star」はビジネス的に落ち込んだと聞いていましたけど、それはおもちゃも?

渥美 一番顕著に表れていたのがおもちゃです。
 [プリキュア シンドローム!〈プリキュア5〉の魂を生んだ25人, 2012]p145(幻冬舎)

 後に鷲尾Pは「女児アニメ史上はじめての試みに疑問符が付きつけられた」と言及しています。

鷲尾「Splash☆Star」はたくさんの愛情を注ぎこんだ作品でした。いまでもキャラクターを含めストーリーも大好きです。しかし、残念ながらビジネス的には「MaxHeart」よりも落ち込んでしまった。タイトルを残してキャラクターをフルモデルチェンジする、という女児アニメ史上はじめての試みに疑問符が付きつけられたわけです。
 [プリキュア シンドローム!〈プリキュア5〉の魂を生んだ25人, 2012]p35(幻冬舎)

 プリキュアは3年目にして最初の試練が訪れます。関連商品の売れ行きが思った以上に宜しくなかったのです。これには2つの理由があったものと思われます。

●「おしゃれ魔女♥ラブandベリー」

 最も大きな要因は、前年から引き続き大ブームとなっていたセガの女の子向アーケードカードゲーム「おしゃれ魔女♥ラブandベリー」です。

 ムシキングなど男の子向けに展開していたアーケードカードゲーム市場が、「おしゃれ魔女ラブandベリー」でブルーオーシャンであった「女の子向けカードゲーム」に進出。その革新性から一躍大人気コンテンツへとなりました。
 カードを選び、オシャレをしてダンス遊びをするという「女の子の大好き」がギュっと詰まったこのゲーム、アミューズメント施設には多くの女児が行列を作り、各地で開かれる大会にはたくさんの女の子が集まり大盛況となりました。
 最終的にはカード出荷枚数が2億6000万枚を超える大ヒットコンテンツとなっていたのです。

鷲尾「その中でも「ラブandベリー」は「ふたりはプリキュア」放送開始から約半年後の二〇〇四年十月からスタートして、あっという間に情報番組やニュースにとりあげられるくらいダントツの人気になりました。女の子のニーズをよくとらえていたし、非常によくできていたと思います。
 [プリキュア シンドローム!〈プリキュア5〉の魂を生んだ25人, 2012]p75(幻冬舎)

 この「おしゃれ魔女ラブandベリー」の大旋風は、プリキュアを大きく苦しめる事となります。
 家庭で子供に使用する金額は一定である以上、それまで女の子向けNo1コンテンツであったプリキュアが大きく影響を受けたのです。
「ふたりはプリキュアSplash☆Star」はKIDS視聴率等を見ても沢山の子供が見ていたのも事実で、決して子ども人気が無かったわけではありません。
ただ、誕生日やクリスマスなどで子供がプレゼントを買ってもらう時は、どうしてもその時の「1番」が選ばれるため、二番手になってしまった「スプラッシュスター」のアイテムが選ばれにくくなっていたものと思われます。

 この「おしゃれ魔女ラブandベリー」と当時子供に大ブームとなっていた「ニンテンドーDS」が家庭での「子供への支出」を大きく押し上げ、その影響で結果プリキュアはトイホビーの売り上げを大きく落とす事となりました。

また、この年は4月より、小学館ちゃお系列の「きらりん☆レボリューション」の放送が開始。特に小学生高学年の女の子に大きな人気を博していました。

マーケットレポート
女児キャラクターは総じて苦戦を強いられているが~
きらりん☆レボリューションが好調。オシャレ魔女ラブandベリー商材が人気。キャラクターが大幅ダウン。上昇の手がかりが見つからない。
[月刊トイジャーナル]2006年7月

 

(当地)プリキュアは下降線。きらりん☆レボリューションのきらりん☆ミルフィーカードが良く動いた。
[月刊トイジャーナル]2006年10月

「おしゃれ魔女ラブandベリー」の大人気、それに次いて「きらりん☆レボリューション」の台頭、ニンテンドーDSブームなどの影響を受け、「Splash☆Star」は視聴率や、関連商品の売り上げを大きく落とす事となりました。

 玩具業界紙トイジャーナルでは年末年始商戦の総括として「不調だった商品」にスプラッシュスターが記載されるにまで至り、不調だった主な要因として「魅力が無くなってきた」「ブランド力の低下」「作品に変化がない」などが挙げられていました。

年末年始商戦総括
年末年始商戦 好調だった商品、不調だった商品

(不調だった商品)
ふたりはプリキュアSplashStarシリーズ
・女児の玩具離れが目立った
・子ども達にとって魅力がなくなってきたのかも
・シリーズ長期化によるブランド力の低下
・作品自体に変化がなくなってきている

[月刊トイジャーナル]2007年2月 p94

 玩具業界紙に記述のある様に、消費者に「作品に変化がない」と判断された事も、「Splash☆Star」売り上げ低下の要因の1つであるものと思われます。活発な女の子とおとなしめの女の子2人がプリキュアに変身する、というフォーマットを変えなかったことが、逆に消費者に「変化がない」と判断されてしまったのです。

 ただ、実はスプラッシュスターは、バンダイのトイホビー売り上げとしては、「当初から昨年の計画値80%」としてスタートしていました。つまり番組開始当初から苦戦が予測されており、結局その下馬評を覆すことが出来ずに終了してしまった形となりました。

「おしゃれ魔女ラブandベリー」「きらりん☆レボシューション」などの他コンテンツに終始押されっぱなしでしたが、計画値を見る限りそれはある程度は「想定の範囲内」であり、決して「突然売れなくなった」という訳では無いのです。
しかし、プリキュアも商業である以上「視聴率が悪い」「関連商品の売り上げが良くない」事は、大きな決断を迫られる事となります。東映アニメーション社内では「次が失敗したらプリキュアシリーズが終わる」というレベルにまで話は進んでいた様です。

●次作をどうするのかの決断

そうなってくると来年のプリキュアをどうするのか・・?
「Splash☆Star」2期でいくのか、全く新しいものをつくるのか?
ビジネス的な不調が判明するまでは、バンダイサイドも鷲尾Pも「Splash☆Statの2年目で行くつもり」であったことが当時の文献からうかがい知れます。(引用文中の高橋氏は当時のバンダイの女児キャラクター玩具担当。)

鷲尾 シリーズ構成の成田(良美)さんにも二年目のプロットをつくってもらっていました。

高橋 私たちも、翌年も「Splash☆Star」でいくつもりでいました。でもこのままいくと結構苦しくなるのではないかと……。どうすればよいかとても迷ったし、考えました、結論としては、できるだけ正直に状況をみなさんにご相談するのがよいのではないかと……。
[プリキュア シンドローム!〈プリキュア5〉の魂を生んだ25人, 2012]p146(幻冬舎)

 そしてビジネス的な不調が判明してからは、このまま2期に入れば「シリーズが終わる」事も覚悟しないといけなくなった事など、当時の文献資料では、関係各所で多くの葛藤があったことが語られています。
 この時鷲尾Pは「『Splash☆Star』は2年続くという思い込み慢心と油断があった」と振り返っています。

鷲尾 私は『Splash☆Star』の2年目を考えていたんですが、さまざまな周辺状況の中、1年で終わらざるを得なくなってしまった。私自身、この作品も2年続くと思い込んでいた慢心と油断があったと思います。でも、内容としては充実した良い作品をみんなでつくったという自負は今でもあります。
[プリキュアぴあ, 2011]p85

 そんな中、プリキュア製作側が出した答えとしては「Splash☆Star」の2期を取りやめ「新しいプリキュア」にする、という決断でした。

亀田「Splash☆Star」は番組放送開始の二月から夏くらいまではよかったんですが。その後ちょっと視聴率的にも伸び悩んでいた。

鷲尾 そんな周囲の状況を受けて、社内では「来年はキャラクターを変更します」という報告をしたら当時の上司から「もう1年やってうまくいかなかったら「プリキュア」は終わるだろうし、鷲尾君もこの枠から離れることになると思う」と言われました。
私は「わかりました。ただ四年目が子ども達に受け入れられて継続できたら五年目まではやりたいです」と話しましたね。「プリキュア5」は社内的にも背水の陣でした。
[プリキュア シンドローム!〈プリキュア5〉の魂を生んだ25人, 2012] p76(幻冬舎)

 そして翌年、5人のプリキュアが登場する「Yes!プリキュア5」が始まるのです。

「Splash☆Star」はラブandベリーなどに押され、確かに商業的には苦戦していたのかもしれません。ただそれは決して「作品が悪かった」わけでは無いのです。
「キャラを一新してシリーズを続ける」という英断は、このスプラッシュスターより始まったものです。仮に3年目が「ふたりはプリキュアMaxHeart」の3人が続投するセーラームーン方式だったとしたら、プリキュアシリーズは16年も続いていなかったかもしれません。そういった意味でもスプラッシュスターはプリキュアの中でも革新的なシリーズだと僕は思うのです。

●手のひら太陽向けて

 僕は「Splash☆Star」の後期エンディング「ガンバランスdeダンス」の作詞に込められた、作詞家青木久美子さんのこの想いが大好きなのです。少し紹介しておきます。

青木 大切な身内が病気で亡くなっているんです。「Splash Star」の歌作りのころは闘病中で、仙台と東京を行ったり来たりして看病している中でした。
エンディングの「ガンバランスdeダンス」には、病床にいる身内や困難の中にいる人への応援の想いが投影されています。「ポジティブ」と「ネガティブ」の真ん中にいることの大事さとか、太陽を浴びることがどんなに健康的なのかってこと、「肩の力を抜いて「明るくなれたらいいね」ってメッセージを咲ちゃん舞ちゃんのイメージで書きました。

声優さんが泣いて歌えなかったことがあって「プリキュア」作詞家対談2・青木久美子×只野菜摘 - エキサイトニュース

 「手のひら太陽向けて」という短いフレーズに込められた「太陽を浴びることの大切さ」、「明るくなれたら良いね」という困難な状況にいる人たちへのメッセージが「ガンバランスdeダンス」を名曲にしているのだと思います。

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2007年「Yes!プリキュア5」

Yes!プリキュア5 Vocalアルバム2 ~VOCAL EXPLOSION!~

プロデューサー 亀田雅之(ABC)、麻生一宏(ADK)、鷲尾天(東映アニメーション)
シリーズディレクター 小村敏明
シリーズ構成 成田良美
音楽 佐藤直紀
製作担当 坂井和男
美術デザイン 行 信三
色彩設計 澤田豊二
キャラクターデザイン 川村敏江

●始動、Yes!プリキュア5

 2006年に「おしゃれ魔女ラブandベリー」「きらりん☆レボリューション」などのライバルコンテンツの台頭により関連商品の売り上げが大きく落ち込みを見せ、初めての危機が訪れたプリキュアシリーズ。

 そんな中「Yes!プリキュア5」の放送が開始します。前述の様に「Splash☆Star」の2年目の予定を変更し、「5人のプリキュアが登場する」というこれまでのプリキュアシリーズから大きく路線が変更した作品です。

鷲尾 挑戦的アプローチだったんですが、その『ふたりはプリキュアSplash☆Star』当時は、カード筐体でファッショナブルな着せ替え遊びができる女児向け作品が大流行して、そちらにほとんど流れてしまったんです。もう一年「ふたりはプリキュア Splash☆Star」の続編をやってプリキュアを閉じるか、もう一回新たな挑戦をするのか、選択を迫られた時に開き直って「ふたり」を外して5人のチームにしたのが『Yes!プリキュア5』です。これが幸いなことに子どもたちに受け入れられました。現在の流れは、『5』からの系譜ですね。

プリキュア生みの親が語るヒットの背景、時代と共に女児の自立を応援し15年 | ORICON NEWS

 2007年、プリキュアシリーズはこの「Yes!プリキュア5」で驚異的な復活を遂げるのです。
「ふたり」ではなく「5人」とした理由を鷲尾Pは「コンビではなくチームでやりたかった」と説明しています。

やっぱり「ふたり」で息詰まったというのがあったんですよね。……ならばコンビではなくてチームでやってみたい。そこが一番大きな理由です。(鷲尾)
[『Yes! プリキュア5 BluerayBOX Vol.2』付属作品解説ブックレット, 2013]

●プリキュアが大きく変わる

「Yes!プリキュア5」放送開始前には、バンダイのトイ事業統括部営業第二チームマネージャー・中山健一氏がこの様なコメントを業界紙でしています。

バンダイ トイ事業統括部営業第二チームマネージャー・中山健一氏
「プリキュア」を10年続く女児キャラクターの定番として育てることは、シリーズ第一作目をスタートさせる時点での方針でした。
4作目となる新作は前作「ふたりはプリキュアSplashStar」の反省点を踏まえて、番組のコンセプトから商品展開まで全てを変えていますが、プリキュアのブランド名だけは変えていません。
[月刊トイジャーナル]2007年 2月号

「プリキュア」を10年続く定番コンテンツへ育てることはシリーズ第一作目からの方針」だった事、Yes!プリキュア5は「番組のコンセプトから、商品展開まで全てを変える」事、そして「プリキュアというブランドは変えない」事などが明かされました。
バンダイサイドから「プリキュアは開始当初から10年続く定番へと育てる予定だった」事が言及された事にも驚きましたが、何よりもこの時に「プリキュアというブランドは変えない」という明言がありました。これはつまり「プリキュアシリーズを、この先もずっと続けていく」という宣言なのです。

そして「プリキュアシリーズ」を続けていくために、「Yes!プリキュア5」では、番組のコンセプト(「ふたりは」以外の展開を行う)から商品展開(おもちゃなどの「見せ方」や「売り方」まで)を全て変える」事にした、という事ですね。
つまり「Yes!プリキュア5」で「プリキュアシリーズは大きく方向転換しますよ」というバンダイからの宣言です。

また、玩具メーカーを始め、雑誌社や音楽メーカーなどが一同に会する「番組制作委員会」的なものも今作より作られ、その体制を盤石なものへとしていったとの事です。

そしてなんとか「もう1年やってみましょう」となったときに、コラボレーションの重要性を痛感したそうだ。
プリキュアに関係していた玩具メーカー、雑誌社、音楽メーカーが危機感を共有し、なんとかしなければいけないということで「番組制作委員会」的なものの組織化に動いたというのだ。
([雑誌プレシデント 「プリキュア」に学ぶ子どもマーケット攻略法, 2010] 2010年8月30日号、プレジデント社

そんな「Yes!プリキュア5」。東映アニメーションのプロデューサーは「Splash☆Star」から引き続き鷲尾天氏、シリーズディレクターも続投の小村敏明氏、シリーズ構成も前作14話以降でシリーズ構成を務めた成田良美氏が続投となり、前作から大きな変化はありませんでした。ただキャラクターデザインには川村敏江氏を起用したことにより、プリキュアのイメージから作風までを大きく変えていくこととなりました。

●スタートダッシュに成功

そんな新体制の元に始まった「Yes!プリキュア5」。個性あふれる5人ものプリキュアが登場し、川村敏江さんデザインの華やかなキャラクターと「夢を追いかける少女たち」のストーリー、中世を意識したかの様な街並み、敵サイドの物語性などは子供達の心をガッチリつかみ、放送開始と同時に大人気となりました。

「Yes!プリキュア5」も2週目は前週比180%と良い動きを示した。
[月刊トイジャーナル]2007年3月 p69

2007年バンダイ夏季商戦ベストアイテム!
営業第二チーム 戸口淳
2月の立ち上げより、前例がない右肩上がりの販売目標で推移しています。夏の売り上げ目標はずばり対比300%。絶好調のピンキーキャッチュとドリームコレットを核に、「武器2種類」を売って売って売りまくる商戦を予定しています。
月刊トイジャーナル]2007年7月

「Yes!プリキュア5」の人気はすさまじく、立ち上げから「前週比180%」や「前例がない右肩上がりの販売目標」「夏の売り上げ目標は昨対300%」など景気の良い言葉が飛び交いました。
 春先からGWにかけては、変身アイテムを始めとしたプリキュア関連商品がおもちゃ屋さんの棚から消える程の人気となっていた様です。後にバンダイの関係者が「GWに商品が行きわたらなくて流通に迷惑をかけた」とまで発言しています。

商品MDに関しましては、昨年の春~GW商戦にかけて欠品を出してしまい、夏休み商戦でようやく商品が揃うという形になってしまい、流通の皆さまにご迷惑をおかけしてしまいました。
[月刊トイジャーナル]2008年 2月号

またクリスマスシーズンには昨年対比500%、といったとんでもない目標も立てられました。当時のプリキュア5の絶好調が伺えます。

十~十二月の年末商戦の目標は「昨対比500%」といった壮大なもので、ハウスアイテムの「DXおしゃべりプリキュアライフ」「おしゃべりいっぱい!おみみフリフリミルク」を十月下旬に投じる。
[月刊トイジャーナル]2007年10月

●データカードダスも始動

 また、スプラッシュスターを苦しめた女の子アーケードカードゲーム市場を見渡すと、この頃は隆盛を誇ったアーケードカードゲーム「おしゃれ魔女ラブandベリー」は3年目に入り人気はやや下火となっていて、代わりに当時アニメも大人気となっていた「きらりん☆レボリューション」のカードゲームが大人気となっていました。
そんな中プリキュアも2007年11月からはアーケードカードゲーム「プリキュアデータカードダス うたって!プリキュアドリームライブ 〜スピッチュカードでメタモルフォーゼ!?〜 1stライブダス」の稼働が開始。女の子向けカードゲーム市場に追随します。
 このプリキュアのアーケードカードゲームは比較的難易度が低く幼稚園~小学生低学年にも遊びやすい設計となっていた事や、排出されるカード(書下ろし)の魅力などにより、小学生低学年を中心に大人気を博すこととなりました。

女児向けカードゲーム市場で遅れをとっていたプリキュアは、このカードゲームの市場参入により「アニメーション」「おもちゃ」「アパレル等の関連商品」「家庭用携帯ゲーム機」「カードゲーム」とあらゆる「女の子向け」において隙の無いコンテンツ展開を見せる事となりました。

 また「Yes!プリキュア5」はアニメーションの内容的にも5人ものプリキュアが登場し、華やかで個性的なキャラクターが生き生きと活躍し、その5人の掛け合いの面白さなどが子どもたちに大きな人気を博したのです。
自分の好みのキャラクターがいて応援しやすい事や「夢に向かって進む女の子たちの物語」は多彩なサブキャラクターの魅力も相まって多くの名作回を生み、子供だけではなくたくさんの大人たちの共感を得たシリーズとなりました。

登場キャラクターの妖精(かつイケメン男性)のココとナッツは親御さんを始め大きなお友達にも大人気で、後にキャラクターCDも発売される程の人気となっていました

●ミラクルライトの意味

 また、今ではすっかり恒例となっている「映画館で小さなペンライト型おもちゃ(ミラクルライト)が子ども達に配られ、劇中でそれを光らせて応援する事」が始まったのも「映画 Yes!プリキュア5 鏡の国のミラクル大冒険!」からでした。
この映画のプロデューサーであり、ミラクルライトの発案者である梅澤淳稔氏はミラクルライトが生まれた経緯として「子ども達が飽きない様に」「子どもたちの遊ぶ場をつくりたかった」と語っています。

梅澤 はい。幼い子どもたちに70分の映画はちょっと耐えられないんでしょうね。途中でザワザワしたり、遊びだしちゃう。ちょうど、その次の映画「鏡の国」のプロデューサーをやることになったので、どうせだったらいままでと違うことをやりたかった。劇場で子どもたちの遊ぶ場をつくろうと思ったんです。

娘が見た父親の涙は〈映画「スイートプリキュア♪」制作者インタビュー1 梅澤淳稔プロデューサー前編〉 - エキサイトニュース

●大躍進ながら機会損失もあった

 アニメーションとしての魅力も高く子供に大人気となり、おもちゃを始め関連商品の売り上げは絶好調、カードゲーム市場にも展開を始め「Yes!プリキュア5」はビジネス的には大成功を収めたのです。

 ただバンダイ的には「やや悔いの残るシリーズ」であった、とも言及されているのです。
「もっと売れるハズだったけど、及び腰になって後手に回ってしまった」とプリキュア5の商品展開に「機会損失」があった事がトイジャーナル誌にて語られています。

2007~2008年末年始商戦総括
一方で好調だった女児玩具は昨年V字回復を果たしたYes!プリキュア5と女児ホビーの貢献が大きかったのですが、もっと取れて良かったはずです。
これは反省点にもなるのですが、一昨年までの筐体で使われていた金額が玩具に戻ってくると言われていました。今回の女児ホビー人気はまさに予想通りだったのですが、当社ではどこか及び腰になり仕込みきれなかった。すべてが後手になりそれが女児ホビー商材の欠品、チャンスロスに現れてしまいました。
[月刊トイジャーナル]2008年2月

 つまり「おしゃれ魔女ラブandベリー」等アーケードカードゲームで使われていた金額が、プリキュア5に戻ってくるのはある程度「想定済み」だったにも関わらず、及び腰となりおもちゃ等の生産数を抑えてしまったために「Yes!プリキュア5」は機会損失が生じてしまった、という事ですね。

 機会損失があったとは言え、2007年(2007.4~2008.3)のバンダイナムコのプリキュアのトイホビー売り上げは105億。昨年の60億から大きく上げ(昨対175%)、まさにV字回復となったシリーズとなりました 

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2008年「Yes!プリキュア5GoGo!」

Yes!プリキュア5GoGo! ボーカルアルバム2

プロデューサー 吉田健一郎(ABC)、麻生一宏(ADK)、鷲尾天(東映アニメーション)
シリーズディレクター 小村敏明
シリーズ構成 成田良美
音楽 佐藤直紀
製作担当 坂井和男
美術デザイン 行 信三
色彩設計 澤田豊二
キャラクターデザイン 川村敏江

●ミルキィローズ大人気

 続く2008年は「Yes!プリキュア5GoGo!」が開始します。
前作の5人のプリキュアに新しいプリキュア「ミルキィローズ」を加えての2年目です。
 このミルキィローズというキャラクターは「低年齢層(3,4歳)」を対象としている事がバンダイのトイ事業統括部の中山氏より語られています。前作「Yes!プリキュア5」は4~5歳がターゲットだったので、その少し下の層の女の子をも取り込む戦略だった様です。

バンダイ トイ事業統括部営業第2チーム 中山健一氏
「新キャラクターの商品は新たにファンになってくれる3、4歳の子どもに向けて若干低年齢向けになっており、前作から引き続き楽しんでくれる4、5歳の子どもたちと合わせてマーケットの拡大に期待したいと思っています。
[月刊トイジャーナル]2008年 2月号

 ただし、雑誌「プリキュアひあ」の川村敏江さんのインタビューでは「キャラクターは前のシリーズよりも、若干年齢感をあげようという話になった」とある様に、キャラクター自体は「頭身をあげていた」との記載もあります。

 その新しいプリキュア、ミルキィローズは狙い通り子供に爆発的な人気を博し、その効果もあり関連商品の売り上げも好調でした。
 変身アイテム「変身ケータイ!キュアモ」は前年の250%もの販売数をあげました。(尤もこれは昨年の「ピンキーキャッチュ」の生産数が少なかった事に起因しているものと思われます)

2008春商談会リポート
「変身ケータイ!キュアモ」が前年のピンキーキャッチュとの比較で250%となり、順調なスタートダッシュとなった事が報告されました。
[月刊トイジャーナル]2008年3月  p64

 また、内容的には前作「Yes!プリキュア5」を踏襲しながらも前作中盤より登場した妖精ミルクが新プリキュア「ミルキィローズ」に変身する面白さ、新レギュラーキャラとして鳥型妖精にもなる少年キャラ「シロップ」も登場、レギュラーキャラだけで「女の子6人、男性キャラ3人」が活躍するという、大所帯のプリキュアとなりました。

●恋愛要素が少なくなった理由

 また、前作「Yes!プリキュア5」が好評だった1つの要素でもあった「キャラクター間の恋愛」関連のストーリーが「5GoGo!」になってから少なくなった事に関して、鷲尾PはWEBメディアでこの様に語っています。

「5」のでは結構ココやナッツがのぞみやこまちとよく絡んでいたのに「GoGo」から恋愛要素がなくなったのは?
A:子どもに見せる時に、恋愛感情ってそこまで見せる必要はないんだって思いました。目を合わせてぽっと顔を赤らめるだけでも、子どもって、あの子好きなんだよと言って興奮したりキャーキャー言ったりする。それでいいんじゃないかと思いました。大人の恋愛模様とかはあまり必要ないと思ったんです。(鷲尾)
[WEB記事:まだまだ聞きたいプリキュアのこと!プロデューサーに答えてもらう20問, (現在リンク切れ)]

 鷲尾Pは「目と目を合わせ顔を赤らめる」だけで恋愛は表現できるとして「大人の恋愛模様はあまり必要ではない」と捉えていた様です。(もちろんこれは2008年当時の証言であり、15周年を迎えた令和時代のプリキュアでは社会事情も女の子を取り巻く環境も大きく変わっているので、今に当てはめる事は出来ません。)

●夏以降、やや下降気味に

 さて、放送開始から好調な滑り出しだった「Yes!プリキュア5GoGo!」ですが、夏以降は玩具業界紙の言及のニュアンスが少しづつ変わっていきます。

夏休み商戦
女児キャラクターが大苦戦で、女児玩具全体では昨年並み
[月刊トイジャーナル]2008年10月p64

夏休み商戦の総括では「女児キャラクターが大苦戦」と報じられました。

女児キャラクターも年末に思ったように伸びずに目標に達しなかった。
[月刊トイジャーナル]2009年2月p55

「Yes!プリキュア5GoGo!」の夏以降、後半の商戦は「こなぷん」などのメイキングトイのブームなどもあり、プリキュア関連商品の売り上げもやや落ち込みを見せる結果となりました。売り上げの重要度の高い年末商戦でも「思った様に伸びずに目標に達しなかった」と言及されています。

●リーマンショックの影響

 ただ、2008年秋に国際的な株価暴落「リーマンショック」が起き、その影響は日本へも波及することとなりました。キャラクタートイの不調はその影響も受けているものと思われます。
 最終的にバンダイナムコのプリキュアのトイホビー売り上げは105億と、昨年「Yes!プリキュア5」と全く同じ数字となりました。ただ3Q(10~12月)は昨年の28億から20億へと減少しており、やや勢いが低下していた事は否めません。
やはり2年続けて「同じキャラクター」で展開する事は売り上げ的にも不利になったことも伺えます。
「Yes!プリキュア5GoGo!」以後のプリキュアシリーズでは「同じキャラクターで2年目」を行う事は無くなり、基本1年1シリーズの展開となりました。

●「ちょ~短編」が後のオールスターズ映画へ

 11月8日に公開された映画『映画 Yes!プリキュア5GoGo! お菓子の国のハッピーバースディ♪』は興行収入が7.9億と昨年の秋映画より1千万下がることとなりました。しかしこの時に同時上映された、それまでのプリキュアオールスターズが集合する短編映画「ちょ〜短編 プリキュアオールスターズ GoGoドリームライブ」は5分という短い時間にも関わらず好評を博し、それが後のプリキュアオールスターズ映画へと繋がっていくこととなるのです。

●続けていくことが重要

 しかし「スプラッシュスター」の時には「次がヒットしなければ終わるかも」と言われていたプリキュアシリーズは「Yes!プリキュア5」「Yes!プリキュア5GoGo!」を経て、この時期にはバンダイの社長より「続けていく事が重要」という言及がされるまでになっていました。

バンダイ 取締役社長上野和典氏
女児キャラクターに関しても「プリキュアシリーズをいつまでやっていくのか」という議論になることもあるのですが、続ける事が重要なのです。
止めることを視野に入れながらでは企画の方向性が分散しますし、続ける事を前提にして内容をどうするかを考えれば、企画も商品もかなり厳選されていきます。
[月刊トイジャーナル]2009年 1月

 プリキュアシリーズは5年もの歳月を経て「続けていく事が重要」「続ける事を前提にして内容を決める」などバンダイグループの間でも大きなウエイトを占める作品へとなっていたのです。

●プリキュア魂、満開だもの

「Yes!プリキュア5GoGo!」第48話(最終話)で流れた名曲「明日、花咲く。笑顔、咲く。」にはこんなエピソードがあります。

青木 シリーズの卒業の歌も思い出深いです。「5」の卒業ソング「明日、花咲く。笑顔、咲く。」では、歌入れのときに、三瓶さん(「キュアドリーム」役三瓶由布子)が泣いちゃって歌えなかったことがあって。卒業の先にも人生はあって、プリキュアも、声優さんもここから先のほうが長い。そういうことをちゃんと伝えていきたい。

声優さんが泣いて歌えなかったことがあって「プリキュア」作詞家対談2・青木久美子×只野菜摘 - エキサイトニュース

その歌詞にはこんなフレーズがあります。

明日、花咲く。もっともっと咲く。
これまで以上、未来はつづく
明日、花咲く。何度でも
プリキュア魂 満開だもの
(歌詞引用:「明日、花咲く。笑顔、咲く。」
作詞:青木久美子 作曲小杉保夫 編曲高木洋)

 この曲は作詞家青木久美子さんが、プリキュア達や声優さんに向けて綴った曲です。
「これまで以上、未来は続く」「明日、花咲く。何度でも」といったフレーズがちりばめられたこの曲が「Yes!プリキュア5GoGo!」という「2期が作られた最後のシリーズ」の最終回で流れた事は、この先のプリキュアシリーズを暗示しているかの様で素敵だと思います。この先も「プリキュア魂は満開」であり、実際そんな未来が訪れる事となったのですから。

●プリキュアという作品そのもの

 そして手紙を1つのテーマとした「Yes!プリキュアア5GoGo!」こそが、「プリキュアそのもの」だった、という鷲尾Pの言葉を紹介して、この項を終わりたいと思います。

