タイトルに誤解があるといけないので先に補足します。
正確には
「この10年でリアルタイムでプリキュアを見ている子供が半減しているという事実」です。
今年も、NHK放送文化研究所様の「幼児のテレビ視聴と録画番組・DVDの利用状況」が発表されました。
2016年:http://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20161101_6.pdf
これは幼児のTVの視聴時間や録画状況などが調査された貴重な資料です。
このデータを追っていくと、幼児のTV視聴の状態が見て取れます。
自分もプリキュアの動向を調査するために、このデータを毎年追っているので、
今年もまとめておきたいと思います。
調査概要
調査対象は6月6日(月)~12(日)に東京駅30Km圏の2~6歳の未就学児を対象とし、住民台帳から層化無作為2段抽出した幼児1000人中、有効回答のあった545人での集計になります。*1
サンプル構成は下記になります。
http://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20161101_6.pdf
視聴率のデータは2歳、3歳、4歳、(5,6歳)毎に集計されています。
ビデオリサーチ社の発表している世帯視聴率、KIDS視聴率とは違い、幼児の「年齢ごと」の視聴率データが記載されているのが大変貴重です。
あくまで東京中心圏の調査であり、全国的な調査ではないためそれを考慮に入れる必要はあると思います。
(プリキュアは都会よりも地方に強い、というデータがビデオリサーチの視聴率などからも伺えます。)
あと、6月のたった1日だけの視聴率という事も踏まえたうえで、
あくまで1つの参考としてご覧ください。
(ただし、このNHK調査の幼児の視聴率と、ビデオリサーチ社発表のKIDS視聴率は相関係数0.90と強い相関があったので、ある程度は信頼できるものと思われます。)
あと「視聴率」と「作品内容」は相関しません。
決して特定の作品を批判する意図が無い事もご了承下さい。
数値データ
子供がリアルタイムで10分以上視聴している番組を母親が代理で回答した数の集計です。(以後視聴率データは全て同じ定義)
プリキュアのみを抜粋して、まとめました。
2016年「魔法つかいプリキュア」では
総合(2~6歳の男女)の視聴率は21.4%以下。
つまり、2~6歳児100人のうち、21人以下の幼児が見ていたことになります。
(これは男女合わせてですので、女児だけにするともっと増えると思います。)
年齢階層別の視聴率では、
3歳児は、19%以下
4歳児は、23%
5,6歳児は21%
でした。
だいたい、どの年齢階層も幼児100人中20人前後が見ていることが判ります。
5,6歳児は昨年「Go!プリンセスプリキュア」よりも視聴率が上がっていますが、その他の年代では昨年よりも視聴率を落としています。
グラフ
表ではわかりにくいので、グラフにしました。
(以後、引用表記の無いグラフ、表は上記レポートのデータから著者が作成)
総合(2~6歳)
まずは総合(2~6歳男女)です。
(記載の無いプリキュアは放送が無くデータが取得出来なかった年です。
2015年Go!プリンセスプリキュア、2016年魔法つかいプリキュアはトップ10にランクインしなかったため、正確な数値はありません。)
2007年「Yes!プリキュア5」の頃は34.8%(100人中35人が見ていた)のが、
2016年「魔法つかいプリキュア!」では21.5%以下(100人中22人以下)になっています。
2007年から徐々にプリキュアの視聴率が下がっていることが伺えます。
この「総合」データはプリキュアをおそらく自主的に見ていないであろう2歳児も対象に入っているため、年齢別にまとめました。
年齢階層別で見てみますと、
3歳
3歳児は、かつてだいたい100人中30人前後見ていたのが、
2015年「Go!プリンセスプリキュア」2016年「魔法つかいプリキュア!」になってから、20%を切る感じになっています。
4歳
4歳児も同様に、2007年の44%から2016年は23%と、約半減しています。4歳はプリキュアのメインターゲットだと思われます。この年齢層の減少は結構大きいと思います。
5,6歳
5.6歳男女でも2007年は41%だったものが21%まで落ちています。
並べるとこんな感じです。
どの年齢階層でも、
プリキュアの視聴率は年々下がっています。
減少率としては、2016年の数値が確定している4歳と5,6歳で、
2007年と比較して、
4歳 :52.3%
5,6歳:51.2%
と、
プリキュアを「リアルタイムで」見ている子供は、
2007年からほぼ半減しています。
他のアニメはどうなんだろう?
