(注)ミュークルドリーミー第28話「まいらマイラブ♡」のストーリーおよびネタバレを含みます
2020年に自分が見たアニメで「話数単位」で1話を選べ、といわれたら、2020年11月8日放送のミュークルドリーミー第28話「まいらマイラブ♡」を推します。
もちろん、ヒーリングっど♥プリキュアも第15話「初めてのケンカ…すれ違うのどかとラビリン」とか第25話「勇気を出して!とらわれのペギタン」とか良作は多かったですし、深夜系アニメもそれなりに観ているのですけど、やはり1話選べと言われたらこれですね。
右から2番目が月島まいらちゃんと相棒のぺこ
ラスト手前「まいらちゃん一家の夕食シーン」は自分的に2020年全てのアニメでベストシーン。
もう、おじさん。ボロツボロに泣いていたの。
悲しいシーンなど一切無いのに。
そこに描かれていたのは、ただの日常会話のみなのに。
ミュークルドリーミー28話「まいらマイラブ♡」は「たのしい会話劇だけで、オトナをボロボロ泣かせる」のです。
まいらマイラブ
序盤、まいらちゃんの誕生日が母親の命日である事があっさりと開示されます。動揺しているのはゆめちゃん達周りだけ。本人はとっくにと母親の死を受け入れている様に見えます。それが伏線にみえるじゃないですか、普通。
作中、まいらちゃんが母親の死を悲しむシーンは一切描かれません。
まいらちゃんとお父さんは京都へお墓参りに行くけど、お墓参り自体のシーンは描かれません。
お団子食べて、お笑いライブを見て帰るシーンだけ。
楽しそうなまいらちゃんとお父さん(とぺこ)。
ゆに様が「悲しそうな事があるかも」と京都までついていったにのに何も悲しい事が起きないので、そのまま何も出来ずに帰ってくるのです。
「まいらちゃんとお父さんがお墓参りに行く事」は悲しい旅行では無い事の象徴です。
ミュークルドリーミー第28話より
病気や死による「母親の喪失」をエンタメとして消費するのではなく、徹底して「まいらちゃんの日常を描く事」で、母親を偲ぶ想いを描くのです。
中盤、ゆに様がなんとかまいらちゃんの夢に入りますが、こちらでもほぼ出番はほぼありません。ゆに様とてまいらちゃんの楽しかった想い出に介入する事はありません(これはゆに様を悪者にしない配慮でもありますね)
ゆに様、なにもしないまま退場し、夢のシーンだけは続きます。
お母さんがバウムクーヘンを好きな事。家族で撮った大切な写真。
ミュークルドリーミー第28話より
まいらちゃんの持ちギャグ「あぽーん」が母親との絆である事。まいらちゃんが雑誌モデルになるきっかけ。
ここでも病室で楽しく会話するシーンは描かれますが、決定的な死のシーンは描きません。
ミュークルドリーミー第28話より
「だから、お母さんも頑張って治してな」
「もちろんや。あぽーんっと治してみせるでぇ」
「あぽーん」
から場面が変わり、少し間を置いて家の俯瞰シーン。
お母さんの死は「家の空気感」で表現されます。
ミュークルドリーミー第28話より
悲しむお父さん。
髪が伸びヒゲがボーボーで、ずっと悲しみに打ちひしがれていた事がわかります。
しかし、それすれもギャグで処理した事に「絶対に悲しい雰囲気にはさせないぞ」というミュークルドリーミーの意志が現われています。
ミュークルドリーミー第28話より
一歩一歩、喪失から立ち直っていく月島家。
喪失から立ち直るために、2人は日常を重ねていくのです。
今話は、ただその日常を描いただけのお話なのです。
夢のシーンは終りかと思いきや、現実からシームレスにつながる夢のシーンが続きます。
まいらちゃんが帰ってきた家には、お母さんの姿。
そこで繰り広げられるのも、日常会話のみ。
ミュークルドリーミー第28話より
良くアニメってこういう母親の死で「悲しいシーン」を入れたがるじゃないですか。
「夢で逢えたお母さんが何か良い事を言うシーン」や「まいらちゃんが心に秘めていた想いを告げる」みたいなものを描きがちじゃあないですか。
でも、この話では「はい、ここで泣いてください!」みたいなシーンが1つもないのです。
そこに描かれるのはただの日常。
想い出のバウムクーヘンではなく、お誕生日ケーキが用意されているのは、まいらちゃんのお誕生日を祝いたい、というお母さんの願い。
ただただ、そこに描かれるのは、お誕生日の楽しい風景。
夢の中の日常だからこそ、普通にまいらはぺこを紹介し、普通にケーキを食べ、普通に紅茶をお替りし、普通にお誕生日に喜び、普通に家族みんなで歌を歌う。
そこにある月島家の楽しい日常。
もうね。
おじさん、ボロッボロに泣いていたよ。
ただの楽しい、日常会話のシーンなのに。
まいらちゃんは「普段は明るく振る舞っているけど、実はお母さんと死別した事が悲しいキャラ」として描かれません。
母親の喪失を前向きに昇華し、母親の大好きだった「笑顔」でみんなを笑わせたい女の子なんですよ。
この「月島家の食卓のシーン」は、2020年アニメの個人的ベストシーンです。
すごいアクションがあるわけでも無く、あっと驚く展開があるわけではない、ただの日常シーンなのに、ずっと自分の心にあり続けるのです。
現実世界。
夢の中でお母さんとケーキを食べた事を父親に語るまいらちゃん。
その食卓には、お母さんが大好きだったバームクーヘンと、娘のお誕生日を祝うケーキがあります。
2年前お母さんが死んでしまった時は、きっとまいらちゃんの誕生日は祝われなかったでしょうし、1年前の命日には、想い出のバームクーヘンだけが食卓に上がりました。
でも、今年は「想い出のバームクーヘン」と「お誕生日ケーキ」2つが食卓に上がるのです。
「母親の想い出」と「まいらちゃんの未来」と。
月島家は、ひとつひとつ日常を重ねていくのです。
「バームクーヘンにバースデーケーキはさすがに多すぎやで」とツッコむまいらちゃんの笑顔。チラっと視線を送り見守るぺこ。
どこをとっても最高のシーン。
「喪失の物語」を、必要に悲しく描くわけでも、過剰に明るく描くわけでもなく、ただ日常をひたすらに描く事で表現するのがミュークルドリーミーらしいですよね。
ラスト、夢の中でもお母さんとボケツッコミをしているまいらちゃん。
目には少しの涙。この姿はぺこのみが知っています。
ぺこは言います。
「夢ってええな。会いたい人にまた会えるもんな」
ミュークルドリーミー第28話より
まいらちゃんとお母さんは、いつだって夢で会えるのです。
夢をダブルミーニングでずっと描いてきたミュークルドリーミー。
将来の夢を叶える事、夢を見つける事の大切さ。
そして、夜に見る夢にも意味を持たせる。
夢の世界で会えるから、お母さんに会えない事は強がりではなく本当に悲しい事じゃない。
夢の世界はまいらちゃんがお母さんと過ごす大切な「日常」なのだから。
だからこそ夢の世界を守る必要がある。
喪失からの回復物語を、日常を丁寧に描く事だけで表現するミュークルドリーミー。
すげえよ
すげえよ
ミュークルドリーミー
このお話に出会えて、良かった。
(おわり)
↓ミュークルドリーミーは各種動画配信サービスで見られます(2020.12.28現在)
この話以外にも良作揃っているので、ぜひ。プチトマトマンとか。