誰に向けてアニメーションを作っているのか、ということですね。

そうです。最初にお子さんからの手紙をお見せしましたが、我々がプリキュアを作り続けているのは、観てくれる子どもたちがいるから。じつは、『ふたりはプリキュア』から続く子どもたちとの手紙のやりとりをテーマにして作ったTVシリーズが、『Yes!プリキュア5GoGo!』だったんですよ。「メルポ」という郵便ポストのキャラクターが登場して、手紙を届ける、返事が来る、という手紙のやりとりがある設定にしました。最終話で、メルポからたくさんの手紙が飛び出してプリキュアがそれを力にするシーンを描きました。あれは本当にプリキュアという番組そのものだったんですよ。

【インタビュー】「自分の足で立っていること。凛々しくあること」 鷲尾 天プロデューサーが『プリキュア』に込めた15年間の思い - ライブドアニュース

 「最終話で、メルポからたくさんの手紙が飛び出してプリキュアがそれを力にするシーン」
それは実際の子供たちから送られた「プリキュアを応援する手紙」を力としてプリキュアを作っていた制作側の想いだったのです。鷲尾Pは言います。「Yes!プリキュア5GoGo!」のラストは「プリキュアという番組そのもの。」だったのだと。

●ライバルコンテンツの動向

 この時期のライバルアニメは「きらりん☆レボリューション」が3年目の「STAGE3」、サンリオの「おねがいマイメロディ」シリーズは4年目の「きららっ☆」が放送中でした。ともに3年を越えるシリーズとなっていて、やや勢いが落ち着いてきている状況でした。(同じくNHKの子供向けの10分アニメ「味楽る!ミミカ」も3年目でした)
 また、女の子向けアーケードカードゲーム市場に目を向けると、この時期は前年より稼働した「プリキュアデータカードダス うたって!プリキュアドリームライブ」の他、人気絶頂だった「きらりんレボリューション クルキラ★アイドルDays」、擬人化した犬が踊る「ワンタメミュージックチャンネル」「たまごっちとふしぎな絵本」などが市場をにぎわせていました。

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2009年「フレッシュプリキュア!」

フレッシュプリキュア! メモリアルボーカルセレクション

プロデューサー 吉田 健一郎(ABC)
鶴崎 りか(ADK)
梅澤 淳稔(東映アニメーション)
シリーズディレクター 志水 淳児
座古明史
シリーズ構成 前川 淳
音楽 高梨 康治
製作担当 坂井 和男
美術デザイン 行 信三
色彩設計 佐久間 ヨシ子
キャラクターデザイン 香川 久

●新体制となったプリキュア

2009年。プリキュアシリーズは新たな世界へと入ります。
東映アニメーションのプロデューサーが初代から5年務めた鷲尾天から梅澤淳稔氏に代わり「フレッシュプリキュア!」の放送が開始します。
プロデューサー交代の理由について、鷲尾天氏は「シリーズを続けていく上での決断」だったとしています。

「『プリキュア』というシリーズを続けるうえで一人の人間が居座り続けるのは良くないと思った」(鷲尾)

[WEBマガジン幻冬舎 鷲尾天インタビュー, 2009](リンク切れ)

 

新プロデューサーである梅澤淳稔(以後梅澤P)は新たなプリキュアを「フレッシュプリキュア!」と命名した事をこう語っています。

梅澤 鷲尾プロデューサーが5年『プリキュア』をやったので、その後を継いでほしいということで映画をやった私にプロデューサーの話がきました。そこで私に課せられた使命は「これまでの5年のプリキュアの伝統を守りつつ、一新する」ということだったんです。
[プリキュアぴあ, 2011] p86

「次は新鮮なものを」と自分にプレッシャーを与える意味も含めて、タイトルは「フレッシュ」にしました。(梅澤)
(アニメージュ2009年11月号(徳間書店))

梅澤Pは「伝統を守りつつ、一新する」という命題を与えられ「新鮮」という名の「フレッシュプリキュア!」としたのです。
その立ち上げにあたり「プリキュアとは何か?」「子どもたちが好きなものは何か?」を徹底的に調査したと言います。その結果「女の子の好きなものを全部盛り込む」要素の1つとして作品の中に「ダンス」を取り入れたと語っています。

5年の歴史がある『プリキュア』は、何を持ってプリキュアなのか。何を変えると新しくなるのか。ひとつずつ考えながら新作に挑みました。
最初に私が考えた方針は2つ。ひとつはタイトルを「フレッシュ」にすること。もうひとつは「女の子が好きなことは全部盛り込む」ということでした。徹底してアンケートを取った結果、その中に「ダンス」があったんですよ。
ならば今回は本格的なダンスをやろうと、監督も決めていないのに前田健さんに振り付けをお願いにいったんです。
[プリキュアぴあ, 2011] p86

フレッシュプリキュア!で取り入れられた「ダンス」は本編アニメでも主人公たちのストーリーで重要な役割を果たしましたが、何よりも「エンディング曲」でCGによるダンスを取りいれた事も大きな話題となり、以降全てのプリキュアシリーズで「エンディングソングはCGによるダンス」が定番となるに至るのです。

「フレッシュプリキュア!」制作の布陣としては、前述の梅澤Pの他、シリーズディレクターに志水淳児、第16話より座古明史氏、シリーズ構成には前川淳氏を起用。音楽も佐藤直紀氏から高梨康治氏に代わり、劇半もロック寄りへと変わっていきました。

キャラクターデザインは香川久氏。香川氏はキャラクターデザインにあたり「頭身を上げてほしい」「いままでのプリキュアシリーズと変えても良い」とオーダーがあった事を明かしています。

香川 いままでの『プリキュア』からは頭身をあげてほしいという梅澤プロデューサーからのオーダーがあって、キャラクターも「いままでのシリーズと変えても良い」というお話でした。挑戦的なオーダーだったので僕にとっては嬉しいことでしたね。
[プリキュアぴあ, 2011] p100

●おませな小学生に見てもらえるように

また、梅澤Pはプリキュアの視聴者層は4~6歳であり、小学生になるとプリキュアから離れてしまい、月9などのドラマに行ってしまう現状に対し、「おませな小学生」にも見てもらえる様にフレッシュプリキュア!ではストーリー性を重視したのだと語っています。

プリキュアの主な視聴者層は4~6歳。梅沢さんによると「今の小学生は『アニメなんて恥ずかしい』という感覚がある」らしく、かつてセーラームーンを見ていた七-九歳すら枠外だ。女の子は保育園や幼稚園の卒園と同時にプリキュアも卒業、次に見るのは、高校生や社会人の恋愛模様を描くフジテレビの「月9」ドラマだとか。
そこで、第六弾はおませな小学生にも見てもらえるよう、ストーリー性を重視。「四人目のプリキュアは誰か」「インフィニティって何?」などの謎をちりばめ、年間を通して少しずつ秘密に迫る仕掛けだ。
[【放送芸能】『セーラームーン』上回る6作目 テレ朝アニメ『プリキュア』 ブランド+新キャラが強み, 2009](リンク切れ)

 フレッシュプリキュア!は内容的にも、「女の子が大切なものと日常を守るために戦う」、というプリキュアイズムを継承しながらも様々な新しい試みがなされました。
キャラクターデザイン的には頭身があがりプロポーションが良くなり、(パンチをした際に痛く見えない為の)「手の甲のプロテクター類」が排除されたり、ブーツではなくハイヒール様の表現が見られたり、スカートの中がスパッツではなく(前作ではキュアレモネード1人だった)いわゆる「モコモコ」の表現になるなど、デザイン的にも数多くの新しい試みがなされました。
 キャラクターデザイン担当の香川久氏は、この大幅なデザイン変更に関して、プリキュアぴあ誌上で左記のように言及しています。

香川 いままでの『プリキュア』からは頭身をあげてほしいという梅澤プロデューサーからのオーダーがあって、キャラクターも「いままでのシリーズと変えても良い」という話でした。挑戦的なオーダーだったのので、僕にとっては嬉しいことでしたね。
過去の『プリキュア』シリーズに関わってなかったし、作品自体も『ふたりはプリキュア』しか見たことがなかったんです。でも『フレッシュプリキュア!』ではそれがよかったですよね。
過去にとらわれることなくキャラクターデザインが出来たと思います。スパッツを履いているとか、拳にナックルガード的なものを付けているとか、そういう『プリキュア』シリーズの決まりごとのようなものを知らなかったし、周囲から言われたこともなかったんです。
[プリキュアぴあ, 2011]p100

対象年齢を上げる、という方針の元、舞台となるクローバータウンの雰囲気や「ダンス」を主軸にした物語、劇中で使われるワード群も「やや大人っぽい雰囲気」となったことなども大きな変化となりました。

●「告る」は不評だった

しかし同時に「告る」「彼氏」といった言葉を使ったことにより親御さんから大ブーイングが来た事なども明かされています。

「フレッシュプリキュア!」では前半に水着やシャワーシーンもありましたね。
梅澤 実は大ブーイングでした。「コクる」「彼氏」というセリフも評判が悪かったです。中学生だから、必然性があるから、大丈夫というわけじゃない。両親が観せたくない作品になっては『プリキュア』じゃない、と痛感しました。
[プリキュアぴあ, 2011]p87

梅澤 大人向けにつくりはじめると子どもは気づいてしまう。これは自分たちのものじゃないなって。
それに親御さんも敏感ですからね。「フレッシュ」で「告る」「彼氏」ということばを使ったんですけど大ブーイング。親としてはまだ子どもたちにはそういうことばを使って欲しくないんです。だからプリキュアたちは中学生でありながら、子どもたちの身近な、たとえば幼稚園で起こっていることを違和感なくストーリーとして進めています。

中学生がベストな年齢〈映画「スイートプリキュア♪」制作者インタビュー3 梅澤淳稔プロデューサー後編〉 - エキサイトニュース

フレッシュプリキュア!に限らずなのですが、プリキュアシリーズでは毎回様々な新しい試みが行われ、試行錯誤を繰り返しながら作品の質を上げていっている事がわかります。

●フレッシュプリキュアの世界観

また、フレッシュプリキュア!では従来のプリキュアで見られた「学園モノ」の要素は薄まり、学校でのエピソードは少ないシリーズとなっています。

志水 今までの「プリキュア」シリーズは、「学園モノ」のエピソードが多かったんです。それは小中学生にはいいかもしれないけど、もっと小さな女の子たち、未就学児には伝わりにくいんじゃないかと思ったんです。そこでもっと日常の話にしようと、学校から離れる方針となりました。
[プリキュアぴあ, 2011] p101

その理由として志水SDは、「学校の描写は未就学児には伝わりにくいのではないか?」と考えての事だったとしています。

フレッシュプリキュア!はやや対象年齢を上げた事も幸いして、内容的にも深いSF要素や、主人公桃園ラブ(キュアピーチ)を始め、4人のプリキュアや、サブキャラクター、敵キャラまでのキャラクターの魅力、そのストーリー展開の重厚さが子供はもちろんの事、一緒に観ているお父さんお母さん、そして大きなお友達をも熱狂させることとなりました。
特に敵幹部イースが新プリキュア、キュアパッションへと転生する中盤の第23話~25話は、10年以上経った今でもプリキュアファンの間では語り草となっています。

また、エンディングがCGのダンスへと変わった事にも大きな変化でした。このエンディングのCGダンスの成功は、以後全てのプリキュアシリーズに影響を与える事となりました。

●商業的にも絶好調

そんな「新しいプリキュア」として始まった「フレッシュプリキュア!」。おもちゃの市場ではどの様な反応だったのでしょうか?
業界紙トイジャーナルでは、「Yes!プリキュア5」と比較して初動で170%、と開始から好調なスタートだった事が明かされています。

また「フレッシュプリキュア!」はYes!プリキュア5と比較すると初動が170%と大幅に伸びており、好調なスタートを切った。
[月刊トイジャーナル]2009年3月号

●プリキュア黄金手法の確立

実はこの「フレッシュプリキュア!」は15年を越えるプリキュアシリーズの歴史の中でも、重要なターニングポイントとなっている作品なのです。

プリキュアという作品が「2月に始まり、3月にオールスターズ映画上映、5月に武器を入手、6~7月に新しい戦士が加入、9月に最終決戦用のアイテムを入手、10月に秋の単独映画公開、12月にストーリーが盛り上がり、翌年1月に最後の敵を倒す」という、一連の流れを確立したのがこの「フレッシュプリキュア!」なのです。
 ドラマティックな物語が動くタイミングと関連商品の発売を密接にリンクさせる手法で売り上げを大きく伸ばし、プリキュアというコンテンツを大きく進展させました。
もちろんそれは、それまでのシリーズの積み重ねによるものであり、「フレッシュプリキュア!」から突然はじまったものではないのですが、「フレッシュプリキュア!」以後のプリキュアシリーズでは、すべてこの「黄金パターン」が採用され今に至っている事を考えると、まさに黄金パターンを確立した、といっても過言ではないシリーズなのだと思います。
特に「追加プリキュア」の登場するタイミングが初夏に設定されたのは、このシリーズの功績が大きいものと思われます。

プリキュアのおもちゃの売れるタイミングについては、当時バンダイのおもちゃ担当だった高橋真樹氏がこんな事を語っていることからも裏付けられます。

やっぱり一番人気があって売れているおもちゃって変身アイテムですよね。時期的にはいつごろが売れるものなんですか?
高橋 学校や幼稚園が休みのときですね。親御さんと一緒に買いに行くので。春休み、ゴールデンウィーク、夏休みと山があって、大きいのがクリスマス。
その山場に向けて新商品を出すときって、大体いつぐらいから本編に登場させるものなんですか?
渥美 クリスマスで最大限に売ろうとしたら、九月くらいには登場していたいですね。
[プリキュア シンドローム!〈プリキュア5〉の魂を生んだ25人, 2012]p161

●シリーズ最高の売り上げ

スタートダッシュに成功したフレッシュプリキュア!はその後も好調な売り上げを維持。
年末商戦では「プリキュアの強さが目立つ」、「フレッシュプリキュアの商品は「シフォンお世話になります」を中心にほとんどの商品が売り場から無くなった」など言及されるなど、その好調が伺えます。

年末商戦速報
女児ではプリキュアの強さが目立つ。
[月刊トイジャーナル]2009年1月 p79

2009~2010年年末年始商戦総括
p52 商戦終盤には仮面ライダーWのすべての商品、フレッシュプリキュア!も「シフォンお世話になります」を中心にほとんどの商品が売り場から無くなった
[月刊トイジャーナル]2010年2月号

それを受け、年が明けた翌2010年にはバンダイの上野社長が「シリーズ最高の売り上げレベルになる」と言及するなど、フレッシュプリキュア!はおもちゃ市場的にも女の子に大きく受け入れられていたことが分かります。

2010年の展望を聞く
バンダイ 上野和典社長
…ボーイズトイだけではなく、ガールズトイも「プリキュア」がかなり好調ですね。
上野「伸びましたね。おそらくシリーズでも最高の売り上げレベルになると思います。
[月刊トイジャーナル]2010年1月号 p36

 最終的な2009年度(2009.4~2010.3)バンダイナムコのプリキュアのトイホビー売り上げは119億。昨年の105億を14億も上回り、当時のプリキュアシリーズで最高の売り上げとなったのです
 また、映画関連に目を向けると、この年3月20日に「映画 プリキュアオールスターズDX みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!」が公開されました。歴代のプリキュア達が全員集合するというお祭り的要素が大好評となり、興行収入も当時最高の10.1憶円を記録。以降「春のオールスターズ映画」も定番の要素となっていくのです。
秋映画「映画 フレッシュプリキュア!おもちゃの国は秘密がいっぱい⁉」の興行収入も8.0憶と好調を維持、子どもたちに大いに受け入れられ、6年目の「プリキュアの新しい試み」は大成功を収めたのです。

●ライバルコンテンツの動向

また、フレッシュプリキュア!が放送されていた2009年のライバルコンテンツに目を向けると、サンリオが4年間放送していた「おねがいマイメロディ」シリーズから「ジュエルペット」シリーズに転換、小学館ちゃお系は3年続いた「きらりん☆レボリューション」が「STAGE3」で終了し4月より「極上!めちゃモテ委員長」に代わり新しい風を吹き込みます。
 集英社ラインからはリボンで連載中の「夢色パティシエール」のアニメが開始、また「たまごっち」のアニメやNHKでは「クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!」(実写パートとアニメパートがあった)も開始するなど、女の子向けアニメーションも新たな激動の新時代へと突入した年でもありました。(余談ですが「クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!」で主演を務めた福原遥は後に2017年「キラキラ☆プリキュアアラモード」でキュアカスタード役の声優となっています)

また、アーケードカードゲーム市場ではプリキュアデータカードダスの他、カプコンとタカラトミーの共同開発「ワンタメミュージックチャンネル」は3年目となっており、「きらりん☆レボリューションクルキラ★アイドルDays」と入れ替わる形でスタートした「めちゃモテ委員長 クルモテ ガールズコンテスト!」などが人気となっていました。

 

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2010年「ハートキャッチプリキュア!」

ハートキャッチプリキュア! オリジナル・サウンドトラック2 プリキュア・サウンド・バースト!!

企画 西出 将之(ABC)
松下 洋子(ADK)
関 弘美(東映アニメーション)
プロデューサー 吉田 健一郎(ABC)
佐々木礼子(ADK)
梅澤 淳稔(東映アニメーション)
シリーズディレクター 長峯 達也
シリーズ構成 山田 隆司
音楽 高梨 康治
製作担当 額賀 康彦
美術デザイン 増田竜太郎
色彩設計 佐久間 ヨシ子
キャラクターデザイン 馬越 嘉彦

●ハートキャッチプリキュアの躍進

 翌2010年は「ハートキャッチプリキュア!」が始まります。プリキュアの子供人気および関連商品の売り上げの絶好調を引き継ぎ、まさにプリキュア黄金期を迎えるシリーズとなります。
コミカルなキャラクターが繰り広げるアクションとシリアスなシナリオ展開が多くの視聴者を引き付け、初の高校生プリキュアやTVシリーズ初の「敵側のプリキュア」、プリキュアの父親が敵組織にいる事など様々な新しい試みも行われたシリーズとなりました。その試みも成功をおさめ、子どもはもちろんの事、大人をも巻き込み、大人気アニメへとなりました。雑誌など各種媒体への露出も多く、この年、プリキュアは初のNHK紅白歌合戦への出場をも果たすこととなるのです。

 フレッシュプリキュア!の大成功を受け、例年通りであれば「ふたりは」の次が「マックスハート」に、「Yes!プリキュア5」の次が「5GoGo!」になった様に、「フレッシュプリキュア!」も2期の展開をするのかと思いきや、梅澤プロデューサーは「当初から2年目をやるつもりはなかった」と断言しています。

梅澤 フレッシュなものを続けるとフレッシュではなくなりますよね。だから2年目をやるつもりはありませんでした。
[プリキュアぴあ, 2011]p87

●テーマは「こころ」

「フレッシュプリキュア!」の次に梅澤Pがプリキュアに掲げたテーマは「心」と「個性」。

梅澤Pはこれを「ある意味教育的なキーワード」としつつも、「自分なら楽しめるか?」「親ならば子供に薦められるか?」を念頭に置いたと言います。

梅澤 『プリキュア』シリーズは結局「自分が子どもだったら、この作品を楽しめるか」「自分が親だったら子どもに薦められるか」という2点を拠り所にするしかないんですよ。そこで「心」と「個性」という、ある意味、教育的なキーワードをあげました。
[プリキュアぴあ, 2011]p87

「子どもならば楽しめるか?」と同時にここでも「親ならば子供に薦められるか?」という「親の視点」を意識している事が伺えます。

「人の心」を描く、というやや重めの設定。その重さを柔らかくするために、「ハートキャッチプリキュア!」のシリーズディレクターには長峯達也氏を起用、そしてキャラクターデザインには「おジャ魔女どれみシリーズ」を担当した馬越嘉彦を起用し、明るいキャラクターによる演出を行った、と梅澤Pは語っています。

梅澤 あと、「フレッシュ」はそれまでの「プリキュア」よりもストーリーを重くしたけど、子どもたちは割とついてこられた。もっとやってみようと、「心」をテーマに。
……人々が抱えている悩みを敵に利用され、怪物になる。それをプリキュアたちが救う。
梅澤 けっこう重いんですよね。だから、キャラクターの雰囲気を柔らかくするために馬越嘉彦さんにキャラクターデザインを頼み、ギャグも多くした。長峯達也監督の演出センスも欠かせなかった。

中学生がベストな年齢〈映画「スイートプリキュア♪」制作者インタビュー3 梅澤淳稔プロデューサー後編〉 - エキサイトニュース

またシリーズ構成には山田隆司氏、キャラクターデザインが馬越嘉彦氏というのは同枠の「おジャ魔女どれみ」シリーズでも見られたもので、「おジャ魔女どれみ」同様に、やや重めの内容をコミカルなキャラクターで柔らかく表現するためのものだったのだと思われます。

そんな雰囲気の中で繰り広げられた「ハートキャッチプリキュア!」は、その制作陣の意図通りに「こころの問題」を扱うというその重めの内容ながらも、ギャグ描写も多めの「楽しく明るい作風」となり、一躍大人気作品へとなっていくのです。

●王道の物語を作る

長峯SDは、ハートキャッチプリキュア!を始めるにあたり、東映アニメーションの伝統に基づいた「普通のちゃんとした作品」を作ろう、という思いを語っています。
ヒネリは入れずに、王道の物語を。そんなSDの思いが「ハートキャッチプリキュア!」の根底にはあったのです。

長峯 最近のアニメは変化球のひねった作品が多いと思うんです。まずは「プリキュア」らしい作品よりも「普通のちゃんとした作品」をつくろうと考えていました。馬越さんを巻き込んで東映アニメーションの伝統に基づいた、子供向けのアニメをつくりたいという思いがありましたね。
[プリキュアぴあ, 2011]p104

また「ハートキャッチプリキュア!」は今までのプリキュア達と比較して、キャラクターデザインがややシンプルになっています。その理由として、キャラクターデザインの馬越嘉彦氏は「アクションをやるため」だったと語っています。

今回は「キャラクターにアクションをさせたい」と思っていたんです。以前、「プリキュア」シリーズの作画をしたときに、アクションシーンを描くのがひと苦労で(笑)。今回はアニメーターさんたちに動かしてもらおうと思って、キャラクターデザインをややシンプルにしました。(馬越)
[プリキュアぴあ, 2011]p105

線が複雑だと、その分描くのが大変になり派手なアクションが出来なくなってしまう。そのためにシンプルなデザインを採用し、子供たちに「アクション」の楽しさを見せていく。
ハートキャッチプリキュア!の「ものすごい」と思わせる動きのあるアクションシーンは、決して偶然に生まれたものではなく、「アクションをやりたい」「そのためキャラクターデザイン」という強い思いに裏付けられていたのです。

また、長峯SDは主人公のプリキュア4人を「頭の良い子」にしたと語ります。

主人公たちを頭の良い子にしたいと思っていました。“つぼみ”も“えりか”も基本的には「できる子」なんです。“いつき”も“ゆり”も頭がいいですしね。主人公をアホな子にしたり、暗い過去をもっていたりするアニメ作品がたくさんありますが、今回はなるべく普通の人が出る作品にしたかったんです。(長峯)
[プリキュアぴあ, 2011]p106

 ハートキャッチプリキュア!が放送されていた2010年のアニメ業界では子供向け作品もオトナ向け作品でも、「王道の主人公」からやや離れた性格の主人公が多かった様に記憶していますが、ハートキャッチプリキュア!の目指す所は「普通の人」が活躍する「王道のストーリー」だったのです。
 こんなところにも長峯SDのプリキュアイズム「普通の子供たちが戦う、王道アクションもの」の片りんが見えてきます。
また梅澤Pは初の高校生プリキュア「キュアムーンライト」も、子供たちに受け入れられていた事に触れ、

ムーンライトはけっこう受け入れてもらえましたね。子どもたちから観ると高校生は大人。小学生はまだ身近な存在だけど、中学校って未知の世界で、背伸びして届くか届かないかくらい。だからプリキュアは中学生なんだと思っています(梅澤)

中学生がベストな年齢〈映画「スイートプリキュア♪」制作者インタビュー3 梅澤淳稔プロデューサー後編〉 - エキサイトニュース

 プリキュアの主人公の設定が中学生なのは「子供にとっても未知の世界で、手が届くか届かないかの年代」である事なども語っています。

●ダークプリキュア誕生の秘密

 初の高校生プリキュアなど、新しい試みが多数見られた「ハートキャッチプリキュア!」でしたが、その中に、こちらもTVシリーズでは初となる敵方のプリキュア「ダークプリキュア」という黒いプリキュアが登場します。
主人公の一人、キュアムーンライトと大きな関りをもつこのキャラクターは第1話から終盤まで、物語を動かすキーキャラクターと位置付けられていたのですが、この「ダークプリキュア」は本来登場の予定は無く、「高山みなみ」という声優に影響を受けて作られたキャラクターである事も明かされています。

ところが声優のオーディションに、高山みなみさんが参加してくださって。やっぱり素晴らしかったんですね。高山さんにふさわしいキャラクターをつくらなくちゃ、ということで急遽ダークプリキュアを登場させることにしました。(長峯)
[プリキュアぴあ, 2011]p107

 この様な柔軟な対応も、ハートキャッチプリキュア!の成功へとつながっているのではないかと思います。各種文献を読む限り、これに限らずプリキュアシリーズでは声優さんやアニメーターやその他製作者の「現場の意見」がその内容に影響を与えていることもたびたび言及されてます。おもちゃ売り場などの「子どもたちの現場」と「製作者の現場」といった「現場」の意見を重視し、柔軟に対応していく力がプリキュアシリーズを発展させていった要因の1つなのではないかと思います。

●商業的にも好調を維持

そんなハートキャッチプリキュア!は、おもちゃ市場でも引き続き絶好調だった模様です。玩具情報誌ではずっと「好調」という言葉が続きます。

「ハートキャッチプリキュア!」に関しては、なりきりメインアイテムの「変身香水ココロパフューム」を中心に好調なスタートとなったようだ
[月刊トイジャーナル]2010年3月号

一方女児ではハートキャッチプリキュア!の好調さが目立つ。
いずれも3月発売の新製品、ストーリーに登場するこころの種を生むかわいい妖精のお世話遊びが楽しめる「ココロつなげてシフレ&コフレ♡」やなりきりアイテムの「フラワータクト」や「変身香水ココロパフューム」とともにランキングの上位に入ってきた。
[月刊トイジャーナル]2010年5月号 p64

インタビュー バンダイ代表取締役 上野和典氏
~ガールズトイでは「プリキュア」が09年に続いて好調でした。
上野「09年とトントンぐらいになっています。これも勘所を掴みつつあるので、アイテム数を絞り、力を集中させる戦略が定着しつつあります。」
[月刊トイジャーナル]2011年1月

 最終的にバンダイの上野社長に「(最高の売り上げだった)09年とトントンくらい」と言及されるに至ります。過去最高だった昨年と同程度を維持する、ということは2年間ずっと売り上げが落ちていない、という事です。
 その売り上げ好調の要因として上野社長は「勘所を掴みつつある」と言及しています。これはバンダイの「プリキュアのおもちゃが最も売れる時期とその投入タイミング」が確立してきたという事です。

最終的なバンダイトイホビーの2010年度(2010.4~2011.3)の売り上げは昨年を6億上回る125億となり、過去最高の売り上げを記録することとなりました。(2019年現在では、この売り上げを越えるシリーズは存在しません。)

●プリキュア黄金期

 2010年は、昨年から大きな盛り上がりを見せていた他のライバル女児アニメに加え、セガが「おしゃれ魔女ラブandベリーの再来」を狙って大きくメディア展開を開始した「ひめチェン!おとぎちっくアイドル リルぷりっ」も始まりました。

この「リルぷりっ」や「めちゃモテ委員長」はアーケードカードゲームも同時展開し、こちらでもプリキュアシリーズと熾烈なライバル対決を繰り広げていたのです。
しかしそんなライバルと戦いながらも、2010年度はプリキュアシリーズのトイホビー売り上げが過去最高を記録し、その強さを証明したのです。まさに売り上げ的にはプリキュア黄金期となっていたのです。

●NHK紅白歌合戦にも出場

子どもたちに大人気となったハートキャッチプリキュア!。そのブームの勢いはとどまる事を知らず、2010年12月31日。プリキュアは初のNHK紅白歌合戦にも出場しました。
キュアブロッサム役の声優水樹奈々さんがアニメ中の中学校の制服姿で登場、当時も人気絶頂だったアイドルグループAKB48の主力メンバー、前田敦子さん、板野友美さん、大島優子さんらと共に「Alright!ハートキャッチプリキュア![紅白ver.リミックス]」を披露しました。バックではキュアブロッサム、キュアマリン、キュアサンシャイン、キュアムーンライト(の着ぐるみ)も登場し、シーンを大きく盛り上げ、子どもたちはもちろんの事、アイドルファン、アニメファンをも巻き込み、この年の紅白歌合戦を大きく盛り上げることとなりました。
(※NHK紅白歌合戦でのプリキュアの出場は、2015年にもGo!プリンセスプリキュアのキュアフローラ(声:嶋村侑)が声と画像のみでの出場をしています。)

ただ「紅白歌合戦」に出場するレベルでの人気があった「ハートキャッチプリキュア!」をもってしても「2期」を作る事には至りませんでした。梅澤Pは「もっと人気があったら2期をやったかもしれない」と語っています。

……次の「ハートキャッチプリキュア!」(10~11年)も?
梅澤 そうです。でも、人気がすごければ2年やったかもしれない(笑)。
……「ハートキャッチ」ってすごい人気ありませんでした?「プリキュア」を知らない大人がみんな観ていたり。
梅澤 そこはほとんど関係ないです。もちろん大人のみなさんの人気はありがたいんですけど。

中学生がベストな年齢〈映画「スイートプリキュア♪」制作者インタビュー3 梅澤淳稔プロデューサー後編〉 - エキサイトニュース

●子どもにも大人にも大人気

 ハートキャッチプリキュア!は「プリキュアの伝統」を守りつつも、高校生プリキュアや敵のプリキュアなど新しい要素もふんだんに取り入れ、そのキャラクターの可愛らしさ、ストーリーの重厚さ、良く動くアクションなども話題となり、小さな子供たちはもちろんの事、大人にも人気のシリーズとなりました。
 秋映画「映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか⁉」は当時の秋映画の中では最高となる9.3億円を記録し、関連商品、おもちゃも爆発的に売れ、まさにプリキュアシリーズ黄金期を迎えたシーズンとなったのです。

そして翌年もその好調を引き継いだ「スイートプリキュア♪」が始まるのです。 

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2011年「スイートプリキュア♪」

スイートプリキュア♪ オリジナル・サウンドトラック2 プリキュア・サウンドシンフォニア!!