他のアニメはどうなのでしょうか?
この幼児の「視聴率の減少傾向」はプリキュアのみの傾向だけではないような感じがします。
他のアニメの視聴率も調査し、比較しました。
同レポートで調査されている「幼児に見られている人気アニメ」の視聴率の傾向を見てみます。
(プリキュアと比較するために、10年以上放送されているアニメを対象とします。)
まずは「サザエさん」です。
サザエさんとの比較
下記のグラフは4歳児における、「プリキュア」と「サザエさん」の視聴率の推移比較です。(点線は対数近似線)
(サザエさんとプリキュアの比較)
子供のTV視聴率の低下は、プリキュアだけではなくサザエさんでも起こっていることが伺えました。(ただし減減少率はプリキュアの方が高いですね)
ただ「サザエさん」は幼児が自主的に見るというよりも、リビングでついているTVを他動的に見ている傾向が強いと思われます。
従い、これは「幼児のサザエさん視聴が減っている」、というよりも「日曜夕方にリビングでサザエさんが見られていない」傾向と取ることもできます。
他のアニメも見てみました。
ドラえもんとの比較
(ドラえもんとプリキュアの比較)
ドラえもんは2007年から上下動はあるものの比較的安定しています。
ドラえもんは、いつの時代も子供に見られていることが伺えます。
その他のアニメとその減少率は下記の表の通りです。
全体的に幼児のTVアニメ視聴率は落ちてきている傾向ですが、
プリキュアは特に落ちている傾向にあります。
4歳児の視聴率は2007年と比較して、
ドラえもんが91.4%とほぼ落ちていない、
サザエさん、ちびまる子ちゃん、クレヨンしんちゃんが70%前後に対し、
プリキュアは52%まで落ちています。
この減少傾向は一体何が原因なのでしょうか?
女児向けアニメの多様化
2007年当時は、プリキュアは「Yes!プリキュア5」。玩具が売り切れておもちゃ売り場の棚が空になる程の人気があり、(一応は他にも女児向けアニメがあったとはいえ)ほぼ女児向けアニメでは1強だったといえるでしょう。
しかし、
ここ数年はアイカツ!、プリパラ、ヒミツのここたまなど他の女児向けアニメが豊富に放送され、ディズニーなども女児向けグッズを展開し、選択肢が多様化することにより、プリキュア1強の時代が終わりを告げたことも要因の1つにあるのでしょう。
特に5,6歳はプリキュアは早々に卒業する傾向にある感じですよね。
またディズニーが「ディズニープリンセス」を1つのブランド化し、グッズ展開していることも大きいのかな、と思います。
次に「録画による視聴の可能性」も見てみます。
録画視聴の可能性
NHK放送文化研究所のレポートには「幼児の録画番組の利用状況」についても調査しています。
同レポートより抜粋します。
グラフ引用
http://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20161101_6.pdf
これを見る限り、
幼児がテレビを見る時間は年々少なくなってきている
(2006年 2時間19分→2016年 1時間40分)
のに対し、
録画DVD再生の時間は年々増えてきています
(2006年 33分→2016年 54分)
幼児も「TVをリアルタイムで見る」よりも「録画視聴」へとシフトしていっている事が伺えますね。
そういった意味ではプリキュアも録画視聴されている可能性は高いものと思われます。
リアルタイムでも録画でも、きちんと視聴さえされていれば、プリキュアの核となるグッズ、おもちゃなどの売上は維持できるものと思われます。
2016年秋のプリキュア映画「映画魔法つかいプリキュア!奇跡の変身!キュアモフルン!!」は昨年および1昨年の映画よりも好調な推移をみせていますし、バンダイのトイホビー売り上げも昨年よりも好調な様です。
このグッズ売り上げの好調が(リアルタイムであれ、録画であれ)きちんと「プリキュアが幼児に見られている」一つの証拠になるのではないでしょうか。
