(ネタバレはありませんが、パンフレットに記載されているレベルで若干ストーリーに触れていますので未視聴の方ご注意下さい。また、画像はすべてパンフレットより引用しています)
(パンフレット表紙)
後ろのお父さんが泣いていた
「あー!パパ泣いてるーーーー」
エンドロールが流れる中、僕の2つ後ろの席に座っていた親子連れ。小学校低学年くらいの女の子がお父さんに言っていました。
同じくエンドロールで号泣していた僕は思います。
そりゃあそうだろう。
こんなの、泣くに決まってる。
映画「若おかみは小学生!」。
僕の様な40越えたおじさんにも「ど直球に突き刺さる」今世紀最高の作品でした。
ストーリーも、キャラクターも、背景美術も、音楽も。
ちょっと信じられないレベルで「完成」されていたのです。
この映画には「悪人」が出てきません。
僕はずっと「悪人が出てこない物語」は「やさしい物語」とばかり思っていました。
しかし違いました。
「悪人が出てこない」という事がこれほどまでに残酷な事なのか。
それでいてさわやかな「未来」を感じさせる終わり方。
なんだ、この映画。最高じゃないか。
映画「若おかみは小学生!」。
ビジュアルとタイトルから「子供向けのドタバタコメディ映画」と思っている方も多いかと思いますが(もちろんコメディ要素もありますが)結構ビターな内容で、少なくとも僕が今までみてきた映画の中でも、最上級に「観て良かった」と思わせる映画でした。
↓(※映像美がどれくらい「ものすごいか」はPV観てください)
(公式がGIF配信しています。ここでも映像美がわかります)
<映画「若おかみは小学生!」>
映画「若おかみは小学生!」は令丈ヒロ子さん原作の児童文学「若おかみは小学生!」(講談社青い鳥文庫)を映画化したもので、監督に「茄子 アンダルシアの夏」の高坂希太郎さん、脚本に吉田玲子さんを迎えて、2018年9月21日に公開されました。
吉田玲子さんが手がけた映画の脚本の中って僕が大好きな映画が多いのですよね。
・デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!(2000年)
・猫の恩返し(2002年)
・映画けいおん!(2011年)
・たまこラブストーリー(2014年)
・ガールズ&パンツァー 劇場版(2015年)
・映画 聲の形(2016年)
・リズと青い鳥(2018年)
自分は「たまこラブストーリー」が大好きで大好きで。いまだに「幼馴染みとの恋愛」を描いた決定版はコレだと思っています。そんな吉田玲子脚本、期待せずにはいられません。
で、映画「若おかみは小学生!」なのですけど、
両親を交通事故で亡くした小学生、関織子(おっこ)が、成り行きでおばあちゃんの旅館「春の屋」の若おかみとなり、おっこちゃんにしか見えない幽霊のウリ坊たちと一緒に春の屋の若おかみとして成長していく、いうストーリーなのです。
(自分は原作小説は未読、TVアニメ版は全視聴済み、という環境です)
(パンフレットより)
この「こいのぼり」のシーンが綺麗。
<キャラクターが生きている>
この映画、何が素晴らしいかって。
まず、出てくるキャラクター全員が「生きている」のです。
「アニメのキャラクターが動きに合わせて決められた事をしゃべっている」のではなく、本当に日本のどこかに「花の湯温泉街」があって、そこでの1シーンを切り取って劇場で流しているのじゃないか、というレベルでキャラがそこで「生きている」のです。(まあ2人ほど幽霊なので死んでいるのですけどね)
主人公、おっこちゃんはもちろんの事、脇を固めるキャラクターも魅力的です。
僕が素敵だな、と思ったのは、いわゆるおっこのライバルキャラ、大旅館、秋好旅館の跡取り娘”ピンふり”こと秋野真月ちゃんです。(ピンクのフリフリを着ているからピンふりと呼ばれています)
この真月ちゃん、一見高飛車でアヴァンギャルドなキャラでありながらも実は温泉街の将来を誰よりも考えていて、勉強家で努力家なのですよね。(おっこちゃんが秋好旅館の真月ちゃんの部屋を訪ねるシーンは、真月ちゃんの素直じゃない性格とその勤勉さが垣間見られて必見です!!)
あと、デキる大人の女性、占い師のグローリー・水領さんがステキ過ぎました。
(余談ですがTV版では毎週の様に誰かの温泉入浴シーンがありましたが、映画版では、このグローリー・水領さんの入浴シーンがあります。)
(パンフレットより)
後ろの女性がグローリー・水領さん。イケてる大人の女性です。
このグローリーさん、失恋からの傷心旅行で春の屋に来た女性なのですが、めちゃくちゃカッコイイ女性なのです。
中盤おっこちゃんとドライブするシーンがあるのですが、とある事件の後、オープンカーのルーフが開いて一面に青空が広がるシーンは心象描写と相まってこの映画の名シーンの1つだと思います。この時の水領さん、超カッコイイ!