企画  西出将之(ABC) 三宅将典(ADK) 関 弘美
プロデューサー 松下洋幸(ABC)
佐々木礼子(ADK)
梅澤 淳稔
シリーズディレクター 境 宗久
シリーズ構成 大野敏哉
音楽 高梨 康治
製作担当 額賀 康彦
美術デザイン 増田竜太郎
色彩設計 佐久間ヨシ子
キャラクターデザイン 高橋 晃

●順調なスタート

 大ヒットとなった「ハートキャッチプリキュア!」を受けて始まった「スイートプリキュア♪」。音楽をテーマに繰り広げられる4人のプリキュアの物語です。スイートは「甘い」(sweet)ではなく「組曲」「ひとそろい」を意味する「Suite」の事です。

 東映アニメーションのプロデューサーは梅澤淳稔氏が続投。フレッシュ、ハートキャッチに引き続き3年目となります。
 キャラクターデザインはアニメ「怪談レストラン」のキャラクターデザインが好評だった高橋晃さん。シリーズディレクターに境宗久氏、シリーズ構成はそれまで主に実写ドラマを多く手掛けてきた大野敏哉氏を起用。プリキュアに新しい風を吹き込みます。

「スイートプリキュア♪」の立ち上げ時に「音楽」をテーマと決めたのは梅澤Pで、その決断に至るまでには大きな葛藤と決断があった様です。

……そして「スイートプリキュア♪」に。
梅澤 もう無理って。
……む……?
梅澤 次のモチーフはどうしよう~! ってなったときに「じゃあ音楽をやろう」って自分で決めました。でも、ほんとうはやリたくなかったんです!
……ええっ!?
梅澤 音楽をテーマにすると、嘘をつけないんです。楽器の演奏シーンとか大変ですよ。
……ああ、ピアノのこの鍵盤押してこの音はでない! とか。
梅澤 そうそう。だからもっと大きいテーマでやればなんとかなるかなと。もの自体はなんでもないけど、使う人間によって善悪が決まるというのが「スイート」のテーマになっています。

中学生がベストな年齢〈映画「スイートプリキュア♪」制作者インタビュー3 梅澤淳稔プロデューサー後編〉 - エキサイトニュース

「スイートプリキュア♪」でシリーズディレクターを務めた境宗久は、梅澤Pから「音楽」をテーマにしたい、という依頼を受け、その作品の根幹に「楽譜」を使い、良い人が歌えば良い音楽になり、悪い人が使えばイヤな音楽になるという骨格を作っていったとしています。

梅澤プロデューサーから「音楽」と「使う人によって良くも悪くもなる道具」をテーマとして入れたいという話があったんです。そこで、この作品では「楽譜」を出して、良い人が歌えばいい音楽になるし、悪い人が歌えばいやな音楽にもなるというアイデアにしようとしました。(境)
[プリキュアぴあ, 2011]p110

そんなスイートプリキュア♪。
子供たちにも人気が高く、おもちゃも滑り出しは順調でした。玩具情報誌トイジャーナルでも「出足好調」との記載が見られます。

マーケットレビュー
ここ数年の女玩をリードしているプリキュアシリーズは、今作も出足好調。
[月刊トイジャーナル]2011年3月号p76

今年も出足は好調だったプリキュア。ここ数年は毎年の様に右肩上がりで売り上げを伸ばしていました。今年もその波に乗って大きく飛躍することが期待されていました。

●東日本大震災

そんな中2011年3月11日。日本中を震撼させた「東日本大震災」が起きるのです。
死者・行方不明者1万8千人を越える未曾有の大災害が日本列島を直撃することとなります。
その震災の影響は経済活動にも大きく及び、当然プリキュアも大きな影響を受ける事となりました。封切り8日前だった「映画プリキュアオールスターズDX3 未来にとどけ!世界をつなぐ☆虹色の花」は災害を連想させるシーンを急きょカットしての上映となりました。
また東映アニメーション公式サイトにて被災地の子どもたちに向け応援メッセージ動画『プリキュアからみんなへの応援ムービー』も配信され、子ども達を勇気づけました。(この応援ムービーは2019年の今でもスイートプリキュア♪のホームページから見る事ができます。

当時「オールスターズDX3」の「フィルムを切る」という決断に至る経緯については、鷲尾PおよびDX3の監督である大塚隆史氏のこんな証言があります。

大塚 映画を作るときは大抵のことは想定内なんですけど、違いましたね。3月10日に零号試写を済ませていましたので、映画の仕事を終えた翌日でした。
鷲尾 あとは各映画館にフィルムを配って、公開を待つだけという状況だったので衝撃的でした。翌日、「DX3」は災害を想起させてしまう映像があるんじゃないかという話になって、そのシーンをどうするべきかという会議を行いました。普通だとこういう場に出席するのはプロデューサーだけという場合が多いんですが、どういう話し合いが行われるか大塚監督にも知ってもらいたいと思い、参加してもらいました。会議の末、20秒程度カットすることになった。フィルムに手を入れなければいけないのが、一番つらかったですね。
その……実際にフィルムを切る判断をしたのは大塚さんなのでしょうか?
大塚 そこで行われた会議は、監督として納得のいくものではなかった。地震や被災者への配慮とはまた別の話で、このフィルムはスタッフみんなが必死に命を注いで作った、いわば僕らみんなの大切な子供みたいなものです。僕の手でフィルムを切ることはできない。ですので、僕はフィルムを切る以外の方法を考えて提示し、訴えました。が、届かなかった。

〈映画「プリキュアASDX3」プロデューサー&監督対談〉part2 東日本大震災、想定外の想定外 - エキサイトニュース

 大塚監督はフィルムを切らない方向で進めたかった様ですが、それは叶わなかったことなど、当時の「リアル」が語られています。

 また、震災の影響で2011年3月13日放送分が延期となり(3/13は東日本大震災の緊急報道特別番組が放送)、最終的には当初の予定よりも1話少ない話数となりました。おもちゃの販売計画とストーリーとが密接に連動しているプリキュアシリーズにおいて、「放送の予定が変わる」「1話少なくなる」というのは、とても大きなマイナスとなります。
 また、秋に公開される予定の映画もシナリオが組上がっていたのを全部白紙にして再構成したことや、テレビシリーズの構成も震災前に全体の3分の1は出来上がっていたものの、それ以降は震災の影響で内容が大きく変わっていき、震災が無かったら全く違うラストになっていた可能性もあった事なども示唆されています。

梅澤 テレビシリーズの放映スケジュールが東日本大震災の影響でズレてしまったんですよ。
ああー……。
梅澤 映画の企画も「スイート」がはじまった2月ころには立ち上がっていて、シナリオも組み上がっていた。でも、ぜんぶ白紙にしました。

娘が見た父親の涙は〈映画「スイートプリキュア♪」制作者インタビュー1 梅澤淳稔プロデューサー前編〉 - エキサイトニュース

3月11日の時点で全体の3分の1くらいのシナリオは出来ていましたが、それ以後上がってきた話数に関しては、意図的な部分も無意識的な部分も含め、多分に震災の影響が盛り込まれていたと思います。とにかく前向きな作品を作りたい、という思いがあって。震災が無かったら、ラストも全然違った方向になっていたでしょうね。
[アニメージュ2012年2月号, 2012(徳間書店)]

この様に3.11の震災は「スイートプリキュア♪」の話の構成から、映画のストーリーにいたるまで、作品全般に大きな影響を与える事となってしまったのです。もちろん震災の影響は作品だけではなく「おもちゃの販売」にも影響を及ぼします。

●震災は玩具の購入動機を変えた

震災以降は消費者の「おもちゃの購買動機」も変わり、子どもたちが外出を控える様になり、それに伴い家の中で楽しめるアナログゲームやメイキングトイに人気が出てくる様になります。

3月の震災以降、イエナカ需要、エコといった観点から好調なアナログゲーム。
月刊トイジャーナル]2011年12月号 p66

そのせいか「好調」との表現が続いていたプリキュアの玩具に対する業界紙トイジャーナルの言及が夏ごろから、若干ニュアンスが変わっていきます。
「例年に比べ早くも落ちてしまった」などマイナスな表現がされていく様になります。

番組スタート当初は期待されていた「スイートプリキュア♪」関連商品の動きが例年に比べ早くも落ちてしまったという販売店の声も一部に聞かれ、ジャンル全体としても今後に期待したいところ。
[月刊トイジャーナル]2011年7月号p70

 そんな中でも、初夏の追加プリキュア「キュアビート」の「愛のビート♪ラブギターロッド」は発売以降好調を維持し、子どもたちへの人気が高かった様です。(この玩具は、ギター型からロッド型に変形したり、「ギュイーン」とギターサウンドが鳴ったりと男の子心もくすぐる様なカッコイイ玩具なのですよね。自分も持っていますが大好きです)

女児玩具では、7月中旬に発売された「スイートプリキュア♪」の「愛のビート♪ラブギターロッド」が好調。年末に向け順次発売される同シリーズ商品に期待がかかる。
[月刊トイジャーナル]2011年8月号p70

ラブギターロッドは好調に推移したものの、それ以外はやはり苦戦を強いられた様です。

●震災の影響

「スイートプリキュア♪」のおもちゃ関連は、最終的にはバンダイの上野社長より「前年比80%」を想定している事が明かされました。

2012年の展望を聞く バンダイ 上野和典社長
一方課題といえば、女児系、プリキュアということになるのでしょうか?
上野「スイートプリキュア♪」は及第点と捉えており、最終的には前年比80%程度になると想定しています。前作がプリキュア史上最高レベルの売り上げでした。年ごとに若干の上下があるのはやむを得ないところです。
流通の皆さまに対してはプリキュアだけを切り取ると残念ながら前作ほど貢献はしていないことになりますが、キャラクターの人気は維持していますし、2012年は商品戦略の見直しなどもしていますので、ご期待にお応えできると思います。
[月刊トイジャーナル]2012年 1月 p32

 ただ、これは前年の「ハートキャッチプリキュア!」が歴代最高レベルの売り上げであったためであり、決して低い数値ではありません。事実バンダイ側からも「及第点」と評価されています。

最終的な2011年(2011.4~2012.3)のバンダイナムコのトイホビー売り上げは107億となりました。これは過去最高だった昨年の125億から18億円下回る数字ですが、震災の影響なども考慮しても決して悪い数字ではなかったものと思われます。

また、おもちゃの傾向分析としてバンダイサイドより「スイートプリキュア♪」は「下半期に品ぞろえを見直したことにより回復をみせたものの昨年を若干下回る結果となった」ことも明かされています。

バンダイ取締役トイ事業部政策担当兼トイ戦略室GM 佐藤明宏氏
女児キャラクターで「スイートプリキュア♪」は、下期以降に品揃えを見直すなどして回復したものの昨年を若干下回る結果となりました。
月刊トイジャーナル]2012年2月p47

バンダイのトイ戦略室佐藤氏は、玩具自体の問題点として、なりきりアイテム「キュアモジューレ」がやや高価な設定だったために、販売数が伸びず、それに伴い付随する「フェアリートーン」等にも影響を及ぼしてしまった事にも言及しています。

バンダイガールズトイ事業部マーケティングマーケティング戦略担当 呂泰揮
 まず前作については「立ち上げの段階で連動アイテム『フェアリートーン』の遊びの要素をしっかりと伝えきれなかったことと、変身なりきりアイテム『キュアモジューレ』がやや高価な価格設定だったこともあり販売が期待ほどの伸びなかったことで、結果的に『フェアリートーン』や他のなりきりアイテムの販売にも影響しました。
[月刊トイジャーナル]2012年2月号

様々なアイテムが連動する様になっていたプリキュア玩具において、「核となる変身おもちゃ」の価格設定やその出来などが商品全体に影響を与えてしまう構図も見られていました。

●地デジへの移行

またスイートプリキュア♪は「世帯視聴率」も前作「ハートキャッチプリキュア!」の年平均6.5%から5.2%へと1.3ポイントも下げる事となりました。これは震災の影響と、2011年にTV放送が完全に地上波デジタルへと移行した事も1つの要因だと思われます。地デジ移行に伴い、デジタル録画機器の普及も大きく進みました。

●震災の影響を受けつつも堅調な推移

「スイートプリキュア♪」は震災の影響により放送話数が予定よりも1話少なくなったり、後半の物語が変わってしまったり、映画の内容などを含めて、当初の予定から大幅に内容が変更してしまったシリーズとなりました。
 しかし秋映画「映画 スイートプリキュア♪ とりもどせ! 心がつなぐ奇跡のメロディ♪」の興行収入は8.9億と、秋映画最高の興行収入だった前年の9.3億からわずか4千万しか下がらなかったこと(昨年対比96%の興行収入)は、子どもたちに安定した人気があった証でもあります。
 また響と奏、エレンとアコ4人のプリキュアは今でも大人への人気も高く、たくさんのファンに愛されているシリーズとなりました。
数字的には震災の影響で昨年よりは落とす事となりましたが、その震災の影響を受けつつも「堅調な推移」「プリキュアの強さ」をみせた作品だったのです。

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2012年「スマイルプリキュア!」

スマイルプリキュア!ボーカルベスト

企画 西出 将之(ABC)
三宅将典(ADK)
清水慎治
プロデューサー 松下洋幸(ABC)
佐々木礼子(ADK)
梅澤淳稔
シリーズディレクター 大塚隆史
シリーズ構成 米村正二
音楽 高梨 康治
製作担当 額賀康彦
美術デザイン 増田竜太郎
色彩設計 佐久間ヨシ子
キャラクターデザイン 川村敏江

●明るく楽しい作品に

 震災の翌年、とにかく明るく楽しく、どの話からでも見られる様に1話完結で明るめの話が多いシリーズとなった「スマイルプリキュア!」。震災翌年の子供たちをまさに「笑顔」にしたシリーズです。
 キャラクターデザインは「Yes!プリキュア5」「Yes!プリキュア5GoGo!」の川村敏江さん。5人のプリキュアの個性的なキャラクターが光ります。シリーズディレクターを務めたのは「映画プリキュアオールスターズDX」3部作でその力を存分に発揮した大塚隆史さん。(以降大塚SD)今までプリキュアを手掛けてきた実力者が集合し、「震災の翌年」というデリケートな年の子どもたちのためにプリキュアを届けたのです。
 作品のテーマも「いつもスマイルでいれば、ハッピーな未来が待っている!」と前向きな未来を子供たちへと届けたのです。

新作では「いつもスマイルでいればハッピーな未来が待っている!」をテーマに、「キュアハッピー」に変身する星空みゆきら七色ケ丘中学2年の同級生5人の活躍を描く。

スマイルプリキュア!:第9弾は5人のプリキュア 2月5日放送開始 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

「スマイルプリキュア!」という名前すら決まっていなかった企画の時点は「プリキュアは一人だけにしよう」という案もあった様です。しかし、東日本大震災を受け企画を作り直し、一人で頑張るのではなく「みんなで」をテーマにした事が梅澤Pから語られています。

2012年に放送される「プリキュア」は、企画の時点ではプリキュアひとりだけだとうかがいました。

梅澤 そうです。でも、東日本大震災があったことで、今はひとりで頑張る時期ではなく、みんなで力を合わせていかなければならないのではないかと考えました。そこで、企画を一から作り直して、5人のプリキュアができあがりました。“みんなで”というテーマが最初にあったので、できるだけ人数は多くしたかった。7人とか12人とかもシミュレーションはしました。ですが、TVの画面サイズ的なことも考えて、5人がベストだろうというところに落ち着きました。
[スマイルプリキュア! コンプリートファンブック,2013]p94 (学研ムック)

震災の影響は発生当年の「スイートプリキュア♪」だけではなく、この「スマイルプリキュア!」にも大きな影響を及ぼしていたのです。(それにしても検討された?「12人のプリキュア」ってのも見たかったですよね)

●スマイルに込められた意味

また、大塚SDは「スマイルプリキュア!」というタイトルに込められた意味を「前向きで明るく元気なもの」を作り「番組を見終わったら笑顔になって、元気に遊びに行ってほしかったため」と語っています。

物語以前にまず僕が大切にしたことは、「日曜日の朝8時半にどんなアニメが流れていると気持ちいいかなぁ」という事でした。それで僕は「前向きで明るく元気なもの」にしたいと考えました。それを「プリキュア」という作品の世界観に合わせていこうと。番組を観たら笑顔になって、終わったら元気に外に遊びに行ってほしい。そんな願いを込めて、タイトルを『スマイルプリキュア!』にしました。(大塚)
[スマイルプリキュア! コンプリートファンブック, 2013]p83(学研ムック)

 この辺りも震災の影響があったものと思われますが、まさに震災の翌年に「スマイル」という明るいキーワードを提示し、明るく楽しい作品が登場した事は「子どもたちのため」というプリキュアの心を反映している様な気がしています。
 スマイルプリキュア発表時に梅澤Pも、震災に絡め「スマイルプリキュア!」を“みんなで力を合わせて”“みんなで汗をかいて”“決して笑顔を忘れずに”“絶対にあきらめない気持ち”が必要、としています。

11年は世界で、特に日本で悲しくつらい出来事が起こりました。この悲しくつらい出来事から未来に進んでいくためには、“みんなで力を合わせて”“みんなで汗をかいて”“決して笑顔を忘れずに”“絶対にあきらめない気持ち”が必要です。ですから『スマイルプリキュア!』なのです!
スマイルプリキュア!:第9弾は5人のプリキュア 2月5日放送開始 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

「スマイルプリキュア!」というタイトルには、とにかく子供たちに笑顔になってほしい、という製作者の想いが詰まっていたのです
 またスマイルプリキュア!が放送されていた時の春映画「映画プリキュアオールスターズNewStage みらいのともだち」においても、子供たちが震災の事を思い出さないように、がれきなどの直接的な表現をしなかった事なども後日言及され、プリキュアというアニメーションの子供たちへの配慮の程が伺えます。

志水 いや、破壊はしないという方向でいっていたんですよ。子どもたちが震災のことを思い出してしまうかもしれない。だから、街が破壊されたり、瓦礫の山になっているみたいな直接的な描写はやってはいけないことだと思いました。それでビルが魔法みたいにスーッと消えていくという表現にしたんです。
……3.11以降を生きる子どもたちへのメッセージでもあったんですね。

ほんとは全員に台詞を入れてあげたかった〈映画「プリキュアASNS」インタビュー志水淳児監督編〉 - エキサイトニュース

●親しみやすいキャラクター

「スマイルプリキュア!」には5人もの女の子が主人公として描かれます。その「5人の個性」に関して梅澤Pは、主人公5人はドジであったり、苦手なものがあったりと個性豊かな親しみやすいキャラクターを描きたかったとして、様々なキャラクターを用意することにより、自分に合ったキャラクターができる事、プリキュアに苦手なものを作る事により親しみを持たせてお子様に親近感を持ってもらいたかった、という想いがあった事を明かしています。

梅澤 ですから完璧なヒーローではなくて、ヌけたところがあるキャラを作りました。例えば、なおはお化けが苦手ですが、お化けが平気な子だったら、「お化けが苦手なあの子でもプリキュアになれるんだから、自分も頑張ったらなれるかも」と思ってくれるかもしれない。そういう身近さを目指しました
[スマイルプリキュア! コンプリートファンブック, 2013]p94(学研ムック)

●追加プリキュアが出なかった理由

また、「スマイルプリキュア!」という作品の大きな特徴の1つとして「中盤に追加プリキュアが登場しない」という事が挙げられます。フレッシュプリキュア!以降では6月~7月に新しいプリキュアが登場し物語を盛り上げていました。同時にそれは「新プリキュアのおもちゃの販促」でもあり、売り上げ的にもプリキュアには欠かせない要素だと思われていました。
しかし「スマイルプリキュア!」には追加プリキュアは登場しませんでした。その理由として、梅澤Pはインタビューでこの様に触れています。

「フレッシュ」、「ハーキャッチ」、「スイート』では 物語中盤でプリキュアが増えましたが、今回は最後まで5人のままでした。

この3作でプリキュアが増えたのは、私がやりたいと思っているテーマを凝縮して浮きぼりにするキャラが必要だったからなんです。例えば「フレッシュ」でいえば、テーマは「幸せとは何か」だったのですが、プリキュアにも敵にもそれぞれの思う幸せがある。そのままだと平行線にしかならないので、どちらが本当の幸せなのかと悩むキャラクターとしてせつな(キュアパッション)を登場させ、彼女はプリキュア側の幸せを選んだので、プリキュアが増える形になりました。
『スマイル』に関しては,テーマが「みんなで力を合わせる』ことでしたし、そのことに関して悩むキャラはいなかったので、追加の必要はありませんでしたね。
[スマイルプリキュア! コンプリートファンブック, 2013]p94(学研ムック)

「新しいプリキュアの追加」はその作品のテーマを際立たせるものであり、スマイルプリキュア!のテーマは「みんなで力を合わせる」というものであった。その目的は当初の5人で完結していて、そこに追加プリキュアの必要性はなかった、という事の様です。
新しいプリキュアが登場しない事の「玩具的な販促の不利」は「プリンセスフォーム」という新しいスタイルを出す事により解決を目指した様です。

●前半はプリキュア史上No1を目指せる勢い

そんな追加プリキュアが登場しないという、近年ではやや異例の「スマイルプリキュア!」はマーチャンダイジング的にはどうだったのでしょうか?

「スマイルプリキュア!」では開始当初から変身アイテム「カラフル変身!スマイルパクト」が爆発的に売れ、販売5週累計で前年の2倍近い販売額とすさまじい売れ方となっていました。

激戦で注目度増す女児玩具市場
スマイルプリキュア!
前作比で190%(販売5週累計販売額)、これまでのシリーズ9作品の中でも史上最高のスタートダッシュとなった「スマイルプリキュア!」
現在特に同作品の年間メインアイテムである「カラフル変身スマイルパクト」の絶好調ぷりが際立っており、前作のメインアイテム対比で270%
[月刊トイジャーナル]2012年5月 p27

 おもちゃ業界紙では「これまでのシリーズ9作品で、史上最高のスタートダッシュ」とまで言及されます。
同5月号では、「一部店舗では欠品も出ている」との言及もあり、例年を越えるレベルで玩具は売れていた様です。

一方女児玩具は「スマイルプリキュア!」を中心に絶好調で、一部では欠品も出ている。
[月刊トイジャーナル]2012年5月 p76

お蔭様でプリキュア史上No.1の年間売り上げも目指せる勢い
[月刊トイジャーナル]2012年6月号

その勢いは止まる事を知らずに、トイジャーナル6月号では、「プリキュア史上No.1を目指せる勢い」と言及されるのです。
開始から「スマイルプリキュア!」のおもちゃ関連は歴代最高レベルで絶好調に推移していました。

●夏以降の失速。

ただ、そのニュアンスは夏以降から変化していきます。

女児玩具では「スマイルプリキュア!」が夏から若干落ち着きつつも依然好調で~
[月刊トイジャーナル]2012年10月号p46

夏から秋口にかけて「伸び率は落ちたとはいえ~」「若干落ち着きつつも~」といった表現が見られるようになります。

この時期は9月に新シリーズが開始した「たまごっち」が人気を博し、またセガトイズの「ジュエルポッドダイヤモンド」が女子小学生の間で大ブームとなっていました。(最終的にジュエルポッドダイヤモンドは累計で50万台以上売れる大ヒット商品となりました([WEB記事【ヒット商品開発秘話】セガトイズ『ジュエルポッド』ヒットの理由, 2015]。(現在リンク切れ))

プリキュア夏以降の落ち着きは、それらライバル玩具の影響も大きいものと思われます。

女児玩具では、9月10日からTVアニメの新シリーズが始まった「たまごっち」が引き続き好調。「スマイルプリキュア!」も、伸び率は落ちたとはいえ、昨対では大きく売り上げを伸ばしている。
また「ジュエルポットダイヤモンド」が非常に高い人気を維持しており「スマートポッドタッチ」とともに女子小学生を売り場に集めている。
[月刊トイジャーナル]2012年10月号 p60

 そして最終的な総括として、翌年1月のバンダイの上野社長のコメントとして、スマイルプリキュア!は「立ち上がりこそ非常に良かったものの、夏以降に失速してしまった」と言及されます。

特別企画 新春トップインタビュー バンダイ代表取締役社長 上野和典氏
本誌 一方で「プリキュア」は立ち上がりは非常に良かったものの、夏以降に失速した印象ですが。
上野「スマイルプリキュア!」に関してはメイン商材の「スマイルパクト」に人気が集中しすぎてしまいました。 メイン商材が良すぎて第2弾商品の購買に結びつかなかった。ですのでこちらに関しては商品ラインナップに課題が残りました。
[月刊トイジャーナル]2013年1月号 p35

●失速の理由

 スマイルプリキュア!夏以降の失速。その理由として、おもちゃの人気が「スマイルパクト」に集中してしまい、第2第3の購買に結びつかなかったと分析がされています。スマイルパクトはプリキュア史上でもすさまじい売れ方をしたものの「その次」が続かなかったという事ですね。

 2012年度(2012.4~2013.3)のバンダイのトイホビー売り上げは106憶。昨年の107憶円より1億円下げる結果となりました。スタートダッシュは「過去最高を目指せる勢い」(※過去最高は125億)だったものの後半の失速により最終的には106億円という形で着地したのです。

バンダイ取締役 佐藤明宏氏
プリキュアも前作ではスマイルパクトが年間通じて売れたものの、それに続くヒット商品を出せずに年間を通した貢献ができませんでした。

2月スタートの「ドキドキ!プリキュア」では、定番キャラクターとして年間通して貢献することが義務だと考えています。
[月刊トイジャーナル]2013年2月号 p25

 この記事で触れられている様に、スマイルプリキュア!は「年間を通した貢献ができなかった」、次作「ドキドキ!プリキュア」では「年間を通して貢献できる様にする」というのは、暗に「追加戦士を出さないと、年間の売り上げに貢献ができないので、次作からは追加戦士を出します」という宣言をしている様に聞こえます。

 この発言は「おもちゃの売り上げ的」には追加プリキュアを夏前に出す事が重要であるとバンダイサイドに再認識されたという事なのだと思われます。
この「スマイルプリキュア夏以降の失速」があっての事なのかどうかは不明ですが、スマイルプリキュア!以降のプリキュアでは、全てのシリーズで夏前に新プリキュアが登場する様になりました。

ただ、おもちゃ関連は夏以降に失速したとはいえ、10月27日に公開された秋映画「映画 スマイルプリキュア!!絵本の中はみんなチグハグ!」は興行収入が9.1憶円と前年の8.9億を上回る高い数字を記録しており、その子ども人気はかなり高かったとも言えるのでしょう 

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2013年「ドキドキ!プリキュア」

ドキドキ!プリキュア オリジナル・サウンドトラック2 プリキュア・サウンド・アロー!!