リアルタイム視聴は確かに減っているのですが、「録画による視聴」が行われている可能性がデータ上はあることが推察されます。
あともう一つ。
インターネット配信について
同NHKのレポートでは、幼児がどのメディアに接触しているか、のデータもあります。
下記にまとめました。
http://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20161101_6.pdfを著者がグラフ化。
データは2~6歳幼児が、計測期間中の平日1日にそのメディアに接触した幼児の人数割合です。
(例えば、2016年の「録画した番組」を見た幼児は100人中72.8人です)
録画した番組をみている幼児は横ばい、
市販、レンタルDVDを視聴する幼児は減少傾向、
ネット動画をみている幼児は上昇傾向です。
2016年はついに、DVD視聴よりもネット動画を視聴する人数が上回りました。
といいますか、すでに38%もの未就学児がネット動画に触れている、という現実を考えると、プリキュアもネット動画関連をもう少し充実させていった方が良いのでないかな、とも思います。
(プリキュアは現在「見逃し配信」や「最新作の1話配信」などもありませんしね。)
ただし、プリキュアも東映アニメオンデマンドなどで、過去作がネットで見られるようになってきたりしていますし、今後も改善されていくものと思われます。
ただ、インターネット動画や録画視聴が当たり前になりつつある子供にとっては「リアルタイムでTV番組を見る」という習慣自体が無くなっていくため、当然リアルタイムの「視聴率」は低下していきますよね。
まとめ
1:プリキュアをリアルタイムで見ている幼児は、この10年で約半減している。
2:他のアニメを見てる幼児も減っているが、プリキュアは顕著に減っている。
3:リアルタイム視聴は減っているが録画視聴されている可能性が高い。
4:幼児がネット動画を見る割合が増えてきている。
上記はデータに基づく推測です。
以後は個人的見解です。
個人的見解
このNHK放送文化研究所様のデータを見る限りでは、
女児のプリキュアへの接触が3歳で始まり、6歳で卒業するとした場合、現状は
「流入してくる人数」よりも「流出する人数」の方が多いのだと思われます。
今後、プリキュアという作品を継続していくためには「流入してくる人数」を増やしていくことが必要になってくるものと思われます。(1度入ってくれば3年は継続してもらえる可能性は高まりますが、3歳で入ってこない幼児が5,6歳でプリキュアを見はじめる可能性は確率的には低くなるものと思われます。)
従い「流入の入り口」である2,3歳に向けて玩具や番組を制作していく傾向になっていくことが予測されます。
プリキュアが更なる低年齢に向けて作成されるようになると、今までのプリキュアが好きだった「大きなお友達」の中には「僕の好きだったプリキュアじゃない!」とばかりにネット等で様々な事を言われる可能性もあります。
(すでに若干、低年齢向けに寄ってきている2016年「魔法つかいプリキュア!」でもその傾向が見受けられるように感じます。)
流入経路を確保するために、対象がどんどん低年齢化していく事はホビーアニメでは良くあることですし、これが成功した例も失敗した例も過去にはあると思います。
(逆に大人向けアニメでは、一度つかんだお客様のために、どんどん対象が高年齢化していく傾向がよくありますよね。)
プリキュアの場合、対象の低年齢化と同時に、保護者でもある大人にも受け入れられる必要があると思います。しかしそのバランスを取っていくことはとても難しいのだと思われます。
(「映画魔法つかいプリキュア!奇跡の変身!キュアモフルン!!」はその辺りのバランス感覚がものすごく取れていたと思います。)
東映アニメーションならびにバンダイには過去培ってきた膨大なノウハウがあるものと思われます。
プリキュアというアニメーションが、今後も子供に真摯に向き合った作品群になっていくと良いですね。
2017年「キラキラ☆プリキュアアラモード」がどうなっていくのか楽しみです。
(おわり)