真月ちゃんと、グローリー・水領さん、この2人が終盤の「とある事」におっこちゃんが立ち向かう事が出来たキーパーソンだったのだと思います。
<描写の高密度>
「鯉のぼり」のね、描写がすごいの。
草木がね、ちゃんと、草木なの。
虫が虫なの。
出てくる食べ物が、美味しそうなだけではなく、匂いまでするの。
背景美術の素晴らしさ、作画のものすごさ、描写の情報量はもう「実際に映画見て!!」としか言えない。
高密度の美術(パンフレットより)
匂いと味までも感じる料理の映像
<死を受け入れる、という事>
ストーリーはテンポよく進み飽きさせません。いくつものエピソードを重ねる感じで、ちょっとクセのあるお客様の問題を、その持ち前の明るさでおっこちゃんが解決していくのですが、随所に印象的なシーンを挟み飽きさせません。
冒頭、TVアニメ版には無かった「おっこちゃんの両親の交通事故のシーン」が挿入されます。(けっこうキツいです)
その後、表札も無く荷物が取り払われガランとしたマンションの1室、スーツケースにランドセルを背負ったおっこちゃんが、部屋の奥に向かい「いってきます」と声をかけ部屋を後にします。
もうそのシーンだけでもグッとくるものがありますが、その後、たびたび「おっこちゃん」が、両親の幻影と対峙し、両親の死を受け入れられていない描写があります。
もちろん頭では両親の死を理解しているのでしょうけど、心の中では「生きていてほしい」と思っている、そんな繊細な描写に僕はこれらのシーンが出てくるたびに泣く事になったのです。
途中で挟まれる「両親の布団に、おっこちゃんが潜り込むシーン」は、今これを書いてる時に思い出しただけで泣けてきます。
(↓ここら辺、泣けるシーンの連続でつらい)
<悪人が出てこない事の残酷さ>
ネタバレになるので書けませんが、物語終盤おっこちゃんはあるつらい出来事に遭遇し、ある決断をします。
僕は思うのです。
「いっそ悪人が悪い事して、それをやっつけて解決」
もしくは、
「その悪人が改心し、悪人をも許すことができる女の子の物語」であればどれほど良かったか。
しかし、この物語には悪人が登場しません。
悪人が登場しない、という事が「これほどまでに残酷な決断を迫られる事」になるのか、と思うのです。
自分がおっこちゃんの立場であればどうしただろうか?と思うといまだに答えがだせないのです。
おっこちゃんの選択は、花の湯旅館で大切な仲間たちができたからこその結論。
そして、
「花の湯温泉のお湯は誰も拒まない。すべてを受け入れて癒してくれる」
という言葉につながっていくのですよね。
この言葉は、映画の中でたびたび言及される花の湯温泉の伝承。
しかし映画終盤でおっこちゃんが再度言う
「花の湯温泉のお湯は誰も拒まない。すべてを受け入れて癒してくれる」
この台詞はそれまでとは全く違った意味をもつのです。
グッズ(ポストカード)にもなっているキービジュアルの1つに下のイラストがあります。
(パンフレットより)
この映画を未視聴の方は、このシーンをみても
「ああ、4人で楽しく何かを踊っているんだな」って思うかもしれません。
しかし映画を観るとこのシーンが「全く違う意味合い」を持っていることに気づきます。
これはとても美しいシーンでもあり、悲しいシーンでもあり、未来への希望が詰まった、この映画の最上級に想いの詰まったシーンなのです。
このシーンの意味するところは、ぜひぜひ、劇場でご覧ください。
作画の素晴らしさ、音楽の素晴らしさも相まって、僕はこのシーンで、この映画4回目の涙を流したのでした。
だってさあ、最後にさあ・・
<とにかく、全人類、見て!!>
「私は、ここの、春の屋の若おかみです」
おっこちゃんの放つ、たった一言。
この一言の「重さ」を知るためにも、劇場で観る価値があると思うのです。
良い映画に出会える事は、自分の人生を豊かにします。
僕は、この映画に出会えて本当に良かったと思っています。
うん。
この想いをたった僕1人の頭にしまっておくにはあまりにももったいない。
だから。とにかく。
全人類!!
観て!!
(おわり)
(余談)
↓この看板、映画見る前は「ただの宣伝用の看板」だったのですけど、
映画見終わった後は「ようこそ〇〇へ!。あたし、おっこ」の台詞だけで泣けてくるようになります。
(TVアニメ版「若おかみは小学生!」の「出てくる料理の美味しそう」さは過去記事にしました)