プロデューサー 土肥繁葉樹(ABC)
高橋知子(ADK)
柴田宏明
シリーズディレクター 古賀 豪
シリーズ構成 山口亮太
音楽 高木 洋
製作担当 額賀 康彦
美術デザイン 増田竜太郎
色彩設計 佐久間ヨシ子
キャラクターデザイン 高橋 晃

●テーマは「愛」

2013年は「ドキドキ!プリキュア」。
東映アニメーションのプロデューサーがフレッシュプリキュア!からスマイルプリキュア!までの4作を手掛けた梅澤淳稔氏から、「ONE PIECE」等を手掛けてきた柴田宏明氏(以降柴田P)へと交代。
 シリーズディレクターを古賀豪、シリーズ構成を山口亮太、キャラクターデザインはスイートプリキュア♪以来2度目となる高橋晃氏が起用されました。
 作品のテーマは「愛」と「愛から生まれるドキドキ!」。他人に対する『献身・博愛』の心が持つパワーを描いていくとしています。

「ドキドキ!プリキュア」のテーマは「愛」と「愛から生まれるドキドキ!」。

プリキュア:最新作のヒロインは異例の優等生 ビジュアルが公開 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

 

番組のコンセプトを「キュアハートはいつも前向きで明るく、他人のためにいつも何かしてあげたいとうずうずしている女の子。他人に対する『献身・博愛』の心が持つパワーを描いていきます

プリキュア:最新作のヒロインは異例の優等生 ビジュアルが公開 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

 この「愛」というテーマは柴田Pの意向によるもで、古賀豪氏にシリーズディレクターの依頼が来た時にはすでに決まっていたとの事です。柴田Pの中では「ドキドキ!プリキュア」立ち上げ当初から「愛」をテーマにしようという意思が固まっていた様です。

ドキドキ!プリキュアのテーマは「愛」だということですが、そのテーマはいつ決まっていたのでしょうか?
古賀 それはお話をいただいた時点で決まっていたみたいです。柴田Pは「主人公を器の大きな人間にしたい」とおっしゃっていて、それなら女児ものがあまり得意でない僕でも作れるかなと。
[ドキドキ!プリキュア オフィシャルコンプリートブック, 2014]p83(学研ムック)

 柴田Pより「主人公を器の大きな人間にしたい」との要請を受け企画が始まった「ドキドキ!プリキュア」。
古賀SDの中では「プリキュアシリーズが低年齢層へとシフトしすぎている」という懸念があったと言います。そのため「ドキドキ!プリキュア」では小学生になっても見てもらえる様にと、主人公を「子供たちが憧れる女の子」に設定した、としています。

古賀 あと、『プリキュア』シリーズが低年齢層の子どもにシフトしすぎているのではないかというのが気になっていたんです。小学生になったら『プリキュア』を卒業しなくちゃ、と思われている気がして。僕としては、興味があれば小学生になっても、『プリキュア』を観られるようにしたかった。そこで、ターゲットにしている子たちが憧れるような女の子を主人公にしたんです。
[ドキドキ!プリキュア オフィシャルコンプリートブック, 2014](p83)(

●優等生が主人公の理由

ドキドキ!プリキュアは、今までのプリキュアの主人公像で多かった「ちょっとドジな女の子」「元気いっぱいだけど、勉強は苦手」といったヒロイン像から脱却し、「スポーツ万能」「成績優秀」「生徒会長」「人気アイドル」といった「出来る子」がプリキュアに変身する事が大きな特徴となっています。
 その理由として、柴田Pは「視聴者の女の子の憧れの目線の高さ」に合わせてキャラクターを設定した、と言及しています。

ドキドキ!プリキュア」における大きな進化の一つは、主人公のマナらプリキュアに変身する女の子の設定だ。主人公・相田マナ(キュアハート)は中学校の生徒会長でスポーツ万能という設定で、ほかにも生徒会書記で医師を目指す菱川六花(キュアダイヤモンド)ら優等生ばかりだ。過去の作品でも優等生キャラの活躍が描かれたことはあるが、夢原のぞみ(Yes!プリキュア5)や北条響(スイートプリキュア♪)らのように元気だが勉強が苦手なヒロインが多かったこともあり、異例といえるだろう。

柴田さんは、この変化について「優等生を描いているつもりはありません。彼女たちは得意なことも苦手なこともある。これまでのプリキュアもそうでした」と前置きした上で「素直にキャラクターの魅力を伝えたかったので、彼女たちのいいところを見せて、女の子に『こうなりたい』と思ってもらえるようにした。女の子が早熟になっていて、憧れの目線が高くなっているかもしれないとも感じている。より高いレベルのキャラ設定が必要になっているのかもしれません。仮説ですけどね」と女の子の憧れの変化に合わせてキャラクターを設定したことを説明する。

【写真特集 1/6枚】プリキュア:10年目でさらなる進化 今ドキの女の子を虜にする魅力とは? - MANTANWEB(まんたんウェブ)

 

 つまり「親しみをもってもらう」よりも対象の子どもたちに「憧れてもらう」主人公像を目指していた事が、相田マナを始めプリキュア全員が「出来る」キャラであった理由だったのです。
 それは見ている女の子が早熟になり「高いレベルの女子」でないと、憧れの対象にならない、という思いからの設定の様です。
 前作「スマイルプリキュア!」が親しみやすいキャラクターを設定し、女の子に親しみをもってもらっていたのに対し、対極のキャラクター作りを行う事は、常に新しいものを作っていくプリキュアシリーズならではだと思われます。

また、ドキドキ!プリキュアの変身アイテム「ラブリーコミューン」はスマートフォン型となっていますが、その理由として「近年の子供の興味を反映したため」とし、スマホの様な「子供の好きなもの」を積極的に取り入れていく姿勢もうかがえます。

変身アイテムとしてスマートフォンを採用しているのも、近年の子どもの興味を反映しているところだ。柴田さんは、今回の変身アイテムについて「今の子どもはスマホが好きですよね。初代(ふたりはプリキュア)の変身アイテムは携帯電話で、当時は子どもが携帯電話を持つのが珍しかったこともあり、時代性があった。10年目で初代に立ち返るという意味も少しあります」と明かす。

【写真特集 1/6枚】プリキュア:10年目でさらなる進化 今ドキの女の子を虜にする魅力とは? - MANTANWEB(まんたんウェブ)

これも社会的な子どもの変化に対し、柔軟に作風を変えている事の表れでもあると思われます。

そんな従来のプリキュアとは異なる視点も多く取り入れた「ドキドキ!プリキュア」。
子どもたちの目にはどう映っていたのでしょうか?
それについて言及するには、あるコンテンツたちを知る必要があるのです。

 

実はこの時期のプリキュアシリーズは「とある強力なライバル」との戦いが繰り広げられていました。プリキュアが戦っていたのは敵組織だけでは無く「ライバルコンテンツ」とも熾烈な戦いを繰り広げていたのです。

この先のプリキュアシリーズを語る上で欠かせない「とある重要な作品」について少し説明します。

プリティーリズム~アイカツ!の脅威

2009年(フレッシュプリキュア!)~2012年(スマイルプリキュア!)の時期のプリキュアは様々なライバルコンテンツと争いながらも、バンダイが実施している「こどもアンケート」では、ずっと3~5歳の女の子人気1位を獲得。
多少の上下動はあったものの、おもちゃ関連の売り上げ、映画の興行収入もずっと好調を維持していました。

TVアニメが「全国放送」の強みもあったとは思われますがアニメ制作会社、玩具メーカー、出版社、その他メーカーなどスポンサーの連携が上手く取れ、隙の無い商品展開で、まさにプリキュアは「女の子向けコンテンツの黄金期」を迎えていました。

しかしそんな中、プリキュアはアニメでもなく、玩具でもない意外な所からライバルコンテンツの侵入を許してしまうのです。

●プリティーリズム稼働開始

その発端となったのは、2010年7月に稼働を開始したタカラトミーの女の子向けアーケードカードゲーム「プリティーリズム」です。カードではなく「ハート形の宝石」が出てくる斬新性とそのキラキラとした美しさ、また、使用されている楽曲のクオリティの高さや、スケート様の動きを採用することで、画面を縦横無尽に走り回る事ができる3DCG演出のクオリティの高さなどから徐々に女の子に浸透し、2011年4月にアニメ「プリティーリズム オーロラドリーム」の放送が開始した頃には、女の子の間で大人気コンテンツへとなっていました。
そのブームはすさまじく、2012年の東京おもちゃショーのレポートでは、「東京おもちゃショー始まって以来の驚きの光景」としてプリティーリズムの行列を報じています。

東京おもちゃショー2012
パブリックデーには、東京おもちゃショー始まって以来と思われる驚きの光景が見られた。両日とも会場前からオシャレな洋服に身を包んだJS(女子小学生)とその母親が大行列を作ったのだ。彼女たちの最大の目的はタカラトミーアーツの大人気筐体「プリティーリズム・ディアマイフューチャー」の公式大会「スタンドアップガールズ」への参加券だった。 ゲームで高得点をマークすると新レアストーンが貰えるこの大会の整理券は初日400枚、2日目350枚が用意されたが両日ともに配布開始20分で終了し、行列したJS達の過半数が整理券を手にできない状況となった。
[月刊トイジャーナル]2012年7月号p44

女の子、特に小学生の間で大ブームを巻き起こした「プリティーリズム」。アーケードカードゲームを中心に、アニメ、玩具、アパレルなどにも進出し、大きな成功をおさめます。

●アイカツ!の大ブーム到来

しかしそんなプリティーリズムの大成功をみすみす見過ごすバンダイではありません。
バンダイはプリティーリズムから遅れる事1年6か月、2012年10月に女の子向けカードゲーム「アイカツ!」を投入します。
ゲームの稼働1週間前にはサンライズが手掛けるアニメの放送も開始。一気に巻き返しを図り、こちらもそのキャラクター造形やハイクオリティの楽曲、ゲーム画面中の演出の良さや、同時に放送されていたTVアニメーションのクオリティの高さ等が子どもはもちろんの事、大人も巻き込んで、一気に大ブームとなり、一躍大人気コンテンツへと成長していきました。(「アイカツおじさん」なる言葉も出来たのがこの辺りです)

ドレスが描かれたカードを組み合わせ、自分だけのアイドル活動をテーマにしたゲーム版『アイカツ!』シリーズ累計出荷数約2.1億枚、ICカード累計登録者数約80万人を突破(どちらも2016年1月末時点)という数字をたたき出し、小学生女児を中心に、中高生や大人まで性別や年齢を問わず幅広いファン層に支持されている

『アイカツスターズ!』は『アイカツ!』からどう変わる? - バンダイ・データカードダス開発チームを直撃 (1) 『アイカツ!』は『アイカツスターズ!』にリニューアル | マイナビニュース

「プリティーリズム」と「アイカツ!」。
2013年はこの2つの女の子向けコンテンツが大きなブームとなっていたのです。しかし、その「アイカツ!」大ブームこそが同じバンダイの「プリキュア」をも苦しめることとなったのです。
アイカツ!は小学生をメインターゲットとしていましたがブームの拡大につれ小学生低学年、さらには未就学児にもその余波は広がり、プリキュアのターゲット層の一部が奪われてしまいます。それが2012~2014年までのプリキュアの売り上げ低下の一要因となりました。
当時のアイカツ!人気の凄さはバンダイのトイホビー売り上げにも表れ、トイホビーの売り上げもアイカツ!はプリキュアを大きく上回る事となりました。

小学低学年女児を中心に人気を集めているカードゲーム「アイカツ!」。カードの販売開始から約1年半で急成長を遂げ、グッズなどの売り上げは今年度約141億円が見込まれており、同じバンダイナムコグループのキャラクターでは10周年を迎えた人気アニメ「プリキュア」シリーズを上回る予定だ。

アイカツ!:売り上げ140億円に急成長 大ブームの裏側 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

IFを言ってもしょうがないのですが、あの時、プリティーリズムの大ヒットが無ければ、アイカツ!は生まれる事はなかったでしょうし、そうなるとプリキュアも今とは違った形になっていたものと思われます。
プリティーリズムは今のプリキュアシリーズにも大きな影響を与えているのです。

そんなアイカツ!大ブームの真っ最中だった時のプリキュアが「ドキドキ!プリキュア」でした。
そんな巨大なライバルたちと戦っていたドキドキ!プリキュアのおもちゃの状況を見てみましょう。

●「キュアエース」はバンダイからの要請

商業上も重要な役割を果たす追加プリキュア「キュアエース」に関してシリーズ構成の山口亮太氏が、自身のnoteにて、「2012年9月末の3話の決定稿が出るあたりでバンダイより5人目のプリキュアを出してほしいという依頼があった」という事を語っています。

さて、レジーナ登場と劇場版のシナリオ作業というふたつの巨大な波と格闘していた頃、その8のラストで触れた通り、突如としてとんでもない試練が降りかかります。

「五人目のプリキュアを出してください」

バンダイからの指示が私に届いたのが2012年の9月末。作業的には3話の決定稿が出るか出ないかのあたりです。何故、この時期にてこ入れの案が出たのかは知る由もありません。ですが、こちらもこの道二十数年。この手の無茶振りもといオーダーに答えたことは何度もあります。
「やったろうやないかい!」
と、我々は鼻息も荒くこの難題に立ち向かいました。

ドキドキ!プリキュアについて【11】|山口亮太|note

前年の9月末には「3話」までのストーリーがほぼ決定している、という事にも驚かされますが、その時点で「新しいプリキュアが登場するのか否なのか」が決まっていなかった、という事にも驚かされます。
これは想像なのですが、この2012年9月というタイミングは、昨年スマイルプリキュア!が追加プリキュアがいなかった事により売り上げ的に失速してしまった時期とほぼ一致します。スマイルプリキュア!夏以降の失速が理由で、急遽ドキドキ!プリキュアに追加プリキュアを出す事となった可能性もあると思われます。
同様に「キュアソード」に関しても「映画プリキュアオールスターズNewStage2」の公開に合わせて登場が決まった事なども同noteでは語られています。

7話のプロットを提出したのは2012年10月9日です。
当初、真琴が仲間に加わるのはもう少し後でもいいんじゃないか、という案もあったのですが、映画NS2(2013年3月16日公開。7話の初回放送は翌3月17日)との関係上、現在の話数になったのでした。

ドキドキ!プリキュアについて【8】|山口亮太|note

これに限らず、追加プリキュアを含め、プリキュアが登場するタイミングは商業的な理由により大きく左右されている事が分かります。

●ドキドキ!プリキュアのおもちゃ

そんなドキドキ!プリキュアはスタート時には「昨年を上回りシリーズ史上1番の好発進」と記載されるレベルで子供たちの心をつかんでいた様です。トイジャーナルにその記載があります。

そうした中、今後に期待が持てる大きな動きも出てきている。その1つが2月3日に放送開始した、シリーズ10作目の「ドキドキ!プリキュア」だ。 昨年のスタート時を上回りシリーズ史上1番の好発進で、なりきりアイテムを中心に動いており、メーカー側も昨年の動きを踏まえ、ゴールデンウィーク以降も好調が維持するような仕掛けを投じていくとの事で今後の動きにも要注目だ。
[月刊トイジャーナル] 2013年3月号p62

昨年(スマイルプリキュア!)もスタート時は驚異的な勢いで売れていたのですが、さらにそれを上回る勢いでの好発進だった模様です。昨年の女の子向けおもちゃ年間1位の大ヒット玩具「スマイルパクト」の勢いを越えるレベルというのはものすごい事なのです。

●例年よりも早いペースダウン

しかし、その勢いは長くは続きませんでした。早くも3月に入ると勢いはペースダウンし、前年を下回る動きとなってしまっていた様です。

一方、女児玩具に関しては「ドキドキ!プリキュア」が初動は過去最高の販売を記録したものの次の商品までの間隔が空き、ペースダウン。3月に入って前年を割っている。
[月刊トイジャーナル] 2013年4月号p76

その失速の原因は、変身アイテム「ラブリーコミューン」に続く次のアイテム、妖精おもちゃの「おせわしてきゅぴ!ちゅぱちゅぱアイちゃん」の投入が遅れたため、と分析されています。

女児玩具
まずこの時期、市場を語る上で焦点となるのが、バンダイの新キャラクターの動向である。「ドキドキ!プリキュア」のメイン商材である「ドキドキ変身!ラブリーコミューン」の初動は、シリーズ最高となったものの、3月に入ってシリーズ全体では勢いが減速した。
これは商品の投入タイミングの問題。メイン商材に次ぐ大型アイテム「おせわしてきゅぴ!ちゅぱちゅぱアイちゃん」の投入が3月下旬であり、メイン商材の発売から2か月近く間隔が空くことに起因する。
 プリキュアは4月中旬には大型武器アイテム「ラブハートアロー」の発売も予定しており、大型アイテムの連続投入でGW商戦に第二の山が来ることが期待されている。
[月刊トイジャーナル]2013年4月号p77

続いて武器おもちゃ「ラブハートアロー」を投入しますが、初夏になっても事態は好転する事はなく「プリキュアは期待値に届いていない」とたびたび言及されるようになります。
一方「アイカツ!」は引き続きの絶好調で「人気が定着した」と言われるまでになっていました。

女児玩具は「プリキュア」が売れてはいるが期待値には届いていない。女子小学生層の「アイカツ!」人気はもはや定着した感があり、関連商品への期待も高い。
[月刊トイジャーナル]2013年7月号 p56

好調との声が聞こえるのはセガトイズの「ジュエルポッド ダイアモンド」。バンダイの「プリキュア」は決して売れていないわけではないが、現状では売り場の期待に応えられていない。 一方で「アイカツ!」は変わらず支持を集めている。
[月刊トイジャーナル]2013年7月p57

また、この時期はセガトイズの「ジュエルポッド」が「ダイヤモンドプレミアム」にリニューアル。昨年より引き続きの好調を維持していました。その影響もあり、プリキュアは「売れていないわけではないが、売り場の期待には応えれていない」と言及されてしまうのです。

●キュアエース、好調

しかし「プリキュア」も負けていません。
7月に投入した新プリキュア「キュアエース」関連のおもちゃ(ラブキッスルージュ、ラブアイスパレット、キャラリート等)が好調な推移を見せトレンドが回復します。

女児に関しても7月から「ドキドキ!プリキュア」に5人目のヒロイン登場でトレンドが回復、
[月刊トイジャーナル]2013年8月p57

ドキドキ!プリキュア」には7月13日に5人目の新ヒロインキュアエースの関連商品「ラブアイズパレット」と「ラブキッスルージュ」が投入され、好調に推移。
販売店によってはプリキュア関連商材の売り上げが前月比で2ケタ伸びたとの声も上がっている。
[月刊トイジャーナル]2013年8月 p30

販売店によっては前月比で2桁伸びたという店舗もあった様です。

●アイカツフォンの脅威

夏場はキュアエース関連のおもちゃが好調に推移し、このままプリキュアは回復していくのかと思われていました。しかしそんな矢先「その年の女の子おもちゃNo1」の座につく事になるモンスター級の玩具が発売されます。
アイカツ!の電子玩具「アイカツ!アイカツフォンスマート」です。
「アイカツフォンスマート」は9月の発売と同時に女の子の間で話題となり、翌10月には急伸、品切れを起こす店舗も見られる程の人気となりました。
アイカツ!のアーケードカードゲームおよびアニメの絶好調と共にアイカツフォンスマートを始めとしたアイカツ!関連のおもちゃ、アパレル等の好調は、本来プリキュアに使われるはずだった「子どもへの支出」に影響を与え、プリキュアのトイホビー売り上げはその勢いを停滞させていったのです。

一方で女児玩具では女子小学生向けスマホ玩具で動き。バンダイが9月に発売した「アイカツ!アイカツフォンスマート」が10月に入って急伸、いまや小学生女児向け玩具としてはナンバーワンとの声も出てきている。
[月刊トイジャーナル]2013年11月号 p92

夏前に投入した「キュアエース」関連のおもちゃで回復傾向を見せたプリキュアは、同じバンダイのアイカツ!のおもちゃ「アイカツフォンスマート」にそのシェアを奪われる事となってしまったのです。

それでもプリキュアはクリスマス商戦では年末の主力アイテム「ラブリーパッド」が昨年の「ロイヤルクロック」比で250%も売れ、大きく売り上げに貢献しました。当時は「電子玩具」のブームだったこともあり、それを察知してプリキュアのクリスマス商戦用アイテムを電子玩具にしたことはバンダイの慧眼だと思われます。

年末年始商戦2013-2014
トイ戦略室ゼネラルマネージャー 渡辺伸吾氏
「ドキドキ!プリキュア」は年末主力商品の「ラブリーパッド」が比較的高単価な商品だったにもかかわらず一気に伸び、前作の年末主力商材だった「ロイヤルクロック」比で250%と大きく貢献し、プリキュア全体で前年比121%を達成することができました。 
[月刊トイジャーナル]2014年2月号 p2

マーケットレポート 2013年クリスマス商戦速報
プリキュアも前年をわずかながら越えている模様。
[月刊トイジャーナル]2014年2月号 p65

年末商戦ではプリキュア全体で121%を達成、昨年「スマイルプリキュア!」は追加プリキュアの不在などが影響し後半失速してしまいましたが、ドキドキ!プリキュアでは1年を通し売り上げが安定し、後半も失速する事はなかった様です。

●秋の映画は興行収入No1に

しかし2013年度(2013.4~2014.3)のバンダイナムコのトイホビー売り上げは、昨年の106憶から8億下げ98憶となり、2006年度以来の100憶を下回る結果となりました。
更に「おもちゃの年間売り上げランキング」でも、女の子向けおもちゃではずっと1位を取り続けてきたプリキュア玩具は、2013年は1位から陥落、代わって2013年の女の子向けおもちゃ1位に輝いたのは「アイカツフォンスマート」でした。

この年のバンダイは、アーケードカードゲーム筐体では昨年の「プリティーリズム」から「アイカツ!」がNo1シェアへ。
スマホ型玩具では昨年の「ジュエルポッドダイアモンド」から「アイカツフォンスマート」がシェアNo1へ。
バンダイが「他社が開拓した市場のシェアを翌年に新製品で奪い取る」構図が見られました。

そんなアイカツ!旋風が吹き荒れる中、10月26日に公開された秋の映画「映画 ドキドキ!プリキュア マナ結婚!?未来につなぐ希望のドレス」は興行収入が9.5憶円と、当時の秋映画の中では最高の興行収入を記録するなど、「ドキドキ!プリキュア」は、アイカツ!の大きな波の中、かなりの健闘していた作品でもあったのです。

2014年「ハピネスチャージプリキュア!」

ハピネスチャージプリキュア!  ボーカルベスト

プロデューサー 土肥繁葉樹(ABC)
高橋知子(ADK)
柴田宏明
シリーズディレクター 長峯 達也
シリーズ構成 成田 良美
音楽 高木 洋
製作担当 山崎 尊宗
美術デザイン 増田 竜太郎
色彩設計 佐久間 ヨシ子
キャラクターデザイン 佐藤 雅将

●10周年記念作品

 続く2014年は「ハピネスチャージプリキュア!」が放送されます。「プリキュア10周年」を記念するこのシリーズ、東映アニメのプロデューサーは引き続き柴田宏明氏が務め、シリーズディレクターにはハートキャッチプリキュア!以来2回目となる長峯達也氏(以降長峯SD)シリーズ構成には「Yes!プリキュア5」他数々のプリキュアを手掛けてきた成田良美氏を起用。プリキュアを知り尽くした製作陣が10周年を固めます。
プリキュア10周年にふさわしく、番組開始冒頭で歴代のプリキュア達全員が毎週1人づつあいさつを行うなど華やかなスタートとなりました。
「ハピネスチャージプリキュア!」開始の前のアナウンスにおいて、そのテーマは「みんなを幸せにするために戦います!」。合言葉は「ハピネス注入!」であることが発表されました。

テーマは「みんなを幸せにするために戦います!」で、合言葉は「ハピネス注入!」。

プリキュア:最新作はおしゃれと恋愛 イケメン登場 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

 放送前のプレスリリースでは「おしゃれ」もキーワードに、2人のイケメンが出て来て「淡い恋愛模様」も描かれることも明かされ、プリキュアファンの間ではプリキュアでは大きく取り上げられる事のなかった「恋愛」がどのように描かれるのか、大きな話題となっていました。

「おしゃれ」をキーワードに、プリキュアをサポートする2人の“イケメン”も登場し、淡い恋愛模様も描かれるという。

プリキュア:最新作はおしゃれと恋愛 イケメン登場 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

●「幸せ」がテーマ

ハピネスチャージプリキュア!の「幸せ」というテーマは柴田Pからのものではなく、長峯SDの発案によるもので進められていた様です。

長峯SDのメモの段階で、テーマは「幸せ」と決まっていたのでしょうか?
(柴田)決まっていました。「みんな幸せ、ハピネスチャージ」という言葉も、長峯さんの案です。長峯さんは「幸せというのは、本当に自らの心のありようによって変わっていくものだよね」と、最初の打ち合わせでおっしゃっていました。「自分にとってつらい状況でも、見方を変えると悪くないかもしれないし、どこかに幸せがあるかもしれない。結局は受け止め方次第」ということを描きたいんだと。
[ハピネスチャージプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2015]p88(学研ムック)

「みんな幸せ、ハピネスチャージ」という言葉も長峯SDの案だった様です。
前作「ドキドキ!プリキュア」の「愛」というテーマは柴田Pの意向により決められたものだったのですが、今作ハピネスチャージプリキュア!では長峯SDの意向により「幸せ」がテーマとなりました。「誰がテーマを決めるのか?」という点においてもプリキュアはシリーズ毎に違い、その特色が伺えます。

ハピネスチャージプリキュア!のキャラクターデザインは佐藤雅将氏。そのデザインの特徴的なスタイルでもある「ベストを着た制服の様なコスチュームデザイン」に関して佐藤は、当時人気の高かったアイドル、AKB48を意識していた事を明かしています。

スタッフとの打ち合わせの中でアイドルのAKB48が着ているような衣装にしたいよね、という案が出て来て、べストを着せたんだと思います。
[ハピネスチャージプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2015]p83(学研ムック)

●ハピネスチャージプリキュアの世界観

また、今作ではプリキュアシリーズ初の「世界中にプリキュアがいる」という設定となっています。その理由として長峯SDは、従来のプリキュアから「パターン崩し」をしたかったため、とし「世界を救うのが4人の中学生」というのも無理があるのじゃないか、との考えを示しています。

長峯 本作では、パターン崩しをいろいろやらせてもらいました。「世界のプリキュア」を登場させたのも、その一環ですね。世界の危機って言われているのに、中学生4人で解決するには無理があるなと思って。
[ハピネスチャージプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2015]p78(学研ムック)

ハピネスチャージプリキュア!では4人のプリキュアがカードを使用し様々な服装に着替えていきます。そんな「着替え」の要素および主人公の1人「キュアプリンセス」の白雪ひめが「おしゃれ」が好きと設定されたのも「子どもが好きなものを玩具会社と考えた結果」であり、バンダイら玩具会社と東映アニメーションが連携をとりつつ「女の子の好きなもの」を作品に積極的に取り込んでいく姿勢がここでも伺えます。

まず、どういったものが女の子に喜ばれるか玩具会社と考えるところから始まりました。女の子って、未就学児でもおしゃれにこだわりがある子が多いんです。そこで今回は着替えをしていこうと。
[ハピネスチャージプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2015]p84(学研ムック)

また、プリキュアのデザインに関しても玩具会社からの意向があり、それをキャラクターデザインである佐藤氏がブラッシュアップしていた様です。これは今作に限らずプリキュアでは見られる傾向で、「玩具会社の出したいもの」と、「アニメ制作会社の作りたいもの」とが、上手く融合する事により、プリキュアはブラッシュアップされていくのです。

イノセントフォームは、玩具会社から希望のデザインはあったのでしょうか?
ありました。そのデザインは腕が全部出ていて、ミニスカートでしたね。それだけだと“スペシャル感”があまり感じられなかったので、腕を全部隠したり、スカートをふわっとさせてりしたのですが、もうちょっとスペシャル感がだせたのではないかと今は思ってしまいます。
[ハピネスチャージプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2015]p84(学研ムック)


●恋愛を描いたハピネスチャージ

そんなハピネスチャージプリキュア!
ストーリー的にも「主人公の恋愛」を軸に「自己犠牲の先にある、本当の幸せ」を描いたその作風は、従来のプリキュアシリーズよりもやや対象年齢を上げていた様に感じます。「恋愛」をテーマにするというのも、主人公たちの「思春期特有の甘酸っぱい恋愛話」などではなく、主人公と想い人と幼馴染みの三角関係といった比較的「重い」内容の恋愛事情が描かれました。
「ハピネスチャージプリキュア!」のテーマが「恋愛」と「幸せ」だったことに対し、シリーズ構成でメイン脚本家であった成田良美さんは、「恋愛というテーマは長峯SDの中にあり、自分はその明確なビジョンを整える役であった」、としつつ、「世界を救うための自己犠牲」ではなくもっと「利己的に動く等身大の中学生像」を描きたかった、としています。

本作のテーマには「恋愛」と「幸せ」がありました。

成田 テーマをどうするかは長峯SDの中に明確なビジョンがあったので、私はその案をいただきつつ、整えていくのが主な作業でしたね。
ただ、歴代のプリキュアたちが当たり前のように自分を犠牲にしてでも地球を救うという話が多かったので,そうではない主人公にしたかった。みんなの幸せが私の幸せ,みんなの笑顔が私の笑顔というのは本当なのかというのを投げかけたかったんです。リアルな中学生の女の子を考えると,もっと利己的なところに思いはあるのではないかと。等身大の中学生らしい女の子を書きたかったんですね。
[ハピネスチャージプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2015]p80(学研ムック)

その結果として「他人を、そして世界を救ったのだけど、自分は幸せになったの?」という問いかけがアニメ本編でも多々見られることとなりました
長峰SDは放送終了後に発売されたオフィシャルコンプリートブックにて、恋愛はもう少し感覚的なものをイメージしていたが「好きか嫌いか」という部分だけがクローズアップされてしまった事に触れ、恋愛模様の描き方について、もう少し明るめのものにしたかった旨を語っています。

長峯 僕自身は、もうちょっと感覚的なものをイメージしていたんですよね。好き嫌いにしても、心と心の触れ合いをメインにできたら子どもたちにつたわるのかなと。恋をすることで人間的に成長していく姿が描けたらと考えてはいたのですが、相手のことを好きか嫌いかという部分だけが大きく出てしまいました。
やはり、子どもに向けて作品を作る場合は、メインのキャラクター同士が仲よくしている姿が観ていて楽しいんだと思うんですよ。そういう意味では、もう一歩メインの子たちをキャッキャウフフさせたかった。
[ハピネスチャージプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2015]p76(学研ムック)

長峯SD的には、恋愛模様は「もっとキャラクターをキャッキャウフフ」させたかった様です。

同時に同コンプリートブックでは、シリーズ構成の成田良美さんがプリキュアにおける恋愛のタブーに触れつつも、自身のプリキュアの経験から「恋愛の深い話を本当に書いてよいのか?」と長峯SDに何度も確認していた事も明かされています。

成田 『プリキュア』は子どもが観るということもあって、恋愛を描くのはタブーになりつつありました。実際に脚本を担当するときも、恋愛のエピソードは避けてほしいと言われることもあるくらいで。ですが、今回は長峯さんが「やりましょう」と言ってくれたので、「ついていきます」という気持ちでしたね。
ただ私自身が長く『プリキュア』に関わっていることもあって、「本当に書いていいんですか?」と何回も確認しました。
[ハピネスチャージプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2015]p80

また、成田氏は「ハピネスチャージプリキュア!」では恋愛のリアルさは出せたものの、子供たちにとって恋愛のリアルさはどこまで必要なのか、恋愛未経験の子供たちにどう伝えていくのかという葛藤があった事にも言及しています。

恋愛ものになると、どうしても誰かひとりの話に偏りがちですが、4人全員にほのかながらも恋の要素を盛り込めたことで、リアルさは出せたのではないかと思っています。
ただ、子どもが観るものということを考えると、必ずしもリアルにするのがいいわけではないんですよね。恋愛は子どもたちには未経験のことですから、ついてこられなくなってしまう。主人公たちの年齢と視聴対象のズレは毎回考えてますよ。
[ハピネスチャージプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2015]p80

関係者インタビューを読み返してみても、関係者それぞれの恋愛観があり、それらを統率していき子どもにわかりやすい様に1つの作品にしていく事の難しさが垣間見られます。
そんな「恋愛」を軸にした「ハピネスチャージプリキュア!」。子供たちの反応はどうだったのでしょうか?

●商業的には不調が続く。

結論から言えば、「ハピネスチャージプリキュア!」は興行的には不振が続き、残念ながらプリキュア2度目の大きな落ち込みが訪れます。

玩具業界誌では開始当初から「メインアイテムを中心に動きが鈍った」「売り場によっては2ケタ減」などとマイナスな表現が続きました。

2月に番組と商品展開がスタートした「ハピネスチャージプリキュア!」は3月に入ってからメインアイテムを中心に動きが鈍った。売り場によっては前年同月比で2ケタの減となっているとの声も。
[月刊トイジャーナル] 2014年 4月号p61

ただ、「ハピネスチャージプリキュア!」のおもちゃの不調は、アニメの内容などの「内的な要因」ではなく、昨年からの流れで「アイカツ!」へ子供たちの関心が移っていた事、「妖怪ウォッチ」「アナと雪の女王」など子供向けコンテンツの空前の大ブーム、すなわちが「外的な要因」が大きかったのだと思われます。

●不調の理由は外的な要因?

ハピネスチャージプリキュア!は内容的はKIDS視聴率も昨年と同程度だった事、5月に実施されるバンダイの「こどもアンケート」の3~5歳女の子の「好きなキャラクター」でも例年通りプリキュアが「1位」を獲得していた事を考えても、「女の子の興味が離れていた」というデータはみつかりません。
それよりも、前年からの「プリティーリズム」「アイカツ!」の小学生低学年、および未就学児への浸透に加え、「妖怪ウォッチ」の空前の大ブームが女の子の購買にまで影響を与えた事、3月に公開されたディズニー映画「アナと雪の女王」の大ブームのトリプルパンチを見事にくらう形となり、関連商品の売り上げを大きく落とすこととなったものと思われます。

3月公開のディズニー映画「アナと雪の女王」。最終的な興行収入は254億7000万円と、その年の日本公開の映画で最大のヒットとなり、メディアでも連日の様に取り上げられ社会現象レベルにまでなっていました。「みんなで歌おう上映」なども開かれ、映画はロングラン上映となりました。

また、3月の日本公開以降すでに興行収入100億円を超える大ヒットとなっているディズニー映画「アナと雪の女王」関連商品も売れている。マテル・インターナショナルの商品は完全に入荷待ちの状況
[月刊トイジャーナル]2014年6月p65

この「アナ雪ブーム」は大人だけではなく、子どもにも浸透していた様子が当時の記事などに残っています。アナ雪はおもちゃ関連も好調だった様です。

「アナと雪の女王」に関してはすでに「リカちゃん」や「プリキュア」といった定番ブランドと競合し影響が出ているとの指摘もある。
[月刊トイジャーナル]2014年10月号

さらに2014年は「妖怪ウォッチ」というコンテンツが社会現象と化した年でした。「妖怪メダル」の発売日には全国のおもちゃ屋さんで長蛇の列が出来、メダルの転売なども大きな問題となりました。放送されていたアニメも大好評でOPソング「ゲラゲラポーのうた」EDソング「ようかい体操第一」も大ヒット、音楽番組などでも大きく取り上げられていました。さらに2014年7月に発売された妖怪ウォッチの映画前売り券は特典のメダル効果もあり、異例の113万枚を売り上げ、特典を入手できない子どもが続出して大きな問題になったりと、とにかく「妖怪大旋風」が吹き荒れていたのです。
妖怪ウォッチは「男の子向けコンテンツ」と思うかもしれませんが、玩具業界紙には「現在のユーザーの半分は女児が占める」「妖怪ウォッチの人気は現在男子小学生のみならず、女児や未就学児までに波及しつつある。」とあるように、女児にも妖怪ウォッチは浸透していたようです。

妖怪ウォッチ
また人気はメダルだけではなくバンダイ以外のメーカーが展開する関連商材にも波及。特に文具やぬいぐるみなどは男児だけではなく女児にも人気で、現在のユーザーの半分は女児が占めるともいわれている。
[月刊トイジャーナル]2014年6月 p65

例えば「妖怪ウォッチ」の人気は現在男子小学生のみならず、女児や未就学児までに波及しつつある。
[月刊トイジャーナル]2014年10月号

ハピネスチャージプリキュア!が「妖怪ウォッチ「アナと雪の女王」に取られていた事は、業界紙にて、バンダイ側からも言及されています。

バンダイ:トイ戦略ゼネラルマネージャー渡辺伸吾氏
ガールズに関しては本当に反省すべき部分は多いと思っています。
特に「プリキュア」は完全に「妖怪ウォッチ」と「アナと雪の女王」に取られた形です。
[月刊トイジャーナル]2015年2月号p43

新春トップインタビュー バンダイ代表表取締役社長 上野和典
妖怪ウォッチが男児だけではなく女児にも大人気になっている事で女児キャラクターにも影響が出始めており、プリキュアは昨年より数字を落としています。
[月刊トイジャーナル]2015年1月号p28

2014年は「アイカツ!」「アナと雪の女王」「妖怪ウォッチ」の空前の大ブームに押され、プリキュア関連の数字は軒並み下降してしまいます。
秋の映画「映画ハピネスチャージプリキュア!人形の国のバレリーナ」の興行収入は5.3億円。昨年9.5億円から大きく数字を落とす結果(昨対55.8%)となりました。
また、バンダイのトイホビー売り上げも2014年度(2014.4~2015.3)は65億と、前年の98億から33億円も下げる(66.3%)結果となり、こちらも大きな落ち込みを見せることとなったのです。
(ただ2014年4月より、消費税が5%から8%に増税しており、その影響で消費の落ち込みもあったことも考慮に入れる必要があるかと思われます。)

 

その落ち込みの主要因は外的な要因だと思われます。ただそれだけではなかった事もバンダイサイドから示唆されています。

●不調の要因(内的な要因)

トイジャーナル誌上で、バンダイとして「ハピネスチャージプリキュア!」は「メインターゲットを比較的高めの5~6歳に設定していたが、商品内容的にもマッチしなかった」こと、鏡というモチーフが女の子の憧れへの訴求としては弱かった、と分析しています。

ガールズトイ事業部マーケティングチームマーケティング戦略担当
山崎弘太郎氏
「前作の苦戦はメインターゲットである3~6歳女児の中でも比較的高めの5,6歳に設定したのですが、商品内容やプロモーション内容がその年齢層にしっかり落とし込めていませんでした。
(中略)
「前作のメインアイテムは鏡がモチーフだったのですが、やはり憧れの対象として鏡は弱かったと思っています。
[月刊トイジャーナル]2015.2月号 p9

要は「恋愛」という比較的高めの年齢をターゲットとしていたアニメ制作側と、その年齢層に向けたおもちゃのプロモーションが出来なかったおもちゃ制作側との意識の乖離もあった様です。

それを踏まえても「ハピネスチャージプリキュア!」は子どもの人気が無かったわけではなく、「他の巨大なライバルコンテンツに予想外の大ブームが到来すると、その影響を一番に受けるのが「女の子向けNo1コンテンツであるプリキュア」という事実が露呈した事に他なりません。
 しかし、プリキュアというコンテンツは商業的な結びつきと縁を切る事はできません。この(結果だけをみれば)「映画の興行収入が前年比55%」「トイホビーの売り上げが前年比66%まで落ち込む」という事実に対し、バンダイ側はどの様な結論をだしたのでしょうか?

●「引き続き人気が維持できるように」

新春トップインタビュー バンダイ代表表取締役社長 上野和典
15年の展望は?
上野 それと戦隊や仮面ライダー、プリキュアなどの定番キャラクターも今までと引き続きで人気が維持できるようにさらに努力していきたい。
せっかく何十年とやってきた定番キャラクターですし、売り上げの更なる拡大のチャンスはまだまだあると思っています。前年より売り上げが落ちたIPは再建することが一番重要になってくると思います。
[月刊トイジャーナル]2015年1月号 p28

1度目の危機(Splash☆Star)の時は「次が成功しなければシリーズが終わるかもしれない」と言われていたプリキュアシリーズでしたが、10年の歳月を経てバンダイ側より(たとえ売り上げが落ちても)「引き続き人気が維持できる様にしていきたい」と言及されるまでになっていました。この10年で培ってきたプリキュアの信頼感がそうさせているのだと思います。10年の歳月を経てプリキュアというタイトルはここまで大きな存在へとなっていたのです。

そんなプリキュアシリーズは、次作から「コンセプトを明確にする」事で売り上げを回復させていくのです。

 

2015年「Go!プリンセスプリキュア」

Go! プリンセスプリキュアオリジナル・サウンドトラック2

プロデューサー 植月幹夫(ABC)
高橋 知子(ADK)
柴田宏明
神木 優
シリーズディレクター 田中裕太
シリーズ構成 田中仁
音楽 高木 洋
製作担当 山崎 尊宗
美術デザイン 増田 竜太郎
色彩設計 佐久間 ヨシ子
キャラクターデザイン 中谷友紀子

●明確なテーマを掲げたシリーズ

 ハピネスチャージプリキュア!の後を受けて始まったのが第12作目にあたる「Go!プリンセスプリキュア」。「プリンセス」という明確かつ王道のモチーフを用意しキャッチコピーは「つよく、やさしく、美しく!」。テーマは「夢」という、わかりやすくストレートなものとなりました。

新作のキーワードは「プリンセス」、テーマは「夢」で、ビジュアルは華やかお姫様風のロングドレスを身にまとった3人のプリキュアが描かれている。

プリキュア:第12弾「Go!プリンセス」はお姫様風ロングドレスに変身 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

 開始にあたりABC土肥プロデューサーは本作のテーマを「夢」にしたことに対し、夢を失いつつある現代社会に対し「夢を追い続ける事が生きる事の意味」という事を表現したいと語ります。

ABCの土肥繁葉樹プロデューサーは「世の中に閉塞(へいそく)感が漂い、人々の格差は広がるばかりか、固定化してきているとされ、『夢が持てない』『将来に希望が見いだせない』若者が増えたともいわれています」と現代社会を分析し、今作に込めた思いを「途方もなく大きな夢であっても、それを追い続ける自体が“生きる”ことの意味であるような気がします」と話している。

プリキュア:第12弾「Go!プリンセス」はお姫様風ロングドレスに変身 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

 東映アニメーションのプロデューサーは、前作から引き続きの柴田宏明氏と神木優氏の2人体制が敷かれました(第24話以降は神木優氏ひとりの担当)。

また「プリキュアシリーズ」の生みの親でもある鷲尾天氏が企画として名を連ね、アドバイザー的な立場として再度プリキュアに関わっていく事も大きな話題となりました。これは(仕方ないとはいえ)前年大きく落ち込んだプリキュアシリーズの立て直しを図る意味合いもあったものと思われます。

 シリーズディレクターはプリキュアシリーズでも多くの演出絵コンテを手掛け「映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?」では副監督を務めた田中裕太氏が務めます。シリーズ構成は田中仁氏。キャラクターデザインは中谷友紀子氏を起用。ドレス姿をモチーフとしたプリキュアのデザインは女の子に大好評となるのです。

●プリンセスというモチーフ

「Go!プリンセスプリキュア」では「プリンセス」という明確なモチーフが用意されました。「プリンセス」を作品タイトルにも使用している事からも、そのテーマとしての力の入れようがわかります。
 その「プリンセス」というモチーフは、「Go!プリンセスプリキュア」のプロデューサーでもある神木優氏と柴田宏明氏とで決め、その後に「プリンセス」というテーマで作る事をシリーズディレクターを田中裕太氏にお願いした、という流れだった様です。

神木 企画の初期の段階から私と柴田宏明プロデューサーとで動いていて、まず田中裕太さんにSDをお願いしました。その段階で「「プリンセス」というモチーフです」というお話はさせていただいていましたね。
田中 そうですね。シリーズ構成の田中仁さんが決まる前に、プロデューサー陣と僕とでまずは打ち合わせを重ねて、最初から指定のあったキーとパフュームを基に、作品のテーマやキャラクターを考え始めました。
[Go!プリンセスプリキュア オフィシャルコンプリートブック, 2016] p71(学研ムック)

●脚本は女性に書いてもらう

 また、シリーズ構成の田中仁氏は「脚本は自分以外は全て女性にお願いした」と語っています。女性ならではの感性で「Go!プリンセスプリキュア」の脚本は書かれていた事を明かしています。

ちなみに今回、脚本を書く人間の中に男は僕ひとりいればいいだろうと考えまして、他は全員女性にお願いしました。女性ならではの感覚で指摘をもらうことも多く、とても助けていただきました
[Go!プリンセスプリキュア オフィシャルコンプリートブック, 2016]p80(学研ムック)

 「Go!プリンセスプリキュア」が王道のヒーローモノというよりも、感性豊かなシナリオとなっていたのは、この女性陣の脚本家によるところが大きいのかもしれません。 

「Go!プリンセスプリキュア」は東映アニメのプロデューサーも初の女性となる神木優氏を起用し、脚本陣も多くの女性を起用、キャラクターデザインの女性の中谷友紀子氏を起用するなど、数多くの「女性の目線」で作られていたシリーズだったことが伺い知れます。
そんな女性を数多く起用した「Go!プリンセスプリキュア」では、さまざまな新しい試みがされました。

●水着表現の解禁

その1つとして「Go!プリンセスプリキュア」では過去のプリキュアシリーズで避けてきた「水着のシーン」が解禁されました。その衝撃は、第28話「心は一緒!プリキュアを照らす太陽の光!」の予告を見たプリキュアファンが「プリキュアで水着が出てくる!」とざわつきを見せるほどには大きな出来事だったのです。

 プリキュアにおける水着表現の禁止は第1作「ふたりはプリキュア」の制作時に鷲尾天(当時プロデューサー)が掲げた(「ふたりはプリキュア」の章参照」)もので、いわば子どもたちの為に行った事だったのですが、それが年月が経つにつれ、いつのまにか「プリキュアにおける自主規制の1つ」にまでなってしまっていたのです。
神木プロデューサーは言います。

神木P「プリキュア」ではこれまで、彼女たちの水着シーンを基本的に避けてきたんです。でも、今回はそもそも海のプリキュアがいるわけで……(笑)。今後みんなで海水浴に行くエピソードがあるんですけど、彼女たちの水着姿をどう描くのがいいのか。これまで避けてきた理由もわかったうえで演出する必要がある」
[Febri(フェブリ)Vol.30, 2015]P29(一迅社)

「これまで水着を避けてきた理由もわかったうえで演出する」。と言及しています。

田中裕太SDは「プリキュアの水着の解禁」について「これまでプリキュアが避け続けてきた過剰な自主規制」を打開したい思いがあった事を後に語っています。

田中 海に行くのに泳がないのは変だなと、素朴な疑問をずっと感じていたんです。
 個人的には、泳がないのであれば海に行く必要はないと考えていて。でも、本作はマーメイドというキャラクターがいて海とも縁が深かったし、であれば夏にはやはり当然海に行く話が持ち上がります。海に行くならば普通に海で泳ぐのが自然だろうと。これまで『プリキュア』 が避け続けてきた過剰な自主規制を打開したいという思いがありました。
[Go!プリンセスプリキュア オフィシャルコンプリートブック, 2016]p78(一迅社)

「水着の禁止が過剰な自主規制」である事は製作者サイドも解った上で、それまでは変えることが出来なかったのです。

●「過剰な自主規制」

 また神木プロデューサーも、プリキュアにおける水着表現は「慎重にあつかうもの」としつつも、水着表現をしない事が逆に不自然になっている現状を打開するため、シリーズで受け継いできたものの再検討の一環で議論を重ねた末の解禁であったと語っています。

神木 『プリキュア』は視聴者がお子さんですから、たとえば敵であっても顔面は殴らないとか血は出さないとか、それなりのルールはあるんです。ただ、水着はセクシーに見えすぎた場合、作品として見せたい意図とズレが出てしまうことがあるので、慎重に扱うものだったんですね。その配慮の結果が逆に不自然に感じるのでは、ということは議論になっていました。それに合わせて、今年は一度、これまでのシリーズで受け継いでいるものを再検討しましょう、という話も出ていて。それが全面に出たのが水着の回だったんです。
[Go!プリンセスプリキュア オフィシャルコンプリートブック, 2016]p78(学研ムック)

 この「海で水着を着用しない」事は「女の子向けアニメーション」の概念に捉われない事で始まったプリキュアシリーズが「保護者を意識しつつ、子どもたちのため」に作られたことにより成功を収め、その証としてプリキュアが10年以上女の子向けアニメーションのトップを走ってきた事の象徴的な表現でもあったのですが、同時にそれがいつのまにか「過剰な自主規制」へと変貌していき、表現の幅を狭めてしまっていたのです。

田中 『プリキュア』シリーズは,女児アニメの概念に捉われないものとして始まったにもかかわらず,長くやっているうちに『プリキュア』のほうが,“女児アニメのスタンダード”と見なされるようになっていて,いつしかその内容に道徳的な側面まで期待されるようになりました。それはとてもありがたいし,名誉なことでもあるんですが,それに委縮して,これまで無意識にすごく表現の幅を狭めていたことがありました。水着はまさにそのひとつの象徴だったんです。
 [Go!プリンセスプリキュア オフィシャルコンプリートブック, 2016]p78(学研ムック)

田中 僕は個人的に、「プリキュア」シリーズはいささかこれまでのシリーズに慣例に凝り固まっている節があると思っていました。もし本作で少しだけでもそれを打破できれば、本作だけでなく以降のシリーズでも、もっと表現の幅を広げられて、これまで避けてきた表現や、もっと新しい表現も可能となるかもしれない。これはシリーズの再検討をするチャレンジとして、とても価値があるはずだ、と。あの話数の裏にはそんな思いが強くあったのです。
[Go!プリンセスプリキュア オフィシャルコンプリートブック, 2016]p78(学研ムック)

 この「水着の解禁」は従来の「プリキュアの自主規制」からの脱却を目指す象徴的な出来事となり、「Go!プリンセスプリキュア」以降のプリキュアシリーズでも、これまでにない様なさまざまな新しい試みがどんどんされていく様になっていくのです。そういった意味では「Go!プリンセスプリキュア」もある意味「シリーズに革新をもたらした」作品ともいえるのだと思います。その革新をもたらしたのが、女性のプロデューサーであった事もまた、プリキュアというアニメーションを象徴する出来事だったのだと思います。

●七瀬ゆいの物語

 Go!プリンセスプリキュア!はその革新性もさることながら、ストーリー的にも子供はもちろんのこと、大人にも多くの共感を呼び、今でも人気の高いシリーズとなっています。
「Go!プリンセスプリキュア」を象徴するキャラクターに「七瀬ゆい」がいます。彼女は第1話で主人公「春野はるか(キュアフローラ)」と出会い、以降ずっとプリキュアの協力者として、そして何より春野はるかの親友として行動を共にするサブキャラクターです。「Go!プリンセスプリキュア」は4人ではなく彼女を入れて5人のチーム、とまでファンの間では評価される程には大きな存在となっていました。

 彼女は幾多の自身の危機を乗り越え、当初は「新しいプリキュア」になるのでは?という推測が一部のファンの間でもありましたし、事実その活躍はそれに足るものでした。しかし彼女はプリキュアになりませんでした。なれなかったのではなく、ならなかったのです。彼女がプリキュアにならなかった理由を田中SDはこう語っています。

もともとプリキュアに変身する予定はなかったんですか?
田中 ありません。彼女はプリキュア側にいて、彼女たちを見守るキャラクターでした。もちろん多少は、もうちょっと特別なことがあってもいいかなと思ったことはありました。ですが、一般人だという事が、ゆいの何よりのアイデンティティーなので、それを壊すのはゆいに対して一番やってはいけないことだな、と。特別な力をもってしまったら、それじゃただのプリキュアです。
[Go!プリンセスプリキュア オフィシャルコンプリートブック, 2016]p76(学研ムック)

視聴者と同じ「一般人」である事が「七瀬ゆい」のアイデンティティーであり、彼女を通して小さな女の子たちは「プリキュア」を身近に感じる事ができたのだと思います。
「夢」を描いてきたGo!プリンセスプリキュアにおいて「七瀬ゆい」が体現した「叶えたい夢を強く持っていれば、プリキュアになれなくても絶望に打ち勝つことができる」を表現した事は全国の子供たちに大きな希望を与えたのではないかと思うのです。

物語のラストは七瀬ゆいの夢の結晶である「彼女の描いた絵本」で閉められます。それほどまでに重要なキャラクターとして「一般人の女の子」が描かれた事も「Go!プリンセスプリキュア」の強さだったのだと思います。

●将来像を描く

また「Go!プリンセスプリキュア」ではラストシーンにおいて、彼女たちの未来の姿が描かれました。この「将来の姿を描く」、というのも本作からの新しい試みです。

「夢」をテーマとしている以上、将来の姿が描かれるのも当然の帰結なのですが、この「将来の姿を描く」事もこの先のシリーズでも採用される様になりました。ただ春野はるか(キュアフローラ)の将来だけ、明確な職業が提示されなかったのは意図的な演出の様です。

田中 彼女の将来に、最後まで特定の職業を据えなかったのは意図的なことです。
[Go!プリンセスプリキュア オフィシャルコンプリートブック, 2016]p78(学研ムック)

●開始当初の大プロモーション

 そんな「Go!プリンセスプリキュア」は子供たちにどう受け入れられたのでしょうか?おもちゃ関連の動きを見てみましょう。

「Go!プリンセスプリキュア」開始当初は「プリンセス」というわかりやすいモチーフを使い、開始と同時にドレスアップキーの大々的なプロモーションをしていく事が宣伝されています。やはりおもちゃ的にも「プリンセス」はわかりやすい、という認識の様です。

山崎弘太郎氏
今作では女の子の憧れの対象である「プリンセス」をモチーフにすることで、分りやすい商品とプロモーション展開を行っていきます。
(中略)
ドレスアップキーはプロモーション用に100万本を用意。変身アイテム購入者に店頭プレゼントされたり 映画入場者特典、雑誌への付録として広く配布され、キャラクター認知と連動する商品の購買促進につなげていく考えである。
[月刊トイジャーナル]2015.2月号 p9

プロモーション用にドレスアップキーを100万本用意する、という力の入れようで、昨年のプリキュア不振を取り戻そうとする意気込みを感じます
番組開始と同時に大プロモーションを展開し、子どもたちのプリキュア人気を回復させよう、という戦略が敷かれました。その1つとして、この年の3月14日に公開された春の映画「映画 プリキュアオールスターズ 春のカーニバル♪」では従来、映画館で子どもたちに配られていた「ミラクルライト」の代わりに「ドレスアップキー」が配られ、玩具の購入を促したりもました。

●開始当初は「昨年の半分程度」の売れ行き

しかし、その想いとは裏腹に「Go!プリンセスプリキュア」のおもちゃの動きは良くありませんでした。
業界紙トイジャーナルでは「前作のダウントレンドを引きずりスロースタート」の表現がされ、決して順調なスタートではなかった様です。

1月末から商品が売り場に並び2月1日からTVアニメがスタートした「Go!プリンセスプリキュア」は年間を通して苦戦した前作のダウントレンドを引きずりスロースタートに。
しかしメイン商品「プリンセスパフューム」を筆頭に消費者の反応は決して悪くないことから、今後の伸びに期待したい。
[月刊トイジャーナル]2015年3月 p50

一方、前作の苦戦を引きずったままのスロースタートとなった「Go!プリンセスプリキュア」。
初週こそ流通の期待値には届かなかったものの、第2週、第3週と週を重ねるごとに右肩上がりに人気も売り上げも伸びているという。 番組自体のターゲット視聴率も25%を超えているというのでこちらも今後の動向には注目したい。
[月刊トイジャーナル]2015年3月 p51

 ただ、おもちゃ自体の反応は良く、ターゲット視聴率も良好との結果も同時に紹介され、この先の展望に期待を持たせました。

 しかし、ゴールデンウィークに入っても「Go!プリンセスプリキュア」のおもちゃは回復することはありませんでした。それどころか「前作の半分しか取れていない」「前年の半分程度と声が上がるほどの苦戦」という更に厳しい状況へと陥ります。

女児に関しては「プリキュア」の苦戦が鮮明。前作と比較しても半分しか取れていないという法人も。
[月刊トイジャーナル]2015年4月p70

キャラクターで大きなシェアを誇る「プリキュア」が前年の半分程度との声も上がるほどの苦戦となったが、
月刊トイジャーナル]2015年6月号p38

ゴールデンウィークまでは厳しい状況の続いた「Go!プリンセスプリキュア!」
昨年からの悪い流れを取り戻す事が出来ません。今年のプリキュアというコンテンツも子どもたちに受け入れられないのでしょうか?「結果の良くなかった前作よりも更に結果が出ない状況」。
このままダウントレンドが続く事は将来のプリキュアシリーズにも大きな影響を与えかねません。

しかし「とあるキャラクター」の投入がこの状況を一変させます。プリキュアは夏以降、脅威の回復を見せていく事になるのです。

●キュアスカーレットが市場を一変。

夏休み商戦を振り返るレポートでは「新キャラクター商品の健闘により、復調基調に転じた」と言及されます。

夏休み商戦スペシャル
女児キャラクターは大きなシェアを持ちながら久しく低迷していたプリキュアが 新キャラクター商品の健闘により復調基調に転じたことで堅調な伸びとなった他、
[月刊トイジャーナル]2015年9月号p20

その新キャラクターは「キュアスカーレット」。「Go!プリンセスプリキュア スカーレットバイオリン」を筆頭にキュアスカーレット関連のおもちゃが子どもたちに売れる様になり、プリキュアは復調傾向に向かいます。
上期の総括としてバンダイの川口取締役に「8月以降、かなり復活の手ごたえを感じている」とまで言われる様になります。

バンダイ 代表取締役 川口勝氏
本誌 上期に関しては「妖怪ウォッチ」が下がった分、「戦隊」も「プリキュア」も、もっと伸びて欲しかったというのが市場の本音です。
川口 「プリキュア」に関しては8月以降かなり復活の手応えは感じています。
[月刊トイジャーナル]2015年10月号p27

 キュアスカーレットの登場によりプリキュア市場が回復し、クリスマス商戦、年末商戦でもプリキュアは好調を維持、前年比124%を達成したのです。

年末年始商戦総括2015~2016
ガールズトイは「プリキュア」が後半一気に伸びました。
[月刊トイジャーナル]2016年2月号p48

プリキュアに関しては夏以降、新キャラのスカーレットが登場して右肩上がりに伸び今回の年末商戦では前年比124%となりました。
[月刊トイジャーナル]2016年2月号p48~49

前作「GO!プリンセスプリキュア」は立ち上げ当初こそ低空飛行がつづいたものの、夏休み商戦をきっかけに復調基調に転じ、年間を通した売り上げでは前作を上回る結果に。
特に昨年末商戦での躍進は、流通にも未就学女児キャラクターナンバーワン復活を印象付けたのではないだろうか。
[月刊トイジャーナル]2016年2月号p9

●下がらなかったことが重要。

トイジャーナルで発表された「Go!プリンセスプリキュア!」の最終的なバンダイの総括としても
・立ち上げは低空飛行
・夏休み商戦で復調基調に転じる
・年末商戦で躍進
・年間を通した売り上げは昨年を上回る
・流通にも未就学児キャラナンバーワン復活を印象付けた
といったものでした。

もちろんこの「夏以降の復活劇」には妖怪ウォッチのトレンドダウンなど外的な要因もあるものと思われますが、「新プリキュアの登場」が市場を一変させた事もまた間違いない事実なのです。

おもちゃ関連の流れをみる限り「キュアスカーレット」の登場こそがプリキュア復活へののろしとなったのです。商業的にも「追加戦士の重要性」を再認識するには十分な出来事だったと思います。
2015年度(2015.4~2016.3)のバンダイナムコのプリキュアトイホビー売り上げは66億。昨年の65億円から1億上がっただけにとどまりましたが、ここで「下がらなかったこと」「踏みとどまった事」が重要なのです。昨年大きく下げ、さらに今年も下がる様であれば、そのままズルズルとダウントレンドに入っていく可能性もあったのです。そうではなく「下がらなかった事」。
それこそが来年以降の復調へとつながっていくのです。

●明確なモチーフを提示

このGo!プリンセスプリキュアの成功を受け、以後のプリキュアシリーズは「魔法つかい」「パティシエ」「子育て」「星座」と明確なモチーフを提示する様になっていきます。

まずひとつは、モチーフの明確化。
[Febri特別号 プリキュア15周年アニバーサリーブック, 2018]p116(一迅社)

明確なモチーフを掲げることによって、物語上で展開されるテーマもまたクリアに指し示されるようになった
(中略)
プリキュアの衣装デザインからキャラクター設定、物語のテーマ、そして世界観までを含めて、ひとつの大きなコンセプトで包み込む……そんな作品づくりが心がけられていることがわかる。
[Febri特別号 プリキュア15周年アニバーサリーブック, 2018]p116(一迅社)

明確なモチーフを掲げる事により、子供たちにその年のプリキュアのテーマをわかりやすく訴求する様になっていくのです。そしてそれこそが市場の回復そして、新しい時代のプリキュアのキーとなっていくのです。

●ライバルコンテンツの動向

同時期に放送されていたライバルアニメに目を向けると、2年目に突入した「プリパラ」や主人公が星宮いちごから大空あかりに交代した「アイカツ!」が放送され、ジュエルペットシリーズ「マジカルチェンジ」や、10月からは「かみさまみならい ヒミツのここたま」も新しく放送を開始しました。ここたまのおもちゃ「おおきなここたまハウス」は子供たちに大人気を博し、その年の女の子向けおもちゃ売り上げナンバーワンに輝いています。 


2016年「魔法つかいプリキュア!」

魔法つかいプリキュア オリジナル・サウンドトラック2 プリキュア・マジカル・サウンド!!

プロデューサー 植月 幹夫(ABC)
遠藤 里紗(ADK)
内藤 圭祐
シリーズディレクター 三塚 雅人
シリーズ構成 村山 功
音楽 高木 洋
製作担当 山崎 尊宗
美術デザイン 増田 竜太郎
色彩設計 佐久間 ヨシ子
キャラクターデザイン 宮本 絵美子

●「魔法」をコンセプトに

前作「Go!プリンセスプリキュア」は商業的に前半は不調でしたが後半から復調しました。それを受けて始まったのが2016年「魔法つかいプリキュア!」。その「プリキュア上昇の波」にうまく乗る事は出来たのでしょうか?

「魔法つかいプリキュア!」はその名の通り「魔法」というこれまでのプリキュアでは扱ってこなかった要素を取り入れた新シリーズとなりました。
番組開始前には公式ホームページでも「魔法のことば『キュアップ♡ラパパ!』でふたつの世界がいまつながる!」というキャッチフレーズが公開され、大きな期待が寄せられました。
東映アニメーションのプロデューサーは神木優氏から内藤圭祐氏にバトンタッチ。シリーズディレクターにはプリキュアシリーズでも演出を数多く手がけてきた三塚雅人氏、シリーズ構成にはYes!プリキュア5、映画プリキュアオールスターズDXシリーズの脚本も手掛けた村山功氏が担当。キャラクターデザインはそれまでもプリキュアで原画や作画監督を務めていた東映アニメーションの宮本絵美子さんとなり、2年連続で女性がキャラクターデザインを手掛けることとなりました。

●プリキュアで「魔法」を扱う事の緊張感

「魔法つかいプリキュア!」ではナシマホウ界(人間界)と魔法界の二つの世界が交互に物語の舞台にされる事や、日常でも「魔法」を使えるなど、従来作よりもファンタジックな世界観となっています。
プリキュアで「魔法」というテーマを扱う事に関して、内藤プロデューサー(以降内藤P)は「プリキュアは魔法少女ではない」という初期からのテーマを覆してしまうのでは?と不安になった心境を語っています。

正直なところ「『プリキュア』は魔法少女モノではない」という、初期の『プリキュア』シリーズから一貫してきたテーマを覆してしまうということには緊張感もありました。
[魔法つかいプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2017]p82(学研ムック)

当時プリキュアの制作サイドには、やはり「プリキュア」と「魔法少女もの」は明確に区別されていた様です。そういった意味では「プリキュア」と「魔法」の融合は画期的な出来事だったのです。
内藤Pは「魔法つかいプリキュア!」のテーマを「手をつなぐ」として、手と手をつなぐことで、個人が違いを認識し、それを受け入れる事で世界が広がっていくことを伝えたい、と番組開始時のプレスリリースにて語っています。

テーマは「手をつなぐ」。手と手をつなぐことで、心をつなぎ、希望をつなぎ、世界をつなぎます。ひとりひとり皆違うけれど、だからこそ面白い、そしてその違いを認識し受け入れることで、世界は広がっていくんだということを、さまざまな「つなぐ」を通して伝えていきたいと思います。

魔法つかいプリキュアは「友情と絆、多くの奇跡」 - 芸能 : 日刊スポーツ

●すべてはモフルンから始まる。

 また、プリキュアの変身時に必要であり、ストーリー的にも重要な意味を持つ「魔法つかいプリキュア!」を象徴するキャラクターでもある熊のぬいぐるみの「モフルン」も、当初はおもちゃメーカーからの提案で「ぬいぐるみを使って変身したい」という要望があった事からのスタートだった様です。

内藤 玩具的な提案で「ぬいぐるみで変身をしたい」という発想がありました。そのうえで、魔法をモチーフに取りいれようということになったんです。そこから先はスタッフ陣の話し合いで、いろいろなことが決まっていきました。ぬいぐるみと手をつないで変身するなら、人数はふたりがいいだろうとか。そこから派生して「手をつなぐ」というコンセプトがあるなら、個々の違いを認めることで世界が広がるんだとか、多様性を見せたいという思いにつながっていきました。
[魔法つかいプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2017](学研ムック)

 おもちゃ会社からの要請による「ぬいぐるみで変身」という要素と「手をつなぐ」というテーマから構想が膨らみ、「初期は2人で」「多様性を見せる」「2つの世界」という魔法つかいプリキュアの世界観が構築されていった事が伺えます。
ちなみに余談ですが、その「モフルン」は「かわいいを煮詰めた様な5歳児くらいのキャラクター」であることや、名前は「モフルン」か「モフリン」で悩んだ末、不倫は良くないので「モフルン」になった事なども内藤Pより明かされています。

内藤 モフルンは、計算されたかわいさやあざとさはないように、“かわいい”を煮詰めたような5歳児くらいのキャラクターにしたいと考えていました。
[魔法つかいプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2017]p85

 

内藤 たしか名前を「モフルン」にするか「モフリン」にするかで悩んだんですよね。でも「ふりん」はよくないだろうという所で「モフルン」になりました。
[魔法つかいプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2017]p85

「フリン」は良くないですよね、やっぱり。細かいところなのですが、こういった配慮もプリキュアならではだと思われます。

●魔法つかいプリキュア!の世界観

大枠が内藤Pにより決まり、シリーズディレクターである三塚氏のところに「魔法つかいプリキュア!」の話が来た時(コンプリートブックによれば2015年6月)には「魔法を使うふたつの世界がある」、「ふたりで変身する」、「モフルンを使って変身」、「4つのスタイルがある」、「妖精として登場するはーちゃんが成長する」といった要素はすでに決定して、三塚SDはその要素を基にどんなドラマにしていくかを考えていく形で制作が進んでいった様です。

三塚 じつは、僕のところに話が来た段階では、魔法、ふたつの世界、ふたりでの変身、モフルンを使っての変身、4つのスタイル、そしてはーちゃんが成長することは決まった状態だったんです
[魔法つかいプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2017]p82(学研ムック)

「シリーズディレクター」という役職はここまで条件が提示された上で、話を組み立てていくのです。
 また、魔法つかいプリキュア!を象徴する特徴的なワード「キュアップ・ラパパ」はシリーズ構成の村山氏の発案によるもので「子供は半濁音が好きだから」という理由だそうです。

「キュアップ・ラパパ!」という言葉は、どのように決まったのですか?
内藤 あれは村山さんのシナリオにしれっと入っていた気がします。子供は半濁音が好きだからという理由でしたね。
[魔法つかいプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2017]p85(学研ムック)

子どもたちが好きそうな音から作られた「キュアップ・ラパパ」ですが、その楽しい響きはたくさんの子どもたちに大好評となり、魔法つかいプリキュアを代表するワードの1つとなりました。

●日常を重視した作風

「魔法つかいプリキュア!」の作風として「日常」に重きを置き、あくまで「自分たちの日常を脅かす存在」から身を守るために変身するといったスタンスが主に取られていました。これは初期のプリキュアシリーズでよく見られていた傾向だったのですが、「世界の危機を救うため」ではなく「自分たちの日常を守るため」に戦うことについて、三塚SDは「ヒーローモノ」の側面だけではなく「自分自身の感情のストレートな表現」として変身する形を取りたかった、としています。

三塚 近年の『プリキュア』シリーズは、普通の女の子たちが困っている妖精のためであったり、人々を苦しめる敵に対して「戦わなきゃ」と立ち向かったりする「ヒーローモノ」としての側面に寄り続けた感があって。でも僕自身は『プリキュア』は必ずしもそれ“だけ”に縛られたものではない、ときにはもっと自分自身寄りの感情のストレートな表現として変身し、目の前の障害とぶつかり合うという形があっていいのではないかと考えました。結果としては、世界を救う事に繋がるけど、プリキュアが使命感に突き動かされるという話の作り方以外のアプローチを探ってみたいと思っていました。
[魔法つかいプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2017]p82(学研ムック)

またシリーズ構成である村山氏も同様に「子どもたちにプリキュアを友達として見てほしかったために、強大な敵に立ち向かうといった壮大なストーリーにはしなかった」事にも触れています。

村山 「王国が悪者につぶされて、妖精がプリキュアに助けを求めに行く」というストーリーは、暗くなるからやめたいと僕のほうから申し出ました。
(中略)そんな大人の事情を子どもたちに見せたくなかったというのもあります。何よりも、子どもたちにプリキュアを友達として見てほしかった。そうすると強大な敵に立ち向かうとか、滅んだ王国を救うみたいな壮大な話は違うかなと思ったんです。
[魔法つかいプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2017]p90(学研ムック)

この「日常を守るために戦う」、という魔法つかいプリキュア!の作風は、プリキュアを観ている子どもたちに「わかりやすく」するためであり、「希望や絶望」などといった「子どもたちが想像しにくい」ものではなく、「手をつなごう」「人はみんな違うから素敵」といった子どもにとってわかりやすい等身大のテーマを描きたかった事によるものだったのです。
「日常を守るために戦う」とはすなわち「子どもにも理解しやすいお話を作っていく」という事なのです。
この様に魔法つかいプリキュア!以後のシリーズでは「幸せ」や「希望」といった抽象的なワードではなく「手をつなぐ」「お友達と仲良く」などといった具体的なテーマ性を持たせる様に変化していきます。

村山 それから、感情とか目に見えないものを奪われるという話は、子どもにはわかりづらいと考えたんです。だから「希望」とか「絶望」とかの概念ではなく、「手をつなごう」「人は個性があるんだから、違うから素敵なんだ」ということを前面に押し出したんです。
[魔法つかいプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2017]p90(学研ムック)

ただ、その様な「わかりやすい」テーマは、対象年以上の人には「物足りなかったかもしれない」とも言及されています。

村山 ですが、今回はドストレートに、観ている子どもたちにとって等身大のテーマを掲げました。もしかしたら対象年齢より上の方は、物たりないと思われたかもしれません。
 [魔法つかいプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2017]p90学研ムック)

しかし、当然子どもたちの事を第一に考えるプリキュアシリーズにおいて、この「わかりやすさ」を掲げる事はプリキュアの新しい選択肢の1つとして重要な事であり、(これは結果論なのですが)事実、この試みは大成功を収める事になるのです。

●魔法つかいプリキュアの商業的な成功

そんな「日常の為に戦う」魔法つかいプリキュア!
商業的には子どもたちにはどう受け入れられ、どんな展開をみせたのでしょうか?

内藤Pは「魔法つかいプリキュア!」のストーリー上の構成が「前半はリンクルストーン争奪戦、後半をデウスマスト関連」と2部構成に設定したとしています。その理由として、「夏休み中に子どもたちの視聴が離れてしまう」傾向にあり、「1年間子どもたちに興味をもってもらう為」だったと語っています。

内藤 データ的な話になってしまうのですが、夏休みになると子どもたちの視聴がはなれてしまうという傾向があるんです。興味を持ち続けてほしくて、前半のリンクルストーン争奪戦から、世界を揺るがすような出来事を描こうという形になったんです。
[魔法つかいプリキュア! オフィシャルコンプリートブック, 2017]p83(学研ムック)

(※余談ですが、もともと2部構成では無く、3部構成にして年明けにオールスターズを行う案もあったことが、同魔法つかいプリキュア!オフィシャルコンプリートブックで語られています。)

「1年間ずっと子供に興味を持ってもらう事」はそれほどまでに困難な事であり、これもまた、1年間のストーリー的な構成と、玩具の販売計画が密接にリンクしたプリキュアの特徴的な事象だと思われます。

●「モフルン」という大発明

そして魔法つかいプリキュア!のおもちゃ関連の大きなトピックして「おしゃべり変身モフルン」の存在が挙げられると思います

従来のプリキュアシリーズでは、「変身アイテム」と「お世話系妖精ぬいぐるみ」の2つが同時に展開し販売され、この2つはプリキュアおもちゃの売り上げの大きな柱となっていました。

しかし「魔法つかいプリキュア!」ではそれらを統合し「変身アイテム“兼”妖精ぬいぐるみ」の「おしゃべり変身モフルン」を作ったのです。これはある意味、2つの柱を1つにしてしまう、という大きな冒険でもあります。
「変身アイテム兼妖精ぬいぐるみ」という意味合いについて、業界紙トイジャーナルではこの様に言及されています。

「プリキュアのメインターゲットは3~6歳の未就学女児だが、過去の購入動機を分析すると3,4歳には成形品のなりきりアイテムが、5,6歳にはお世話アイテムが人気だった。 この2つの世代を取り込むために、MDの中心となる変身アイテム「おしゃべり変身モフルン」は、プリキュア史上初のぬいぐるみをモチーフにした。
また、なりきり武器アイテムの「リンクルステッキ」は3,4歳に向けて、 お世話アイテムの「リンクルスマホン」は5,6歳に向けて、世代に合わせた展開をしていく。
[月刊トイジャーナル]2016年2月号p9

つまり、3~4歳児は「なりきりアイテム(変身アイテム)」が人気で、5~6歳児には「妖精系お世話アイテム」が人気だったので、この2つの世代を同時に取り込むために「変身アイテム兼妖精ぬいぐるみ」である「モフルン」が誕生した、という事ですね。
「モフルン」は全ターゲットに買ってもらって、3~4歳児には「リンクルステッキ」を、5~6歳児には「リンクルスマホン」を提示する、という戦略が取られていたのです。

●開始から好調。

そんな例年とは少しおもちゃの構成が異なった「魔法つかいプリキュア!」ですが、発売当初から堅調で「前年をしっかりと取れている」と言及されます。

7日からTV放送がスタートした「魔法つかいプリキュア!」は、初週1週間の状況はまずまず。商品もなりきりアイテムを中心に幅広く動いている。前作がスロースタートだっただけに、前年をしっかりと取れている。
[月刊トイジャーナル]2016年3月号p54

好調なスタートダッシュに成功した「魔法つかいプリキュア!」。その好調のスタートダッシュの理由の1つに「在庫が重くなかった」という事も挙げられています。
トイジャーナル誌上でこんな言及があります。

「まず、前作の新シリーズへの移行時には在庫が重く流通の皆様にはご迷惑もおかけしましたが、今回は年末商戦での好調もあってスムーズな移行が出来ると思っている。」
月刊トイジャーナル]2016年2月号p9

これはつまり「おもちゃ屋さんに前作の在庫が残っていると、新商品が入荷しづらく、発注も控えてしまうために、結果新商品が売れなくなってしまうが、前作(Go!プリンセスプリキュア)は年末商戦が好調だったために、売れ残りの在庫も少なく、新商品への展開がスムーズに行った、という事ですね。
この様におもちゃの売り上げは決して「製品の出来」だけに左右されるものではなく、様々なファクタに依存していることも判ります。
以降「魔法つかいプリキュア!」のおもちゃは好調を維持していきます。

ガールズトイに関しては「プリキュア」は昨年夏以降から上昇基調に転じていますし、~
[月刊トイジャーナル]2016年5月号p21

女児キャラクター市場で圧倒的な強さを誇る「プリキュア」シリーズは、ここ数年苦戦を強いられてきたが、 2月にスタートした「魔法つかいプリキュア!」がTVアニメスタート直後に発売したメイン商品を中心に玩具の販売状況も好調で 2,3月の売り上げは前年比で123%で推移、復活の兆しが見えている。
[月刊トイジャーナル]2016年5月号p45

2月3月の売り上げは前年比123%で推移。魔法つかいプリキュア!のおもちゃは子どもたちに大人気となり、誌上では「復調の兆し」という言葉も使われる様になりました。
更にゴールデンウィーク商戦でも、昨対142%と好調をキープ、プリキュア玩具の強さをみせます。

バンダイ トイ戦略室ゼネラルマネージャー 露木項治氏
一方でガールズトイ事業部は「魔法つかいプリキュア!」が2月の番組立ち上げ時から続く良い流れをそのまま継続し、昨対142%に伸びましたし~
[月刊トイジャーナル]2016年6月号p54

初夏の追加プリキュア、「キュアフェリーチェ」の主力玩具「リンクルスマホンDX変身キュアフェリーチェセット」も好調に売れていた様です。

また、現在好調な「魔法つかいプリキュア!」だが、その原動力となっているのが「リンクルスマホンDX変身キュアフェリーチェセット」。1万円を越える比較的高額な商品ながら、7月9日の発売以降、好調な売れ行きとなっている。
[月刊トイジャーナル]2016年8月号p59

●「モフルン」と「スマホン」が市場を牽引

年末商戦では、クリスマス用に投入した「魔法のレインボーキャリッジ&プレシャスブレス」が「期待値に届かなかった」と言及されますが、「モフルン」と「リンクルスマホン」の2つが市場を牽引し、その年のプリキュア全体としては昨対で122%と、前年比1.2倍と高い売り上げを出す事が出来ました。

トイ戦略室ゼネラルマネージャー露木項治氏
「プリキュア」は年末向けのメインアイテムとして投入した「魔法のレインボーキャリッジ&プレシャスブレス」が期待値に届かなかったものの、「おしゃべり変身モフルン」や「リンクルスマホン」といったメイン商材が良い動きで、昨対122%を取ることが出来ました。
[月刊トイジャーナル]2017年2月号p53

そして「変身アイテム兼妖精ぬいぐるみ」というやや特殊な立ち位置となった「モフルン」は2016年の女の子向けおもちゃで1位を取るまでとなり、「変身アイテム兼妖精ぬいぐるみ」というアイデアは大成功を収めたのです。

●復活を果たした作品に

また2016年10月に公開された「映画魔法つかいプリキュア!奇跡の変身!キュアモフルン!」はモフルンがプリキュア「キュアモフルン」へと変身する話題性と、その内容も評判となり、興行収入が6.7億と昨年(5.7億)を1億上回る(117%)結果となり、こちらでもプリキュア復調を見せる事となりました。

2016年度(2016年4月~2017年3月)のバンダイナムコのプリキュアトイホビー売り上げは75億円。昨年65億円から10億アップ(115.4%)とまさに復調を果たしたシーズンとなりました。 

2017年「キラキラ☆プリキュアアラモード」

キラキラ☆プリキュアアラモードボーカルベストアルバム スイート☆エチュード☆アラモード

プロデューサー 田中 昂(ABCアニメーション)
矢﨑 史(ADK)
神木 優
シリーズディレクター 暮田公平
貝澤幸男
シリーズ構成 田中 仁
音楽 林ゆうき
製作担当 太田有紀
美術監督 飯野敏典
色彩設計 佐久間ヨシ子
キャラクターデザイン 井野真理恵
スイーツ監修 福田淳子

●個性的なプリキュアチーム

 2017年は「キラキラ☆プリキュアアラモード」の放送が開始します。個性豊かな5人ものプリキュアが登場、夏前に追加プリキュア「キュアパルフェ」も加わり、終盤にもイレギュラーながら妖精ペコリンもプリキュア化するなど、最終的には7人ものプリキュアが活躍する多人数チームのプリキュアとなりました。

 キャッチコピーは「つくって!たべて!たたかって!」。「肉弾戦」を封印し、クリームエネルギーを使って戦闘を行う事も話題となりました。

新作のテーマは“スイーツ×アニマル”で、ウサギなど動物の耳や尾を付けた5人のパティシエ・プリキュアが、大好きなスイーツを守るために、敵に立ち向かう。同シリーズでおなじみのバトルシーンはこれまでの肉弾戦ではなく、スイーツを作るように“クリームエネルギー”を使って、華麗に戦うという

プリキュア:第14弾のテーマは“スイーツ×アニマル” ウサ耳の主人公が登場 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

東映アニメーションのプロデューサーは「Go!プリンセスプリキュア」を手掛けた神木優氏が再び登板。神木優氏は、キラキラ☆プリキュアアラモード開始にあたり「個性の尊重」「すてきなヒロイン像は1つではない」と多様性への言及をしています。

東映アニメーションの神木優プロデューサーは5人のプリキュアについて「プリキュアは性格も価値観も違うデコボコ5人組。彼女たちは自分の特技を生かして、生きる動物のように、戦い方も5人5様ですし、スイーツへの向き合い方も違います。“すてきなヒロイン像”は決して一つではないはずですよね」と説明。

プリキュア:第14弾のテーマは“スイーツ×アニマル” ウサ耳の主人公が登場 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

●SD2人体制へ

シリーズディレクターは「聖闘士星矢Ω(オメガ)」を担当していた暮田公平氏と、デジモンシリーズやプリキュア映画『キュアフローラといたずらかがみ』を手掛けたベテランの貝澤幸男氏の2人体制となりました。SDが2人体制になった理由として「1年間作品をコントロールするに当たり、シリーズディレクターの負担が大きいため」と神木Pより言及されています。

神木:まず、ふたり体制にしたのはSDの負担を減らすためです。『プリキュア』のSDって、オリジナル作品をゼロから作って1年間コントロールする仕事なので、実はかなり大変で……。監督への負担が大きすぎるということで、そこは見直すことになりました。

『キラキラ☆プリキュアアラモード』で肉弾戦を封印する理由とは!? | アニメイトタイムズ

 シリーズ構成は「Go!プリンセスプリキュア」でも同職を担当した田中仁氏。キャラクターデザインには井野真理恵氏を起用。3作連続で女性がキャラクターデザインを務めます。音楽も高木洋氏から林ゆうき氏にバトンタッチ。プリキュアに新しい風を吹き込みます。作中でプリキュア達が作るスイーツに関しても、料理研究家の福田淳子氏がスイーツ監修に入るなど、スイーツ描写にも力を入れたシリーズとなりました

●「肉弾戦の封印」について

「キラキラ☆プリキュアアラモード」の大きな特徴の1つに「肉弾戦の封印」があります。それに至った経緯を貝澤SDはこの様に語っています。

貝澤:女の子が戦う作品は、これまでたくさんありましたし、僕もやってきました。そのなかで、「女の子の本当の武器ってなんだろう?」と考えたんです。たぶんそれは、ときめきとか、想いとか、キラキラしたものとか、そういうものだと思うんですよ。アニメを通じて、それを目に見える力として描けたなら素敵なことです。では、その形はパンチやキックなのかというと、今回はそれとは違う様な気がしていました。

『キラキラ☆プリキュアアラモード』で肉弾戦を封印する理由とは!? | アニメイトタイムズ

 本作においての「女の子の武器」はパンチやキックではなく「キラキラした想いやときめき」と定義し、それを「目に見える形」で具現化したものがクリームエネルギーであり、それがあれば肉弾戦を描かなくてもよいのではないか、という考えがあった様です。
スイーツを作ることとは、すなわち「想いを形にすること」。その想いが「クリームエネルギー」という形になって敵と戦う力となる、と定義づけました。

キュアホイップは、キラキラルを混ぜ合わせてクリームエネルギーを放ちますが、画面上の効果としてはケーキを作っているようにも見えます。想いを形にすること自体が、悪い敵をやっつけるパワーにもなる、というわけです。プリキュアの持つ力というのは、打撃や暴力そのものではなく、ときめきや、大好きという気持ちです。だからプリキュアはかっこいいし、輝いてみえる。「女の子の持っている力はこういうものなんだ!」と、なんとなく気持ちとして、観ている小さい子どもたちにもわかればいいなと思っています。

『キラキラ☆プリキュアアラモード』で肉弾戦を封印する理由とは!? | アニメイトタイムズ

 つまり「想いの力」こそ、子供たちにとってのパンチやキックに代わるものである、としているのです。非力な子供たちでも、パンチやキックを使わなくても「想いの力」で「敵」に対抗できる。つまりは「肉体的に弱くても、想いの力が強ければ、どんな脅威にだって立ち向かう事ができる」という事なのです。これは実際に肉体的には大人よりは非力な子供たちにとっては大きな励みになっていたものと思われます。
これは決して従来のプリキュアの肉弾戦を否定するものではなく、子供たちがその脅威に対する「想いの伝え方」が異なるだけなのです。

●チーム感を出したかった

「キラキラ☆プリキュアアラモード」は「Yes!プリキュア5」「スマイルプリキュア!」以来となる「5人」でのスタートとなりました。「5人でのスタート」は神木プロデューサーの意向であり、その理由として「最初から派手に行きたかった」事や「チーム感を出したかった」事などが挙げられています。また貝澤SDは5人の個性的なプリキュアがいれば、自分の「大好き」を選ぶ事ができる事も、5人にした理由として語っています。

最初から5人のプリキュアでいこう」と提案されたのは、神木プロデューサーだったと伺いました。
神木 そうです。最初にドカンと派手に出したい気持ちがあって、人数でそれを出したらわかりやすいんじゃないかと思ったんです。前作『魔法つかいプリキュア!』の力を合わせて叩くバディ感がステキだなと思ったので、こちらは力を合わせる“チーム”でいこうと考えました。(p96)
貝澤 たしかに5人は多いですよね(笑)。でも、最近は子どもたちがスマートフォンなどに早くから触れて、ものすごい情報量から自分の“大好き”を選ぶ時代になっているんですよね。そう考えると、人数が少ない=情報量が少ないと気に入った子がでてこないかもしれないのかなと思いました。
[キラキラ☆プリキュアアラモード オフィシャルコンプリートブック, 2018]p86(学研)

ただ、最初から5人という人数になると、1人あたりの描写が当然少なくなり、子供たちにキャラクターを伝えきれなくなってしまう懸念も見られていた様です。そこで多人数を描くにあたり子供たちにわかりやすい様に「中学生組」と「高校生組」に分け、メインを中学生組にすることで5人ものキャラクターをコントロールしていた様です。

暮田  正直なところ、(人数が)多いなと思いました。アニメーターさんからも「5人ですか……」ってよく言われましたね。5人もいると並べるのも大変だし、映像にしても5人がそれぞれにセリフを言うだけでもかなり尺をとられるんです。ですから、中学生組と高校生組に分けて、メインは中学生ということにすれば、少しはそれらの問題を解消できるのかなと考えました。
[キラキラ☆プリキュアアラモード オフィシャルコンプリートブック, 2018]p86(学研)

●琴爪ゆかり、子供に大人気

 メインは中学生3人でありながらも、その特徴的なキャラクター造詣から、それぞれのキャラに沢山のファンがつき、子供に人気を博していました。
 その中でも、高校生組(琴爪ゆかり、剣城あきら)が子どもたちに人気が高かった事が各種文献にて語られています。特に、紫色でネコ、きまぐれお姉さんかつ、強キャラ感のある「琴爪ゆかり(キュアマカロン)」の子ども人気が高く、児童誌「おもとだち」では主人公のキュアホイップと同等レベルの扱いで表紙を飾ったりもしました。
神木プロデューサーは「数字としてここまで跳ね返ってきたのは驚きだった」と予想以上の反響があった事に言及しています。

……高校生組でいうと、ゆかり/キュアマカロンの女児人気もすごいみたいですね。これは予想されていたんですか?
暮田:お姉さんキャラは、やはり人気が出るだろうなとは思っていました。

神木:紫色、ネコ、長くてウェーブした髪など、女の子から人気の出そうな要素は固めていますね。とはいっても、お店によってマカロンのプリコーデドールが売り切れたり、ホイップと一緒に女児向け雑誌の表紙を飾ったりと、数字としてここまで跳ね返ってきたのは驚きでした。

キュアパルフェお披露目直前! 6人チームとなったその理由とは!? | アニメイトタイムズ

また、同じ高校生キャラの「剣城あきら」は、シリーズ構成の田中仁氏によると「これまでのプリキュアにはいなかったキャラ」であるとし、仮にプリキュアが3人だったら採用されていないタイプのキャラクターであった、と語っています。

は、これまで「プリキュア」シリーズにいなかったラクターとして考えたのはだれでしょうか?

田中仁 まず、あきらです。彼女はプリキュアは3人だったら絶対にはじかれていたキャラクターなんですよ。プリキュアが5人いて、それぞれの個性についても掘り下げていくからこそ出す事ができたキャラクターでした。あきらはこれまでの「プリキュアらしさ」という物差しではなく、「自分らしさ」を貫いたキャラクターでしたが、自分が思っていた以上に子どもたちに人気がでてくれたのはうれしかったです。
[キラキラ☆プリキュアアラモード オフィシャルコンプリートブック, 2018](p90)(学研)

「剣城あきら」はその宝塚を思わせる男性っぽい容姿を持ちながらも(キュアショコラへの変身シーンは宝塚を意識したものとなっていますよね)、決して「男装」しているわけではなく、「自分が最も似合う格好をしているだけ」という「自分らしさ」を貫いた造詣のキャラクターで、その中性的な出で立ちは小さな子供だけではなく、一緒に見ているお母さんにも人気が高かったといいます。またデザイン雑誌「月刊MdN」にも剣城あきらが取り上げられるなど、多方面へと話題となったキャラクターでもありました。

●個性を重視した作風

琴爪ゆかりや、剣城あきらの様に「キラキラ☆プリキュアアラモード」では「個性」を尊重した作風となっており、神木プロデューサーは「個人単位でファンを作ってもらう事」が1つのコンセプトであったとして、そのためにお当番回にも力を入れ、キャラクターソングなどにも注力していた事を明かしています。

……ファンも多いキャラクターになりましたね。
神木:今回はグループとしてではなく、個人単位でファンを作ってもらうのがコンセプトでした。それぞれに違うモチーフをつけて、お当番回に注力して、キャラクターソングを作って。細かいところだと、後期エンディングテーマ(シュビドゥビ☆スイーツタイム)にも、「ホイップ、ジェラート、カスタード♪」っていうお当番カットがあるんですよね。『プリアラ』は商品の売上を見ても、みんなが共通で使うアイテムはもちろん、お洋服やお人形などのキャラクターをモチーフにした商品がよく出ていて、キャラクターを深掘りして見せていった効果があったんじゃないかなと思っています。

『キラキラ☆プリキュアアラモード』脚本・田中仁&神木優Pインタビュー | アニメイトタイムズ

 プリキュア6人が同じ想いで行動するのではなく、6人がそれぞれ違う考え方を持ちつつも「スイーツ」という共通の想いを通じて「大好き」を守るために戦う、という「個性」を重視したシリーズとなったのです。

ーー毎週のオンエアを観ていても、6人の物語というよりも、ひとりの物語が6つ交わった物語……といったような印象を受けます。
田中:イメージとしてはありましたね。6人で集まるけれど、何もかも同じ考え方になるわけではない。それぞれの個性は尊重すべきものとして考えました。そのうえで、女の子たちが『大好き』を守るために行動を共にしていく。その1年間を切り取ろうというコンセプトでした。

『キラキラ☆プリキュアアラモード』脚本・田中仁&神木優Pインタビュー | アニメイトタイムズ

●ライブイベント実施

また「キラキラ☆プリキュアアラモード」では前述の「キャラクターソング」等にも代表される様に、音楽関係にも力を入れ、2017年10月7日、『キラキラ☆プリキュアアラモード ライブ2017 スウィート☆デコレーション』と題した、プリキュア歌手と声優さんが一同に集まってライブを行う、というイベントも実施され大きな盛りあがりを見せました。(以後、これを執筆している2019年までは毎年ライブを行う様になっています)。

●「お店屋さんごっこ」を取り入れた

 そんな「キラキラ☆プリキュアアラモード」のおもちゃ関連の動きを見てみましょう。
そもそも「キラキラ☆プリキュアアラモード」の「スイーツ」というテーマは、玩具会社サイドから「お店屋さんごっこ」を取り入れたいという要望が最初にあり、神木プロデューサーが、そこに「スイーツ」と「アニマル」を乗せて提案し、実現した形となっています。


神木 玩具会社の方から、女の子たちがよくやる“お店屋さんごっこ”ができる玩具を出したいと提案がありました。私のほうでは、ちょうど「スイーツ」や「アニマル」をテーマにすることを考えていたので、なんのお店にするのかという打ち合わせになったときにスイーツを提案したのを覚えています。
[キラキラ☆プリキュアアラモード オフィシャルコンプリートブック, 2018]p96(学研)

そんな「キラキラ☆プリキュアアラモード」は、前々年からのプリキュア復調基調に乗り、おもちゃ関連でも大躍進を遂げる事となりました。

●スイーツパクト、前年比2ケタアップ。

 主力となる変身アイテム「まぜまぜ変身!スイーツパクトDX」は発売開始当初から子供たちに大人気となり、大手法人では前年初動比で2ケタアップしているところもあったといいます。

一方、「キラキラ☆プリキュアアラモード」に関しても、メインアイテムである「まぜまぜ変身!スイーツパクトDX」が売れ筋に。
一部の大手法人では前作初動比で2ケタアップの実績となっているところもあるという。
[月刊トイジャーナル] 2017年3月号p61

一時期「妖怪ウォッチ」の影響もあり落ち込んでいた戦隊およびプリキュアであるが、ここ数年の上昇トレンドで確実に未就学児向けキャラクターナンバーワンに返り咲いた感もある。
月刊トイジャーナル] 2017年3月号p61

●未就学児向けキャラナンバーワンに返り咲く

 そして春先には玩具業界紙においても「プリキュアは、未就学児向けキャラクターナンバーワンに返り咲いた」とまで言及されるまでに至ります。
 その勢いは止まる事を知らずに、その後も「プリキュアの強さが際立つ」「前年比を大きく上回る」「この勢いはまだまだ続きそうだ」などポジティブな言及が続きます。.

バンダイの新戦隊および新プリキュアの好調が市場を牽引した2月、この流れは3月に入ってからも依然継続している。
[月刊トイジャーナル]2017年4月号p66

女児キャラクターはプリキュアの強さが際立っており、特に2月からスタートした「キラキラ☆プリキュアアラモード」が絶好調で、3月までの状況も前年比を大きく上回っていると言う
メイン商品を筆頭に玩具の販売も現在までに非常に動きが良く、夏以降も新展開や重点商品の投入などが控えており、この勢いはまだまだ続きそうだ
[月刊トイジャーナル]2017年5月号p60

女児キャラクターで圧倒的な強さを誇るプリキュアは、2月5日に放送が開始した新シリーズ「キラキラ☆プリキュアアラモード」のメインアイテム「まぜまぜ変身!スイーツパクト」の総販売数が1~3月で前年比150%と好調なスタートを切った。
[月刊トイジャーナル]2017年5月号p70

 「女児キャラクターで圧倒的な強さを誇るプリキュア」とまで評される様になった「キラキラ☆プリキュアアラモード」。
スイーツパクトの総販売数も、1~3月で前年比150%と絶好調となっていました。
夏休み商戦でも昨対107%と、前年を上回る売り上げを記録。これは追加プリキュア「キュアパルフェ」関連の商品が好調だったためだと思われます。

プリキュアも落としているとの話は流通からあがってきていない。
[月刊トイジャーナル]2017年7月号p56

「2017年夏休み商戦速報」
「プリキュア」も昨対107%と昨対をクリア.
[月刊トイジャーナル]2017年9月号 p23

神木 じつは、最近のお子さまの傾向なのか、1年に何回もブームを作らないと、気持ちが離れていっちゃうんですね。なので、『プリキュア』でも年に3回くらいブームを作ろうと思って最初に出したのがシエルなんです。
[キラキラ☆プリキュアアラモード オフィシャルコンプリートブック, 2018](p96)(学研)

 最近の子どもは1年に何回もブームを作らないと気持ちが離れていってしまうため、最初に出したのが「シエル(=キュアパルフェ)」だった事も語られています。
クリスマス用の大型アイテム「キラキラルクリーマー」も好調だった模様です。

プリキュアの最終武器「キラキラルクリーマー」の動きが良く、
[月刊トイジャーナル]2017年11月号 p82

2017年クリスマス商戦速報
女児キャラクターではプリキュアがキラキラルクリーマーを中心に好調。
[月刊トイジャーナル]2018年1月号p77

「キラキラルクリーマー」は(1万円を越える事もある)例年の「箱ものおもちゃ」よりも、価格帯を下げる事により、好調な売り上げとなった様です。

●年間を通して売れた

年末商戦の総括としてもプリキュアは108%と、好調だった前年をさらに上回る数字を叩き出し、バンダイ側からも「年末商戦に限らず、年間通して売れた」と言及されるほど、1年を通して安定した売り上げを記録した様です。

バンダイ トイ戦略室デピュティゼネラルマネージャー 大関豊秋氏
対してガールズトイ事業部は昨対125%と好調で、「プリキュア」108%、たまごっち123%、女児ホビー141%などが牽引しました。

プリキュアは「キラキラルクリーマー」を中心に想定通りの販売となり今回の商戦に限らず安定した売り上げ貢献ができたものと考えています。
[月刊トイジャーナル]2018年2月号p40

キラキラ☆プリキュアアラモードはバンダイより「直近では最も良い実績」と評価されるレベルで売り上げは好調でした。
2017年はまさに「プリキュアの復調」を決定づけた年となったのです。

バンダイ・ガールズトイ事業部マーケティングチーム 西島翔太氏
まずは前作「キラキラ☆プリキュアアラモード」に関して西島氏は「直近の中でも最も良い実績を残すことができた」と評価する。
[月刊トイジャーナル]2018年2月号 p9

2017年度(2017.4~2018.3)のバンダイナムコのトイホビー売り上げは81億円。前年の75憶より6億円アップ(108%)と、3年連続で前年より上昇、プリキュアの好調を維持することが出来ました。

●「ヒロイズム」が弱くなった

ただ、売り上げ好調だった「キラキラ☆プリキュアアラモード」にも問題点があった事がバンダイサイドから指摘されています。

「Go!プリンセスプリキュア」「魔法つかいプリキュア!」「キラキラ☆プリキュアアラモードのこれまで直近3年間のプリキュアは、世界観を分かりやすく伝えるためにプリンセス、魔法、動物&スイーツといったそれぞれ明確なモチーフを打ち出すことで、売り上げ人気ともに伸ばしてきた。
そしてその集大成となったのが前作の「キラキラ☆プリキュアアラモード」だった。
ただ分かりやすいテーマを打ち出した事で課題も残った。本来のなりきり遊びやヒロイズムといった要素が十分に伝えきれていなかったのである。
[月刊トイジャーナル]2018年2月号 p9

近年の3作「Go!プリンセスプリキュア」、「魔法つかいプリキュア!」、「キラキラ☆プリキュアアラモード」は、それぞれ女の子に分かりやすいモチーフを打ち出しました。そのおかげでプリキュアの人気、売り上げともに回復してきたのですが、今度はその「わかりやすさ」が「プリキュアのヒロイズム」を弱めてしまったというのです。

前作「キラキラ☆プリキュアアラモード」では戦闘シーンを控えめにした結果、武器アイテムが苦戦したという過去がある。
[月刊トイジャーナル]2018年5月号p60

「戦闘シーンを控えめにした事により、武器アイテムが苦戦した」という事が起きてしまっていたのです。
Go!プリンセスプリキュアの「プリンセスを目指す」、魔法つかいプリキュア!の「日常を守るために戦う」、キラキラ☆プリキュアアラモードの「女の子の想いを具現化するための肉弾戦の封印」といったわかりやすい要素は、プリキュアの「ヒロイズム」的な要素を弱め、女の子に伝えきれていないと判断されていたのです。

 プリキュアのヒロイズムこそが「なりきり遊び」につながり、変身アイテム、武器アイテムなどの購入動機へとつながっていく。そのためには「プリキュアのヒロイズム」、憧れのヒーローとしてのかっこいいプリキュアを描く必要がある。つまり「プリキュアのヒロイズム」を女の子に伝える事が次の課題となっていくのです。

そしてその「ヒロイズム」を1つのテーマとした2018年「HUGっと!プリキュア」が始まるのです。

●ミラクルちゅーんず!

同時期のライバルコンテンツに目を向けると、プリパラシリーズが4月より新シリーズ「アイドルタイムプリパラ」に、アイカツ!は「アイカツスターズ!」が2年目に入り、サンリオの「リルリルフェアリル」も2年目の「魔法の鏡」が放送されていました。「ヒミツのここたま」も3年目に入るなど、女の子向けアニメも安定して放送されていた年でした。
そしてその中でも注目は、タカラトミーの少女向け特撮テレビドラマ、ガールズ×ヒロイン!シリーズの「アイドル×戦士 ミラクルちゅーんず!」。
この女の子向け特撮「ガールズ×ヒロイン!シリーズ」で2作目よりプロジェクトマネージャーを務める小学館の佐々木礼子氏は、かつて広告代理店ADKでプリキュアのプロデューサーも務めた事もある方で、ここでも「プリキュアの遺伝子」が他作へと広がっている現状を見る事も出来ます。

また、女児キャラクターではプリキュアの好調に加え、ミラクルちゅーんず!も12月に入って突如動き出した。
[月刊トイジャーナル]2018年2月号 p36

その「ミラクルちゅーんず!」は開始当初こそ期待値に届いていなかった様ですが、クリスマス商戦で一気にブレイク。以後の「ガールズ×ヒロイン!シリーズ」を盛り上げていくこととなりました。プリキュアにとって驚異的なライバルが、また1つ誕生することとなっていくのです。 


2018年「HUGっと!プリキュア」

HUGっと!プリキュア ボーカルベスト

プロデューサー 梅田和沙(ABCアニメーション)
矢﨑 史(ADK)
内藤 圭祐
シリーズディレクター 佐藤 順一
座古 明史
シリーズ構成 坪田 文
音楽 林 ゆうき
製作担当 澤守 洸
美術 西田 渚
色彩設計 佐久間 ヨシ子
キャラクターデザイン 川村 敏江

●プリキュア15周年記念作品

2018年は「HUGっと!プリキュア」が始まります。
「子育て」をテーマとしたシリーズ15作品目。「子育て」がメインテーマではあるものの、いじめ問題やジェンダー観、家父長制、専業主夫など様々な社会問題にも言及し、メディアでも大きな話題となりました。

2018年は「プリキュアシリーズ15周年」として、プリキュア15周年公式サイトも作られ、15周年記念PVがYoutubeで公開されたり、原宿に限定ショップがオープンした事や、東京の主要駅に広告展開を行ったり、大人の女性向けイベントが実施されるなど、子供たちだけではなく、かつてプリキュアを見ていた一般層へのプリキュア露出も多く行われた年でした。

●なんでもできる、なんでもなれる

そんな記念イヤーのプリキュア「HUGっと!プリキュア」のキャッチコピーは「なんでもできる!なんでもなれる!輝く未来を抱きしめて!」。

「子育て」をテーマに、プリキュアが「子供を守るお母さん」として、赤ちゃんのため、人のため、世界のために戦う本作。

新番組「HUGっと!プリキュア」キャストは引坂理絵、本泉莉奈、小倉唯ら(コメントあり) - 映画ナタリー

東映アニメーションのプロデューサーは「魔法つかいプリキュア!」以来2回目となる内藤圭祐氏が担当。シリーズディレクターは『美少女戦士セーラームーン』や同じニチアサ枠では『夢のクレヨン王国』『おジャ魔女どれみ』などを手がけた女の子アニメのヒットメーカー佐藤順一氏と『フレッシュプリキュア!』で同職を務めた座古明史氏との2人体制となりました。
(佐藤順一氏がニチアサでSDを務めるのは「おじゃ魔女どれみ」以来18年ぶりの事です)

シリーズ構成はプリキュアのライバルでもあった「プリティーリズム・レインボーライブ」のシリーズ構成も務め、前作「キラキラ☆プリキュアアラモード」でも多数脚本を書いていた坪田文氏が担当。
キャラクターデザインは「Yes!プリキュア5」「Yes!プリキュア5GoGo!」「スマイルプリキュア!」を担当した川村敏江氏が3度目の登板となりました。これで4作連続で女性がキャラクターデザインを務めることとなりました。音楽は引き続き林ゆうき氏となっています。

……「未来」と「育児」という要素はどのような経緯で導き出されたのでしょう?
内藤:「未来」は監督たちと坪田さんを中心に話し合う中で出たテーマです。子供達に届けるのは「無限の未来」というメッセージが相応しいという話になりました。一方、玩具会社さんからは「赤ちゃんのお世話」という玩具のコンセプトが提案されて、今回のプリキュアは「育児も仕事もがんばるママ」というイメージを持った結果、色々うまくはまりました。

『HUGっと!プリキュア』完結、「S.H.Figuarts キュアエール」発売記念スペシャル鼎談 | 魂ウェブ

「赤ちゃんのお世話」というのは玩具会社からのコンセプト。そこに子育てから想起される「無限の未来」というメッセージを当てはめ「育児も仕事も頑張るママ」というスタンスへと繋がっていった様です。

●お母さんというヒロイズム

HUGっと!プリキュアのテーマは「子育て」の他に「子どもを守るお母さん」「ヒロイズム」「お仕事」等がアナウンスされています。

新作のテーマは「子どもを守るお母さん」「ヒロイズム」「子育て」「お仕事」で、プリキュアたちが赤ちゃんのため、人のため、世界のために戦う。ドタバタを交えつつ、不思議な赤ちゃんを育て、母の温かさ、優しさ、強さを描く。また、プリキュアは多忙で、お仕事を体験することになるという

プリキュア:第15弾「HUGっと!プリキュア」は子どもを守るお母さん 赤ちゃん登場 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

バンダイ・ガールズトイ事業部の西島氏は、「HUGっと!プリキュア」で挑戦するのは「原点回帰」として、「プリキュア本来のカッコイイ戦闘シーン」を描いていく、としています。

バンダイ・ガールズトイ事業部マーケティングチーム 西島翔太氏
こうした上昇基調の中で今回あえてチャレンジするのが「原点回帰」。プリキュア本来のコンセプトである「戦う女の子」、「圧倒的ヒロイズム」を描く。「プリキュア本来のカッコイイ戦闘シーンや変身シーンなど、ターゲットである3~6歳の女児の憧れを喚起して、なりきり欲求を最大限引き出していく。(西島氏)
[月刊トイジャーナル]2018年2月号p9

これは「ヒロイズム」というテーマに直結するのですが、前作「キラキラ☆プリキュアアラモード」において「肉弾戦の封印」をしたために「ヒーローとしてのプリキュア要素」が弱くなり、武器おもちゃが苦戦したという事に由来している様です。

前作「キラキラ☆プリキュアアラモード」では戦闘シーンを控えめにした結果、武器アイテムが苦戦したという過去がある。そこで今作では王道のMDと戦うヒロインとしてのプリキュアに原点回帰。格好いい戦闘シーンでヒロイズムを打ち出し、女児が「なりきり遊びをしたい」と思うような作品になっている。
[月刊トイジャーナル]2018年5月号p60

つまり、おもちゃメーカーの視点で見ると、ここ数年のプリキュアは「お姫様」「魔法」「お菓子」といった子供たちに分かりやすいテーマを掲げていたために「プリキュアのヒロイズム」がやや弱くなっってしまったと認識している様です。
そこでその「ヒロイズム」を再度提唱し、「圧倒的に強い存在としての戦う女の子」を描くことによって、女の子の変身願望を喚起し、プリチューム(子供用衣装)や、武器おもちゃ、変身おもちゃの販売を強化していく狙いもあった様です。

●シリーズ構成坪田文

そんな「HUGっと!プリキュア」は、15周年記念作品として「オールスター映画」や「15周年ライブ」といった展開が当初から予定されていました。
その中心にいても埋もれない存在としての「強いプリキュア」を描いていきたいとして、内藤プロデューサーが最初に声をかけ、軸を作ったのがシリーズ構成となる坪田文氏であった事も明かされています。

内藤 時系列的にお話をすると、玩具会社の方との打ち合わせのあと、まずシリーズ構成を決めました。最初に坪田(文)さんにお声がけをしたんです。
[HUGっと! プリキュア オフィシャルコンプリートブック, 2019](学研)

……まず本作の企画経緯からお教えください。
内藤:『HUGっと!プリキュア』はシリーズ15周年目の作品として、オールスター映画やライブといった展開のイメージが当初からありました。歴代のプリキュア達と並び立った際、その中心にいても埋もれない「強いプリキュア」にしたいと考えたんです。そんな漠然とした方向性を元にシリーズ構成の坪田文さんと話し合い、軸になる叩き台を作ったところで佐藤さんと座古さんに入っていただきました。

『HUGっと!プリキュア』完結、「S.H.Figuarts キュアエール」発売記念スペシャル鼎談 | 魂ウェブ

内藤Pと坪田文シリーズ構成により、どういう方向の物語にするのかが決められ、その後にシリーズディレクターの佐藤順一氏に話が行き詳細が詰められ「HUGっと!プリキュア」の骨格が出来上がっていった、との事です。

今回のシリーズの設定は、ほぼ脚本の坪田文さんが考えたとうかがいました。
佐藤 そうでしょね。まだタイトルが決まる前から、どういう方向性の物語にするかは、内藤圭祐プロデューサー(P)と坪田さんの間でだいたい決まっていました。ディレクターとしては、それを受け取ってどうするのかを考えましたね。(p86)
[HUGっと! プリキュア オフィシャルコンプリートブック, 2019](学研)

主人公「野乃はな」の名前や設定も当初から明確に坪田氏の中にイメージがあった様です。

……主人公「野乃はな」の名前や、前髪を切り損ねたという設定はどなたのアイデアなのでしょう?
内藤:名前や前髪は坪田さんに明確なイメージがあって、最初からキャラクター案として書かれていました。

『HUGっと!プリキュア』完結、「S.H.Figuarts キュアエール」発売記念スペシャル鼎談 | 魂ウェブ

前作「キラキラ☆プリキュアアラモード」では東映アニメのプロデューサー(神木優氏)とシリーズディレクター2人(暮田氏、貝澤氏)が主導となり世界が構築されていた事を思うと、「HUGっと!プリキュア」はプロデューサーが真っ先に声をかけたのがシリーズ構成の坪田文氏であった事からも、「シナリオ重視」の作風にしたかった事が伺えます。

●子育ては社会が行うもの

そんな「HUGっと!プリキュア」。
プリキュアで本格的な「子育て」を描く、という事に対し、内藤Pは「働く母の姿を、女性はこうあるべき」と押し付けるのではなく、「子育ては社会が行うもの」というメッセージを込めていきたい、としていました。

決して、働いて子どもを育てる母の姿を、女の子のあるべき姿だと描くつもりはありません。ただ目の前で弱い存在が虐げられていたら助けたいと思う、そういう気持ちが一番の強さであると見えるといいなと。今は赤ちゃんを連れて電車に乗るのも気を使う世の中で、もっと社会が寛容になってほしい。赤ちゃんは一人じゃなくて家族や地域、みんなで育てるものだと伝えたい思いもあります。(内藤)
[AERA18.3.26, 2018]

事実、アニメ本編でも第26話「大女優に密着!さあやとおかあさん」では撮影所みんなで子育てをするシーンを入れるなど、ワンオペ育児ではなく、「社会で子育てを行っていく」描写が数多く見られることとなりました。

●HUGっと!プリキュアの反響

そんな「シナリオ重視」の作風で、かつ玩具会社からは「子育て」「ヒロイズム」を描く命題を与えられ、またそこに「お仕事」の要素も加わった「HUGっと!プリキュア!」は、やや過剰とも思われる「テーマ」を詰め込んだメッセージ性の強い作品となりました。
「子育ては社会で行う」だけではなく、新しい時代のジェンダー観や家父長制、主人公野乃はなのいじめ問題にまで踏み込み、各種メディアでも数多く取り上げられることとなりました。
放送終了後にはSNSでも毎週の様にトレンドに入り(尤もプリキュアは、それ以前から毎週の様にトレンドには入っていましたが)、ちょっとしたWEBでのプリキュアブームとも呼べる現象が起きていました。
ただ、このネットでの反響に対し、企画として「HUGっと!プリキュア」に参加している鷲尾天氏はこの様に語っています。

日曜日にはSNSトレンドに毎週『HUGっと!プリキュア』が入っていますが、ネットの反響を制作に反映することはあるのでしょうか?

たくさんのご意見をいただいて大変ありがたいですし、嬉しいことです。ただ、発信している方は大人で、どういう傾向の方々かは把握しきれません。制作現場が、ネットの意見によって自分たちがやらんとしていることを疑ったり、曲げたりすることについては、慎重に考えたほうがいいだろうと思っています。「サイレントマジョリティ」という言葉があったと思いますが、賛同している約8割は発言しないけれど、反対している残りの1割か2割が発言しているケースもある。その声だけを尊重すると、全体像を見失う可能性もありますよね

【インタビュー】「自分の足で立っていること。凛々しくあること」 鷲尾 天プロデューサーが『プリキュア』に込めた15年間の思い - ライブドアニュース

 制作現場が「ネットの声によって作りたいものの主張を変える事」には慎重であるべきだとして、「声を発しない人の意見」にも耳を傾けないと全体像を見失う可能性がある事を示唆しています。
 これは鷲尾天氏のインタビューなどでたびたび見られる考えで、声の大きい人の意見だけではなく「サイレントマジョリティ」、声を発しない人の想いも大切なので、おもちゃ売り場やキャラクターショーなどの「現場」にも出向き、その現場の声を聞くことが大事、という考えです。
プリキュアという作品が15年以上も続いているのは、このように「現場」に出向き、子供たちの実際の声を聞くといった徹底した「現場主義」を貫き通しているからなのではないかと思うのです。

●男の子がプリキュアに

「HUGっと!プリキュア」では終盤に中性的な男子、若宮アンリ君がその想いの力でプリキュアとなりました。この「男の子がプリキュアになる」という事も大きな話題となり、各種ウェブ媒体にとどまらず、新聞や雑誌などでも取り上げられ、大反響となりました。
この「男の子がプリキュアになる」という事については、製作者サイドと視聴者サイドでは見解にやや相違が見られていた様です。

佐藤 男の子がプリキュアになったという視点でしか観なくなると、ほかの視点が探せなくなってしまうんですよ。
座古 もちろん「ジェンダー」の問題はみんなで考えたほうがいいことではあるのと思います。でも、彼が「なりたい自分」になったというところからはずれて議論してしまうのだ、もったいないかなとも思ってしまいます。
[HUGっと! プリキュア オフィシャルコンプリートブック, 2019]p87(学研)

 各媒体では「男の子がプリキュアになった」というジェンダー的な側面から論じられる事が多かったのですが、製作者側からすると、「男の子がプリキュアになった」というのは重要なことではなく、むしろ「なりたい自分」になった、という点が重要だったとの事です。
 製作者側としては「男の子プリキュア」が想定外に大きく取り扱われてしまった事にやや困惑していた様子がうかがえます。

座古: リアクションも大きくてビックリしたんですよ。過去のシリーズでも男性がプリキュア的な何かになる話はあったし、今回は「男がなる」と言うよりも「なりたい自分になる」という事を表現したかったんです。ですからキュアアンフィニへの反響は僕らにとって予想外でした。
内藤:僕らの意図よりも大きな文脈で広がったかもしれません。
座古:もっと「誰がなっても良いじゃない」、「みんな頑張って戦ってるんだ」くらいの気持ちだったんですよ。ただ反響が多かったのは嬉しい事ではあります。

『HUGっと!プリキュア』完結、「S.H.Figuarts キュアエール」発売記念スペシャル鼎談 | 魂ウェブ

また、最終回での大人となった主人公「野乃はな」の出産シーンも大きな話題となりました。

佐藤 僕は自然な着地点だなと思っていましたよ。『子育て』をテーマにしていれば、主人公がお母さんになるというのは、当たり前のことだろうなと。
座古 たしかに『プリキュア』としては新しいことかもしれないから、そこに注目されてしまうのもわかります。でも、真摯に向き合っていくと、これも当然の帰結かなと。ここで踏み込んで描けるところが、坪田さんのすごいところだなと思っているんです。出産シーンの分娩室にカメラが入っている形にするのは、坪田さんでなければできなかったと思います。
[HUGっと! プリキュア オフィシャルコンプリートブック, 2019]p89(学研)

 このリアルな「出産シーン」の演出は確かにプリキュアでは画期的ではあったものの、育児を真摯に扱う「HUGっと!プリキュア」という作品を象徴するシーンだったのだと自分は思っています。(賛否があるのも判る気がしますけどね)
 また「HUGっとプリキュア!」の現場は決して仲良しだけの「なまぬるい現場」ではなかった事も明かされています。

内藤:この現場は決して仲良しでキャッキャウフフでやっていたわけじゃなく、言い難いことを言ってバチバチやっていた時もあったし、そういう関係なのは良かったと思います。

『HUGっと!プリキュア』完結、「S.H.Figuarts キュアエール」発売記念スペシャル鼎談 | 魂ウェブ

 子供向けアニメーションに真剣に向かい合う大人たちが意見を出し合い真摯な姿勢で作り上げていた作品だったからこそ、HUGっと!プリキュアは子どもたちだけに留まらず大人をも巻き込んで大きな話題となった作品へとなったのです。

●プリキュアオールスターズの登場

 また、本作では15周年記念として様々な試みがなされましたが、その1つに歴代の「プリキュアオールスターズ」の登場があります。
 2018年10月23日公開の映画「映画HUGっと!プリキュア♡ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ」では歴代のプリキュア達が大集合し、その豪華さと「観客をも巻き込むミラクルライトの演出」も好評となり、歴代全てのプリキュア映画の中で最高の興行収入(11.5億※)を記録、プリキュアというコンテンツの強さを再認識させました。(※11.5億は2018年末の数字。2019年上映分は加算されていません)

またTVアニメ本編でも第21話、第22話で「ふたりはプリキュア」の「キュアブラック」「キュアホワイト」の2人が登場、そして第36話、37話では、55人ものプリキュアオールスターズが登場(プリキュアだけではなく、歴代のサブキャラクターも大集合)して、テレビの前の「現役の子供たち」と「かつてプリキュアをみていた大人たち」に向けて、プリキュアの存在をアピールしました。
また、2019年1月19,20日の2日間で「プリキュア15周年Anniversaryライブ~15☆Dreams Come True~」
と題した15周年の記念ライブが中野サンプラザにて行われ、歴代のプリキュア歌手、声優さんが勢ぞろいしライブを行い、大盛況となりました。

●「おしゃべりはぐたん」が市場を牽引

 プリキュア15周年記念として「今までプリキュアを見て来てくれた大人」への展開も数多く行っていた「HUGっと!プリキュア」ですが、もちろんメインターゲットの子供たちに向けても順調に展開をしています。
「HUGっと!プリキュア!」、おもちゃの展開的にも絶好調でした。
業界紙トイジャーナルでは当初より「前年を上回る勢い」といった言葉が聞かれ,初動は前作比137%と好調であった事がアナウンスされています。

2月4日にTV放送がスタートした「HUGっと!プリキュア」は2つのメインアイテムを中心に全作を上回る勢いとなっている
月刊トイジャーナル]2018年3月号p66

まずバンダイではTVアニメの放送と商品展開がスタートした「HUGっと!プリキュア」の初動が好調である。初動(2月3・4日の2日間)の状況は前作比137%。メイン商品の1つである変身アイテムの「変身タッチフォン♡プリハートDX」に加え、もう1つのお世話遊びのメインアイテム「お世話たっぷりおしゃべりはぐたん」の2アイテムが好調に推移している。
[月刊トイジャーナル]2018年3月号p67

「変身タッチフォン♡プリハートDX」「お世話たっぷりおしゃべりはぐたん」2つのメインアイテムが好調に推移していた模様です。バンダイが提唱する「ヒロイズム」「お世話」といったキーワードがうまく女の子にはまっていたものと思われます。

●プリキュア「圧倒的な強さ」

初動で好調な推移をみせたHUGっと!プリキュア。その勢いは止まる事なく、トイジャーナル5月号では「プリキュアは圧倒的強さ」とまで言及される様になっていました。

女児玩具の中でも大きなシェアを占める女児キャラクターでは「プリキュア」シリーズが圧倒的強さをみせてはいるが、その人気・強さの秘密はどこにあるのか?プリキュアシリーズは、2014年に「妖怪ウォッチ」「アナと雪の女王」という巨大コンテンツが登場した際には若干の影響は受けたものの、翌15年の「Go!プリンセスプリキュア」以降は、「お姫様」「魔法」「スイーツ」と女児の大好きなテーマに沿った作品と商品づくりを行い、毎年前作の売り上げを越える実績を出している。

2月4日に放送開始した「HUGっと!プリキュア」は、「戦うヒロイン」としての姿に原点回帰し、女児に人気の「お世話」要素も加えた王道の商品MDで、初動が130%、4月までの累計で110%と好調に推移している。
[月刊トイジャーナル]2018年5月号p51、52

プリキュアが「圧倒的な強さ」と称されるまで回復した理由として「お姫様「魔法」「子育て」といった女児の好きなテーマを訴求することによるものだと分析しています。
「HUGっと!」では「戦うヒロイン」という原点開始と、「お世話要素」という王道の2つの柱により、初動130%、4月累計で110%、と好調だった昨年を更に上回る数字となっていました。

変身アイテムや周辺商材はやや前作の実績に届いていないものの、お世話ぬいぐるみの「おしゃべりはぐたん」の人気が高く、売り上げを上乗せしている状態だ。
今年はプリキュアシリーズ15周年ということもあり、周年を盛り上げる展開も予定されているとのこと。女児キャラクターの王者の椅子は盤石だ。
[月刊トイジャーナル]2018年5月号p60

「変身アイテム」(変身タッチフォン♡プリハート)が「前作の実績に届いていない」と言及されますが、それを上回る勢いで「おしゃべりはぐたん」が売れ、全体では売り上げは昨年よりも好調な流れとなっていました。
ただ、6月に加入した2人の新プリキュア「キュアマシェリ」「キュアアムール」のメインアイテムである「ツインラブギター」が「期待値に届いていない」とも言及されるなど、全ての施策が上手くいっていた訳でもないようです。

「2017年夏休み商戦速報」
キャラクターでは何と言っても「プリキュア」が「おしゃべりはぐたん」などのメイン商品を中心に強さを見せたが、7月に発売された新製品「ツインラブギター」の動きは期待値に届いていない。
[月刊トイジャーナル]2018年9月号p39

年末商戦も「プリキュアは好調」だったとの事です。特に年間を通して「おしゃべりはぐたん」が市場をけん引していた模様です。

2018-2019年末年始商戦総括
バンダイ トイ戦略室デピュティゼネラルマネージャー 大関豊秋氏
一方、近年商戦を牽引することも多かった女児カテゴリーはプリキュアが好調だったのに加え~
[月刊トイジャーナル]2019年2月号p106

ガールズについてはプリキュアが「お世話たっぷり おしゃべりはぐたん」を中心に大きく貢献した他~
[月刊トイジャーナル]2019年2月号p107

●商業的にも大成功

 プリキュア15周年記念や「おしゃべりはぐたん」の好調などから、プリキュアの2018年度(2018.3~2019.4)バンダイナムコのトイホビー売り上げは、101憶と昨年の81億円を20億も上回り(125%)、6年ぶりに100億円を突破、プリキュアの完全復調を再認識させました。

●かつてプリキュアを見ていてくれた人へ

HUGっと!プリキュアは「育児」を」メインテーマとしつつも、いじめ問題やジェンダー観、家父長制、専業主夫、帝王切開など様々な社会問題を過剰とまで思える程に取り入れ、メディアで大きく取り上げられるシリーズとなりました。一方で「15周年記念」として「プリキュアオールスターズ」を子供たちだけではなく、かつてプリキュアを見ていた大人にも再認識させ、この先のプリキュアシリーズを盤石なものへと決定づける事へと成功したのです。
映画の興行収入が15年のシリーズの中で最高になったのはその象徴であると思われます。まさに「プリキュアシリーズ15周年」にふさわしい作品となったのです。

 
2019年「スター☆トゥインクルプリキュア」

スター☆トゥインクルプリキュア後期主題歌シングル(CD+DVD)

プロデューサー 佐藤有(ABCテレビ)
田中昂(ABCアニメーション)
矢﨑史(ADKエモーションズ)
柳川 あかり
シリーズディレクター 宮元 宏彰
シリーズ構成 村山 功
音楽 林 ゆうき/橘 麻美
製作担当 澤守 洸/堀越 圭文
美術 増田 竜太郎/いいだ りえ
色彩設計 佐久間 ヨシ子
キャラクターデザイン 高橋 晃

●平成最後のプリキュアは宇宙が舞台

2019年「スター☆トゥインクルプリキュア」。平成最後にして令和最初のプリキュアです。

キャッチコピーは「宇宙(そら)に描こう!ワタシだけのイマジネーション!」。
モチーフが「宇宙」「星座」であることがプレスリリースにて語られています。

第16弾のモチーフは宇宙、星座で、プリキュアが地球を飛び出し宇宙で冒険する。

スター☆トゥインクルプリキュア:シリーズ初の宇宙人プリキュア登場 地球を飛び出し宇宙で冒険 - MANTANWEB(まんたんウェブ)

東映アニメーションのプロデューサーは、2018年に「おしりたんてい」を手掛けた柳川あかり氏が就任、シリーズディレクターにはプリキュアシリーズでも演出を手掛け、劇場版アニメ「ONE PIECE FILM GOLD」の監督でもある宮元彰氏、シリーズ構成には「魔法つかいプリキュア!」でも同職を務めた村山功氏、キャラクターデザインは「スイートプリキュア♪」「ドキドキ!プリキュア」を手掛けた高橋晃さんが3度目の登板となりました。

●「ネオ80‘S」と「宇宙かわいい」

プロデューサーの柳川あかり氏は「平成生まれ」との事で、令和最初のプリキュアを平成生まれのプロデューサーが作り上げる、というまさに「新しい時代のプリキュア」のスタートとなりました。

【柳川】平成2年(1990年)生まれです。アニメの世界は35歳前後でプロデューサーになる方が多いので、少し若いかもしれません。私は「スタプリ」の企画書に、世界観のトーンとして「ネオ80's」と「宇宙かわいい」という2つのキーワードを掲げました。これは客観的にみれば、私の世代ならではの発想かもしれません。

プリキュア新作が「80年代」を推す理由 28歳の女性Pが狙う親子セット戦略 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

 そんな柳川Pはスター☆トゥインクルプリキュアの企画書に「ネオ80's」と「宇宙かわいい」という2つのキーワードを掲げました。これは子供たちと同時に30代40代のお母さん、お父さんをも取り込んでいく戦略の1つであり、企画時には「聖闘士星矢」と「セーラームーン」を意識している事もことも同記事で明かされています。

【柳川】実はそれで言うと、女の子たちの父親は「聖闘士星矢(セイントセイヤ)」(1986~89年放映)世代が多く、それを意識してはいます。
(中略)
【柳川】現在30代後半から40代前半の男性が『聖闘士星矢』世代です。1977年生まれの原田さんも、まさにど真ん中ですね。さらに言うと、20代後半から30代前半の女性、つまり母親世代は『セーラームーン』世代の可能性もある。
(中略)
【柳川】2作とも東映アニメーションでアニメ化した作品なので、それらを通過した世代が「スタプリ」の親世代だということは、企画当初からかなり意識していました。

プリキュア新作が「80年代」を推す理由 28歳の女性Pが狙う親子セット戦略 | PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)

●多様性が当たり前の世界

 また、スター☆トゥインクルプリキュアでも「多様性」を描いていくとしていますが、それを寓話的にわかりやすく子供たちに伝えるために、宇宙を舞台とし「宇宙人」を登場させる必要があった、と柳川Pは語っています。

そして多様性を描くことにもこだわりました。多様性といっても、言語、文化、人種、民族、国籍、ジェンダー、年齢、思想など、様々な切り口が存在します。どれか一つを取り上げるのではなく、より寓話的に物語るためには宇宙という舞台、そこにいる宇宙人も登場させることが必要だったのです。

ASCII.jp:原点に立ち返りつつ多様性を描く――スター☆トゥインクルプリキュアが届けたいもの (1/4)|まつもとあつしの「メディア維新を行く」

 宇宙人である「羽衣ララ(キュアミルキー)」は作品内の多様性を寓話的に語るために必要であるとしながらも、ただ単に強調して「多様性」を描いていくのではなく、多様性を特別視するのではなく、「多様性がある事が当然の世界」を描いていく、としているところが、本作の特徴でもあるのです。

多様なことを特別視して、問題を投げかけるのではなく、もうそれが受け入れられている世界というか、「いろいろあって当然なんだよ」という部分を出発点にしようと。お互いを尊重し合い、多様な人が共生している世界を描きたいと考えています。多様さとの向き合い方が問われる時代に、どれだけその感覚が作品を通じて伝わるか。

ASCII.jp:原点に立ち返りつつ多様性を描く――スター☆トゥインクルプリキュアが届けたいもの (1/4)|まつもとあつしの「メディア維新を行く」

 その「多様性が当たり前の世界」を認めていくためには「イマジネーションが必要」とし、アニメ本編中も多種多様な「イマジネーションの力」が描かれる事となりました。

多様性が当たり前にある世界を描きたい。多様性を考えたり、認めるにはイマジネーションが必要ということが柱になっています。ひかるは、宇宙で新しい価値観、文化と出会い、変化していきます。異文化交流の中で、好奇心を持って知りたい、伝えたい気持ちを深めます。ただ、多様性を強調しないようにしています」

スター☆トゥインクルプリキュア:自然に多様性描く 新作の狙い - MANTANWEB(まんたんウェブ)

●初の見逃し配信開始

また、プリキュアシリーズではずっと対応していなかった「見逃し配信」が「TVer」により今作より開始しているのも、新しい取り組みとなっています。(「キラキラ☆プリキュアアラモード」以降ではようやくネット、WEBなどにも積極的に取り組んでいく姿勢も見られるようになってきました。)

●開始から好調

そんなスター☆トゥインクルプリキュア。「歌いながら変身する」という「プリキュアへの憧れ」を最大限喚起する事で売り上げ増を狙っていく戦略を取りました。

まず、なりきりについて今回は女の子が大好きな「歌」と「ダンス」を全面に出した「ミュージカル変身」を番組で演出することで例年以上にプリキュアへの憧れを喚起するほか、お世話遊びには例年人気の液晶アイテムを組み合わせることで最大販売を狙っていく予定。
[月刊トイジャーナル]2019年1月号P21

トイジャーナル誌上で「例年以上にプリキュアへの憧れを喚起する」と言及されるなど、マーチャンダイジング的にも今年も「女児の憧れ」を推していく姿勢がうかがえます。
そんな「スター☆トゥインクルプリキュア」の玩具展開は番組開始から好調だった様です。

一方で好調な滑り出しを見せているのが新プリキュアである。初動こそ前作比100%での推移となっているが、前作の初動は前々作比130%以上を記録しているだけにスタートダッシュとしては十分な勢いである。
[月刊トイジャーナル]2019年3月号 p71

「スター☆トゥインクルプリキュア」。そのおもちゃ関連の初動は前作比100%でした。(この100%は好調だった前々年と比較してなので、かなり高い水準であると言えます)
 ただ、課題として昨年の「おしゃべりはぐたん」に匹敵するレベルの玩具がまだ登場していない事も挙げられています。

メインアイテムの「変身☆スターカラーペンダント」を中心に動いているが、商品MDでは課題も見えてきた。前作ではメインの変身アイテムに加えお世話アイテム「おしゃべりはぐたん」が年間貢献アイテムとなったが、この分をいかに取っていくか。
[月刊トイジャーナル]2019年3月号 p71

執筆段階ではようやく物語は中盤、「キュアコスモ」が加入した所なので、記述はここまでにします。この先の展開も超楽しみなのです

平成のプリキュア史

「平成のプリキュア史」を製作者の媒体での言及を中心とした「製作者の想い」と玩具の販促という「実際の数字」、2面から振り返ってみました。
改めて見てみてもこの側面から見る「プリキュアの歴史」は、本当に面白いのですよね。

例えば、
開始当初は1年の予定でありながらも「半年後の事など考えない」というスタンスでスタートした「ふたりはプリキュア」がスタートと同時に爆発的な人気が出た事、
「スプラッシュスターで売り上げが落ちた」と言われる事が多いのですが、実は前作「マックスハートの後半」から落ち込みを見せ始めていた事、
そしてその理由は「おしゃれ魔女ラブandベリー」の稼働の影響があった事、
その落ち込みにより「次が失敗したらシリーズが終わる」とまで言われたプリキュアがYes!プリキュア5で「5人のプリキュアが登場する」という戦隊的な手法でV字回復を見せた事、
フレッシュプリキュア!以降、「プリキュアでおもちゃが最も売れる年間スケジュール」が確立し、それにともない売り上げも右肩上がりで上がっていった事、
スイートプリキュア♪もスタート当初は絶好調だったもの、3.11の震災の影響を大きく受けてしまった事、
スマイルパクトが絶好調で「歴代最高の売り上げも見込める」とまで言及された「スマイルプリキュア!」が、追加プリキュア不在のためなのか後半に売り上げ的に大失速してしまった事、
そしてそれが理由なのか以後のプリキュアでは必ず夏前に追加プリキュアが登場する様になった事、
「妖怪ウォッチ」「アナ雪」の波にのまれ大きく売り上げを落としてしまった「ハピネスチャージプリキュア!」も、10年にわたるプリキュアシリーズの信頼により、その時には「プリキュアシリーズが終わる」という選択肢はなく、「プリキュアは続けていくことが重要」とまで言及されるコンテンツへと成長していた事、
実はその「ハピネスチャージプリキュア!」よりも次作「Go!プリンセスプリキュア!の前半」の方がおもちゃの販売的には落ち込んでいた事、
そして夏以降「キュアスカーレット」の投入により市場が一変し、以降プリキュアは回復傾向になっていく事、
革新的なコンテンツとして始まったプリキュアがトップランナーとして走る内、いつのまにか「女児アニメのスタンダード」として道徳的な側面まで期待されるような保守的なコンテンツへと変わってしまっていた事、
そんな保守思想を打破し「プリキュアの水着」を解禁したのがプリキュア初の女性プロデューサーであった事、
「Go!プリンセス」以降、売り上げが回復したのは「お姫様」「魔法」「お菓子」といった明確なコンセプトを提示し、子供に分かりやすいテーマを提示できたのが1つの要因だった事、
そして今度はその「わかりやすさ」こそがプリキュアのヒロイズムを弱め、結果として変身アイテム、武器アイテムなどの購入動機が弱くなってしまった事、
そこで「プリキュアのヒロイズム」を回復させるべく、子どもにとってのヒーロ=お母さんと定義し「強いお母さん」を描く「HUGっと!プリキュア」がスタートした事、
HUGっと!プリキュアで「多様性のある世界」を描き、次作「スター☆トゥインクルプリキュア」では「多様性が当たり前の世界」を描いていく事。

すべては繋がっているのです。

それはプリキュアが安定を求めず1作品1作品すべてに新しい要素を取り入れ、時代と子ども達の変化に合わせてプリキュアも変化しているからこそ出来ている事なのだと思います。
その「子どもたちの事を考え、時代に合わせ柔軟に変化していく事」こそがプリキュアシリーズの強みなのではないのかと、僕は思うのです。
プリキュアの生みの親、鷲尾天氏はこんな事を言っています。


「女の子たちに熱狂してもらえるなら、変身しなくてもいいし、アクションをしなくてもいい。男の子が仲間に加わってもいいとまで思っています。女の子たちがちゃんと喜んでくれる作品になっているなら、「プリキュア」も変わっていってもいいと思うんです。
(上北ふたご プリキュアコレクションふたりはプリキュアマックスハート 鷲尾天独占インタビューより)

そのうち、レギュラーで男の子プリキュアがでてきたり、変身しないプリキュア、性別の無いプリキュアなんてのも出てくるのかもしれません。(アンドロイドや異星人のプリキュアはもう出ましたしね)

令和時代のプリキュアは、どんな風に変化していき、どんな風に子供たちを笑顔にしていくのか楽しみですね。 

 

プリキュア・メモリ

最後にもう1つ。
自分は、スター☆トゥインクルプリキュアの柳川プロデューサーが2019年5月11日にWEBメディア「ASCII.jp」で語った、この言葉が大好きなのです。

テレビだけでなく周辺の映画、キャラクターショー、おもちゃ・グッズなどすべてを含めてプリキュアという体験を提供しているのだなということです。

ASCII.jp:原点に立ち返りつつ多様性を描く――スター☆トゥインクルプリキュアが届けたいもの (1/4)|まつもとあつしの「メディア維新を行く」

プリキュアは「プリキュアという体験を提供している」
プリキュアはテレビアニメーションだけではなく、映画、キャラクタショー、おもちゃ、グッズなどを含めて、「プリキュアという体験」を子供たちに届けているのだと柳川プロデューサーは言います。

アニメーションだけではなく、「プリキュアを通して得られるたくさんの思い出」を子供たちに届けていきたい。そんな思いでプリキュアというアニメーションは作られているのです。だからこそ、おもちゃもキャラクターショーも、映画にも子供たちのために絶対に手を抜かない。アニメだけではなく周りのコンテンツ全て含めての「プリキュア」なのだから。

プリキュア10周年の「ハピネスチャージプリキュア!」のエンディング曲。
「プリキュア・メモリ」と題された曲には、こんな歌詞があります。

いつか大人になった時も
忘れないでね 愛と勇気

歌詞引用 プリキュア・メモリ
作詞:只野菜摘、作曲:小杉保夫、編曲:Dr.Usui 歌:吉田仁美

 

 プリキュアは、アニメーションを通し、おもちゃを通し、キャラクターショーを通し、お母さん、お父さんと一緒に手をつないで観に行った映画を通し、お友達と一緒に歌った歌を通し、おうちで踊ったダンスを通して、すなわちプリキュアというコンテンツを通して、たくさんの「思い出」を子供たちに提供しているのです。

 そしてプリキュアを見て育った子供たちが、いつか大人になって大きな困難に直面した時、プリキュアからもらった愛と勇気を思い出してその困難に立ち向かっていく日がくるのです。いや、それはもう来ているのです。
それが出来るのは、みんなの心に「プリキュア・メモリ」があるからなのです。
いつか大人になった時も、忘れないでね、愛と勇気。
子供たちに向けて発せられたプリキュアの言葉は、プリキュア・メモリとなって、いつの日か成長した大人へと届く。

そういった意味では、「平成のプリキュア」は子供たちだけではなく「今を生きる全ての人に」メッセージを発していたのだと思います。

 

(おわり)

 


参照文献

月刊トイジャーナル. (2004~2019各号). 東京玩具人形協同組合 トイジャーナル編集局.
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ふたりはプリキュアビジュアルファンブック vol.2. (2004). 講談社.
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ふたりはプリキュアマックスハート ビジュアルファンブックvol.2.(2005). 講談社.
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ドキドキ!プリキュア オフィシャルコンプリートブック. (2014). 学研マーケティング.
プリキュア新聞2014年春号. (2014).
ハピネスチャージプリキュア! 特別増刊号 (アニメージュ2014年12月号増刊). (2014). 徳間書店.
アニメージュ 2014年 04月号. (2014). 徳間書店.
Febri(フェブリ)Vol.30. (2015). 一迅社.
プリキュアぴあ2015. (2015). ぴあ.
ハピネスチャージプリキュア! オフィシャルコンプリートブック. (2015). 学研マーケティング.
アニメージュ増刊『Go!プリンセスプリキュア』特別増刊号 2015年 12 月号. (2015). 徳間書店.
Go!プリンセスプリキュア オフィシャルコンプリートブック. (2016). 学研マーケティング.
アニメージュ 増刊 魔法つかいプリキュア! 2017年 01 月号. (2016). 徳間書店.
魔法つかいプリキュア! オフィシャルコンプリートブック. (2017). 学研プラス.
Febri(フェブリ) Vol.43 [巻頭特集] キラキラ☆プリキュアアラモード. (2017). 一迅社.
アニメージュ増刊キラキラ☆プリキュアアラモード 特別増刊号 2018年 01 月号. (2017). 徳間書店.
キラキラ☆プリキュアアラモード オフィシャルコンプリートブック. (2018). 学研プラス.
AERA18.3.26. (2018). 43.
プリキュア15周年アニバーサリー プリキュアコスチュームクロニクル. (2018). 講談社.
AERA18.12.24. (2018). 62.
Febri特別号 プリキュア15周年アニバーサリーブック. (2018). 一迅社.
CGWORLD 2018年12月号vol.244 (特集:『映画HUGっと! プリキュアふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』、エンバイロンメント 2.0). (2018). ボーンデジタル.
HUGっと!プリキュア』特別増刊号 アニメージュ2019年1月号増刊. (2018). 徳間書店.
HUGっと! プリキュア オフィシャルコンプリートブック. (2019). 学研プラス.
アニメスタイルインタビューズ01(2019)佐藤順一が語る「HUGっと!プリキュア」のメイキング 株式会社スタイル 

(ウェブ媒体)

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まだまだ聞きたいプリキュアのこと!プロデューサーに答えてもらう20問. ((WEBアーカイブ)). 参照日: 2016年9月1日, 参照先: WEBマガジン幻冬舎.
【放送芸能】『セーラームーン』上回る6作目 テレ朝アニメ『プリキュア』 ブランド+新キャラが強み. (2009年2月13日). 参照先: 東京新聞: https://megalodon.jp/2009-0215-1214-21/www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2009021302000056.html
中学生がベストな年齢〈映画「スイートプリキュア♪」制作者インタビュー3 梅澤淳稔プロデューサー後編〉. (2011年11月4日). 参照日: 2019年6月8日, 参照先: エキレビ!: https://www.excite.co.jp/news/article/E1320333190289/
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映画「プリキュアASDX3」プロデューサー&監督対談〉part2 東日本大震災、想定外の想定外. (2011). 参照先: エキレビ!: https://www.excite.co.jp/news/article/E1311252329563/
娘が見た父親の涙は〈映画「スイートプリキュア♪」制作者インタビュー1 梅澤淳稔プロデューサー前編〉. (2011). 参照先: エキレビ!: https://www.excite.co.jp/news/article/E1319732382293/
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お母さんもプリキュアに変身!本格的コスメ「スマイルパクト シャイニーフェイスパウダー」開発の秘密 -. (2012年7月5日). 参照日: 2019年6月8日, 参照先: エキレビ: https://www.excite.co.jp/news/article/E1341422315720/
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プリキュア:10年目でさらなる進化 今ドキの女の子を虜にする魅力とは? (2013年3月3日). 参照先: MANTANWEB: https://mantan-web.jp/article/20130301dog00m200119000c.html
プリキュア:最新作はおしゃれと恋愛 イケメン登場. (2013年12月26日). 参照先: https://mantan-web.jp/article/20131225dog00m200044000c.html2013
note 山口亮太 ドキドキ!プリキュア回顧録, 2014
https://note.mu/staffwhy/m/m6ae05fcb8494

インタビュー:鷲尾 天 (プロデューサー). (2014). 参照日: 2019年5月, 参照先: (https://rooftop.cc/interview/140201150005.php)
アイカツ!:売り上げ140億円に急成長 大ブームの裏側. (2014年3月9日). 参照日: 2019年6月9日, 参照先: MANTANWEB: https://mantan-web.jp/article/20140308dog00m200003000c.html
声優さんが泣いて歌えなかったことがあって「プリキュア」作詞家対談2・青木久美子×只野菜摘 . (2014年7月18日). 参照先: エキレビ!: https://www.excite.co.jp/news/article/E1405611474153/
プリキュア:第12弾「Go!プリンセス」はお姫様風ロングドレスに変身. (2014年12月26日). 参照先: MANTANWEB: https://mantan-web.jp/article/20141225dog00m200056000c.html
【ヒット商品開発秘話】セガトイズ『ジュエルポッド』ヒットの理由. (2015年1月5日). 参照先: @DIME: http://news.livedoor.com/article/detail/8646588/
魔法つかいプリキュアは「友情と絆、多くの奇跡」. (2016年1月1日). 参照日: 2019年6月8日, 参照先: 日刊スポーツ: https://www.nikkansports.com/entertainment/news/1586398.html
『アイカツスターズ!』は『アイカツ!』からどう変わる? - バンダイ・データカードダス開発チームを直撃. (2016年4月7日). 参照先: マイナビニュース: https://news.mynavi.jp/article/20160407-aikatsu/
『プリパラ』ユーザー数300万人突破! しかし新仕様が“改悪”すぎて一部では『プリパラ』離れも加速か!? (2016年6月10日). 参照先: exiteニュース(おたぽる): https://www.excite.co.jp/news/article/Otapol_201606_300/
[キュアモフルンは、初のズボン着用プリキュア!? その理由はなぜ? 『映画魔法つかいプリキュア!奇跡の変身!キュアモフルン!』田中裕太監督インタビュー【前編】,(2016年10月23日)https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1476985552

【ネタバレ注意】田中裕太監督語る、映画『まほプリ』とプリキュアのあり方! 『映画魔法つかいプリキュア!奇跡の変身!キュアモフルン!』田中裕太監督インタビュー【後編】. (2016年11月3日). 参照日: 2019年6月8日, 参照先: https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1477204442
プリキュア:第14弾のテーマは“スイーツ×アニマル” ウサ耳の主人公が登場. (2016年12月26日). 参照日: 2019年6月12日, 参照先: MANTANWEB: https://mantan-web.jp/article/20161225dog00m200036000c.html
肉弾戦を封印することで描けるプリキュアらしさがある! 『キラキラ☆プリキュアアラモード』神木優プロデューサー&暮田公平SD&貝澤幸男SDインタビュー. (2017年2月3日). 参照日: 2019年6月11日, 参照先: アニメイトタイムス: https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1485843322
キュアパルフェお披露目直前! 暮田公平SD、貝澤幸男SD、神木プロデューサーに聞く、『キラキラ☆プリキュアアラモード』が6人チームとなったその理由とは!? (2017年7月14日). 参照日: 2019年6月11日, 参照先: アニメイトタイムズ: https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1499997366
大好きと大嫌い、心の光と闇に少しずつ踏み込んでいった――『キラキラ☆プリキュアアラモード』シリーズ構成・田中仁さん&神木優プロデューサーに聞く『プリアラ』の1年間. (2018年1月25日). 参照日: 2019年6月11日, 参照先: アニメイトタイムズ: https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1516781460
プリキュア:第15弾「HUGっと!プリキュア」は子どもを守るお母さん 赤ちゃん登場. (2017年12月27日). 参照日: 2019年6月12日, 参照先: MANTANWEB: https://mantan-web.jp/article/20171226dog00m200030000c.html
新番組「HUGっと!プリキュア」キャストは引坂理絵、本泉莉奈、小倉唯ら. (2018年1月6日). 参照日: 2019年6月12日, 参照先: 映画ナタリー: https://natalie.mu/eiga/news/264077
プリキュア生みの親が語るヒットの背景、時代と共に女児の自立を応援し15年. (2018). 参照日: 2019年年5月月, 参照先: https://www.oricon.co.jp/confidence/special/52074/
自分の足で立っていること。凛々しくあること」 鷲尾 天プロデューサーが『プリキュア』に込めた15年間の思い. (2018年10月24日). 参照先: http://news.livedoor.com/article/detail/15451211/
『HUGっと!プリキュア』完結、「S.H.Figuarts キュアエール」発売記念スペシャル鼎談. (2019年2月3日). 参照日: 20193年6月12日, 参照先: 魂ウェブ: https://tamashii.jp/t_kokkaku/118/
スター☆トゥインクルプリキュア:シリーズ初の宇宙人プリキュア登場 地球を飛び出し宇宙で冒険. (2018年12月27日). 参照日: 2019年6月20日, 参照先: MANTANWEB: https://mantan-web.jp/article/20181226dog00m200062000c.html
スター☆トゥインクルプリキュア:自然に多様性描く 新作の狙い. (2019年2月2日). 参照先: HUFFPOST: https://mantan-web.jp/article/20190201dog00m200037000c.html
プロデューサー 柳川あかり氏インタビュー原点に立ち返りつつ多様性を描く――スター☆トゥインクルプリキュアが届けたいもの. (2019年5月11日). 参照日: 2019年6月22日, 参照先: ASCII.jp: https://ascii.jp/elem/000/001/807/1807731/
プリキュア新作が「80年代」を推す理由 28歳の女性Pが狙う親子セット戦略. (2019年5月25日). 参照先: プレシデントオンライン: https://president.jp/articles/-/28764

 

 

「平成のプリキュア史」

WEBは読みにくいーって方、紙媒体で読みたい方、同人誌版をぜひ。

内容はこのWEB版とほぼ一緒ですが、同人誌版は本文に加え、

コラム4つも入っています。
(216ページ、縦書き2段で読みやすいです。有料なので興味のある方ー)

 

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 さらに、この本の続きはGWコミケで頒布予定だった新刊
「スター☆トゥインクルプリキュアの軌跡」にあります。

こちらもとらのあなにて取り扱っています。

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